第三十七話 裏話

《ルビを入力…》

香苗の唇が、俺の唇に触れる。

香苗の体重が、俺にのしかかってくる。

ブラウス越しに、大きな双丘の感触が伝わってくる。


香苗の舌は、俺の口の中を蹂躙する。

目をつぶっているのに、舌は自在に動く。

いや、目を開けていても口の中が見えるわけもない。むしろ感覚を研ぎ澄ますにはよいのだろう。


俺はその快感に身をゆだねる。もう慣れたはずのこの一連の動き。まったく飽きることがない。香苗の黒髪の香りが、俺の鼻をくすぐる。


生徒会室のドアがノックされた。

香苗は、名残惜しそうに俺から離れる。


すぐにスポーツ少女の珠江が入ってきた。

「もう希望が来ちゃったから、早く出て。」


香苗が言う。「あら、希望にも見学させたらいいじゃない。」

まあそういう考えもあるか。


珠江は首を横に振る。

「まだ無理ね。それするなら、香苗のときにやってね。早く出て!」珠江は香苗を無理やりにドアの外に出す。


そして俺に飛びついてきた。

「ハルくん、香苗ばっかりなんてやめてね。私にもちゃんとお願い。」

耳元でそうささやいてくる。 俺はどきっとした。


あの健康スポーツ少女の珠江の普段の状況と違い、妙にエロチックだ。

彼女は、俺の耳を軽く噛んでからキスを始めた。


こんなのは初めてだ。

俺も、耳を攻めてあげたほうがいいのだろうか。


珠江のつつましい双丘が、俺に重なってくる。

「ちょうどいい」という表現を思い出してしまう。


健康的な珠江のスタイルにふさわしいサイズ。

そして、抱き合ったときの感触も決して悪くない。


香苗のような圧倒的なパワーではなく、やわらかくあたたかい。

春の日差しのような抱擁、とでも言えばいいのだろうか。


そして唇は上下に動き、舌もいつのまにか入り込んでくる。俺はお返しとばかりに、珠江の口に舌を入れる。


なんだか、共同作業という感じのキスだ。これはこれで悪くない、というか素敵だ。

愛のあるキス、というのはこういうものなのかもしれないな…俺は思った。


感触を楽しんでいるうちに、ドアがノックされる。珠江はゆっくり俺から離れる。そして香苗と希望が入ってくる。


珠江はまだちょっと顔が赤い。

それを見る希望の目は、なんか複雑そうだ。

ちなみに、香苗の目はやはり冷たい。ただその冷たさは、俺に向いているのだが。


そのままランチを始める。

話題は当然、通達のことだ。


「で、結局何がどうなったのよ。」

香苗が俺を問い詰める。


クールビューティの黒髪が揺れる。

目は例によって氷のように冷たく見える。


「大したことはしてないんだけどな。」」

俺はそう言って、話をする。


まず、希望と珠江のために、ワカメちゃんとのことをかいつまんで説明する。要するに、俺とワカメちゃんが対立してしまった、ということだけ言ったわけだが。


そして、その後に、種明かしを三人にする。


「とにかく、ワカメちゃんがすべての元凶だ。だが、五人パシリを含め、誰もがワカメちゃんの報復を恐れている。」


まず俺はそう切り出した。


「えっと、元生徒会長は、ハルくんと何があったの?」希望が無邪気に聞く。


やっぱり、そこを突っ込んでくるか…。


「ワカメちゃんは、俺のイルカの加護で、山口会長を口説きつつ、最終的には風見先生をターゲットにしていたんだ。ターゲット、って彼氏にすることじゃなくて、その気にさせてこっぴどく振ることなんだよ。」俺は説明した。

「何それ、ひどい。」希望がつぶやく。


「俺はワカメちゃんの頼みを断った。そうしたら、一年生の女の子を使って俺を呼び出して、キスシーンを撮影して風紀委員長に取り締まらせるつもりだった。」


「え…それでどうなったの?」希望が心配そうに尋ねる。


「それを知らせてくれた人がいて、俺は何とか難を逃れた。俺は、ワカメちゃんと風紀委員長がキスしてる写真を手に入れて、怪文書を作ったのさ。」


「やっぱり、あのビラはあなたね。」香苗が納得した感じで言う。ま、山口会長も気づいていたようだしな。


「ねえハルくん、そんなことして大丈夫だったの?ちょっと間違ったら大変よ。」


珠江が言う。珠江みたいな素直なスポーツ少女は、悪いことなんてこれっぽっちも考えないからな…。


「もちろん、いろいろリスクはあった。だが放っておいてもワカメちゃんが俺を攻撃することは避けられないから、攻撃は最大の防御っていう方法を採ったのさ。」

俺は答えた。


「そうだったのね…風見先生はどうなの?」香苗が聞く。


「風見先生がどうしたの?」珠江が聞く。希望も珠江も、その辺の事情は知らないからな。


「今回、理事会に働きかけたのは、風見先生なのよ。先生から理事長に話をして、理事会動いて、結果としてあんな通達が出たの。若芽さんは直接のお咎めはないけど、ハラスメントはしません、っていう誓約書を出したみたい。」


香苗が解説した。


「そっちはよく知らない。ワカメちゃんに彼も迫られてたから、さすがに怒ったんじゃないか。」


俺は誤魔化した。


実際のところはまだ話が続く。


左右田麗奈の願い、すなわち風見先生をワカメちゃんの魔の手から救ってほしい、という願い。

カフェ Afternoon Kissのバイト、一年生の莉乃の、左右田勝男とつきあいたい、という願い。

そしてカフェのオーナー、珠純子さんの、風見先生とつきあいたい、という願い。


 

これらをまとめて叶える必要があった。そのためには、ワカメちゃんの言動を抑えて、五人パシリを解散させることが不可欠だ。


俺は文芸部の左右田麗奈に頼んで、ワカメちゃんの日記風、彼女の不埒な悪行三昧記録を作ってもらった。 細かいところは俺が直したが、基本的には、左右田勝男からの情報基づく彼女のオリジナルだ。 


もちろん、左右田勝男は、妹がそんなものを書いたとは思っていないだろう。


左右田勝男は、ワカメちゃんの行動記録を俺に教えてくれたし、日々の彼女の言動の写真、ビデオをくれた。 その中には、彼女のパワハラ発言が満載だった。


「あなたの父親は大岩商事で働いてるのよね。パパに言えば、あなたの家がどうなると思ってるの。」

さすがにこれはアウトである。


これらの情報を整理し、文章はプリントし、ビデオ、音声ファイルはUSBメモリに入れた。そしてそれを、オーナーに渡したのだ。


オーナーは、土曜日に店を早じまいして、先生と食事に行ったのだ。

もちろん、彼女が誘って。


俺がやったのは、彼女からのデートの誘いのレターを、先生に渡すことだ。

無事にデートにこぎつけた夜、彼女は愛をささやくのではなく、彼を純粋に心配して、これらの資料を彼に渡したのだ。


オーナーが彼に「危ないことはしないでくださいね。」と伝えたら、「首になったらここで雇ってもらえますか?」と言って笑ったそうだ。


オーナーは胸がいっぱいになり、

「はい、いつでも!」と答えたそうだ。あまりの大声に、周りから注目を浴びてしまったらしい。


その後、そんなことは言うべきではなかったと思い、真っ赤になったり真っ青になったり大変だったらしい。


実は、風見先生は、この一連のことを理事長にチクるのにあたり、辞表を用意していったようだ。

教え子を導くべき教師が、断罪するようなことをするのは、教師としてあるまじき行為だ、と言うのだ。


だが実際彼は被害者だし、彼のお陰で救われる若者たちがたくさんいることは確かなので、それを問題視する人間はいないだろう。


実際、辞表を出そうとしたら、「まさか辞めるなんて言わないよね。」と理事長から釘をさされたらしい。この辺は、オーナー情報だ。ずいぶん細かいこと知ってるな。


一連の騒動が落ち着いたら、先生からオーナーをデートに誘うことになっているそうだ。学園祭明けになるだろうが、二人の距離は毎晩のメールで順調に近づいているらしい。


ちなみに、先生の両親は離婚歴ありなので、バツイチなどはまったく気にしていないようだ。


というか、風見先生の元カノもバツイチ年上、って結局年上好みなんだな。 だからこそワカメちゃんの攻撃は効かなかったし、左右田麗奈が、自分の恋はかなわないと直感的に思ったのかもしれない。

だが、俺は彼女たちとの約束はちゃんと果たしたわけだ。



今度の週末、莉乃はバイトを休む。左右田勝男が遊園地に連れて行ってくれるからだ。あとは正直なところ二人の問題だ。 


五人パシリが解散した今、左右田勝男としても時間は十分あるはずだし、見る限りでは左右田勝男も莉乃が好きだと思う。



なお、後日談になるが、莉乃は左右田勝男と付きあうことになったし、風見先生は、オーナーと結婚を前提に付きあうことになる。


風紀委員長の飯野加奈は、左右田勝男が莉乃と付き合い始めたことを知り、ちょっと泣いたそうだ。


だが、彼女に対して、複数の女子からアプローチがあったようだ。風紀委員長といして、あまり風紀を乱すことはできない、と思いながらも、放課後、校外で、制服を着ていなければいいという結論に達したらしい。


そして、誘われた一人の女子の家を訪れたそうだ。そこで着替えて二人で出かける予定だったようだが、着替えの途中で状況が変わったらしい。

まあ、それ以上は言うのも野暮だろう。



そしてワカメちゃんは、体調不良を理由に、学校を休んでいる。

彼女の場合、すでに推薦入学も枠を確保しているので、進路には問題ない。


父親から、自宅謹慎を言い渡されているらしい。さすがに、娘が親の権力を振りかざして

断罪された、というのはいくら可愛い娘だとしても耐えられなかったらしい。


五人パシリのアドレスは彼女のスマホから消えたし、五人パシリはワカメちゃんのメッセージを着拒することを推奨されている。 いざとなれば、学校で話せるというのだ。まあその通りだな。


そういえば、SDカートを左右田勝男に返そうとしたら、要らない、と言われた。アドレスのバックアップは撮ってあるし、忌まわしい思い出の録画とか録音は要らないとのこと。


ちなみに、ワカメちゃんのパンチラ写真はどうだ、と聞いたら、「それはバックアップを取ってある」との返事だった。まあ、有効活用してくれ。外部に出さないなら、見て楽しむくらいは許されるだろう。


ただし、彼女候補の莉乃や、純粋な妹の麗奈に知られないようにな。



と、こんな感じで、裏話を含め、ワカメちゃん問題はだいたい一件落着したということになるな。



ーーーーーー

ちょっと複雑すぎる説明でしょうか…。


前回、イチャイチャがなかったという指摘をいただいたので、今回は冒頭から味わうシーンを入れました(^▽^)/


次回、やっと白石真弓の登場です。

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