第二十五話 メニューとサッカー部
木曜の朝になった。
俺はスマホをチェックして、連絡を確かめた。予想通りだ。
今日は愛妹弁当の日だ。妹が弁当を詰め終わるのを歯磨きしたり身づくろいしながら待ち、一緒に登校する。
「お兄ちゃん、ありがとう。」妹が言う。
「どういたしまして。お前が満足なら、俺も嬉しい。」俺も答える。
「でも、ちょっとだけ…」妹が言い淀む。
「ばーか。」俺は妹の頭をちょっとこづく。
じゃれあいながらの登校も、なかなかいいものだ。
学校に到着し、妹と別れ、自分の靴箱に行くと、何かレターが入っていた。可愛い花模様がついている。
開けてみると「今日の放課後、校舎裏に来てください。わかめ」と書いてある。
サザエさんじゃあるまいし。なんだこれ。まあ、ちょっと嫌な予感はするが、それは考えないことにする。それに、今日の放課後はたぶん忙しい。こっちの都合も聞かず勝手に呼びつけるのはちょっといただけない。
対応については場面で考えることとして、気持ちを切り替える。
教室に入ると、ご機嫌な顔で浮かれる高円寺がいた。こいつはお調子者だが、決して悪いやつではない。この前、なぜか俺の頭をぽんぽんした奴でもおある。
俺の顔を見るなり、駆け寄ってきて言う。
「おお三重野、お前の加護のおかげだ!」
高円寺がご機嫌で言う。
「なんのことだ?」俺はしらを切る。
「俺に彼女ができた!お前の頭を拝んだおかげだ!」嬉しそうに話してくる。
まわりにいた連中の数人は「え~~~~!」と言った。多分、自分に彼女がいないからやっかみだろう。高円寺は背も高いしそれなりにモテるやつでもあるんだ。まず周りの連中はそれを自覚しろ。
それはさておき、俺は高円寺に「おお、そうか。それはおめでとう」と言った。実は、このことはすでに勝田佳那ちゃんからメッセンジャーで報告を受けている。彼女は彼女で幸せそうだ。
「で、どんな相手?きっかけは?」と一応聞いてみると、高円寺が嬉しそうに説明を始める。
「おお、一年後輩の女の子の子だ。まあ、前にそいつが転びそうになるのを助けて上げたことがある。ただそれだけだ。あとは集団で遊んでたんだけど、先日三重野のお告げで誘ってみたら、いい雰囲気になって彼女になってくれた。いや~本当にご利益あるな~。お前らも、失うものないんだし、やってみたらどうだ?」
高円寺はその辺にいた連中をけしかける。
「おいおい、たまたまだぞ。誰にでも彼女ができるなら苦労しないだろ。」俺は一応釘を刺す。
すると、高円寺の次くらいにお調子者の坂上が、俺のところにやってきた。
「おい、どうしたらいいんだ?」どうするも何もないんだが。
「こいつの頭をぽんぽん叩いて、、願い事言ってみろ。」高円寺がけしかける。
「おお、そうなのか。」そういって、中野は俺の頭を叩きながら、「彼女ができますように!」と言った。
ちょっとの沈黙の後、坂上は俺に聞いた。
「おい、お告げはあったか?」
あるわけないだろう。お前にはな。
俺は首を横に振って答えた。
「うーん。お前には何も感じなかったが、なぜか、向こうに座ってる小西のことが浮かんだ。」
一列向こうで本を読んでいた図書委員長の小西が、自分の名前を呼ばれたので、こちらを見た。
「小西、図書館と昼休み、ってのがラッキーアイテムらしいぞ。何か幸運があるかもしれない。信じなくてもいいが、一応言っとく。」
俺は、今までほとんど話したことのない小西に、そう言った。まあ、これで坂上も納得するだろう。たぶん。
「悪いな、これで営業終了だ。」俺は坂上に言った。何度もできるようなものじゃないからな。
「話は変わるが、お前たち、誰かサッカー部のキャプテンを知ってるかz?」尋ねてみた。
高円寺が答える。
「おお、サッカー部のキャプテンは、D組の四谷だ。知ってるか?」
まったく知らない奴だ。
「いや、知らない。まあいいや。そこまで行くのも面倒だし。」
「サッカー部のこと知りたいなら、うちのクラスの中野が部長だぞ。まだ来てないが。」高円寺が付け加える。
「へ?部長とキャプテンは違うのか?」
俺は尋ねた。
「サッカー部で目立ってるのはキャプテンの四谷だ。校内のだいたいの奴は、サッカー部の代表は四谷だと思ってる。一年からレギュラーとして活躍してるし、練習も熱心だ。だが、あいつはサッカーは好きだが、事務能力はからっきしだ。サッカーがうまいチンパンジーみたいなものだ。だから、しっかりした中野が部長として雑務をやってるのさ。今、廃部の危機みたいだから、たぶん部員集めにかけずり回っているんじゃないのか?」
浮かれた高円寺は親切にいろいろ教えてくれる。こいつ、結構便利だな。
しかし、サッカーのうまいチンパンジーってのもちょっと興味あるな。まあ男だからどうでもいいか。
「サッカー部って部員が足りないのか?」俺は聞いてみた。
「そこへ、顔色の悪い男がやってきた。」
「どうせ部員がいねえよ!」ちょとやさぐれたクラスメイト、サッカー部の部長の中野だ。クラスメイトなのに、こいつが部長だなんて知らなかった。
「サッカーに興味があるのは誰だ?部員絶賛募集中だぞ!」中野はポケットからチラシを出して、俺たちに配り始めた。
「男子サッカー部 部員募集。経験不問。いまなら即レギュラー。二年生歓迎。」あとはサッカーボールのイラストと、中野の電話番号が書いてある。
「今も校門で配ってきたんだが、反応は悪い。」中野は言う。
だいたい、生徒会の了解取っているんだろうか?
「ちょっと聞きたいんだが。」俺は中野に尋ねた。
「お、サッカー部に来てくれるのか?大歓迎だぞ」中野は急に元気になった。
「いや、ちょっと聞きたいだけだ。部員、あと何人必要なんだ?」俺は聞いてみた。
「今、5人しかいないんだ。3年が引退したと同時に、二年も少し辞めて、この人数になっちまった。女子マネージャーもいない。人数が足りなそう、と思って先に辞めちまった二年生もいる。残った連中もみんなモチベーションを失ってるから、あまり練習も出来ない。あと7人、いや6人でいいから欲しいんだよ。集まらないと廃部だって、生徒会にも言われてしまった。」
「そうか…うまく集まるといいな。生徒会も結構厳しいんだな。」俺は中野に言った。
「意外に会長さん、硬いんだよ。部員いないならフットサル同好会にでも変われ、とか言うんだぜ。でも、それは城北との対抗戦にも、全国予選にも出られないし、テレビで中継もされない。」
意外なことを言われた。
「サッカー部ってテレビに出るのか?」俺は驚いて聞いてみた。
「地区予選の準決勝からは、地元のテレビで中継するんだよ。決勝なら、部の紹介ビデオだって放送される。」
それは知らなった。
「サッカー部って準決勝まで行ってたのか?」俺はおどろいて聞いた。
「10年前に一度だけベスト8になって、次勝てばテレビだ、ってことはあったらしい。」
なんだ、実績もないのか。。
「それで、いつ頃までに廃部が決まるんだ?」俺は尋ねた。
中野は嫌な顔をした。
「廃部8が決まるとか言うなよ。部員を集めるデッドラインは、10月5日だ。そこで、城北との定期戦のメンバーを提出する。出せないなら廃部だ、と言われているんだよ。あと数週間しかない。とりあえず助っ人を頼むとかいろいろ考えるけどな。」
マンガとかラノベで、助っ人で試合に出るってパターンがあったなあ。だいたい野球だが。
野球マンガで昔「ドカベン」ってのがあったんだが、あれは最初柔道マンガだったらしい。だが、作者が野球しか知らないので、途中で柔道ネタに困り、いきなり全員柔道部から野球部に変わって野球漫画になったらしい。まあ、どうでもいいんだが。ダイヤのAやメジャーが柔道とか、さすがに考えられないな。
「入りそうなやつがいたら、声をかけてみるよ。ただ、あまり期待しないでくれ。」俺は中野に言った。
「幽霊部員でもいいから、ぜひよろしく。」中野は答えた。そろそろホームルームが始まる。
結局、今日になっても学園のアイドル、高部希望は学校に来ていない。三日連続休みだ。俺としてもちょっと心配になる。俺の責任か、と言われるとちょっと微妙ではあるんだが。
一応メッセンジャーで「大丈夫?」と送ってみた。とりあえず既読スルーだ。まあ、生きていることはわかったのでよしとしよう。
昼休み。今日も生徒会室でランチにした。会長カップルは違うところで二人きりだし、もう一人、会計の「忙しい女子高生」香田みゆきは図書館だ。なので、香苗、珠江とキスするのにはちょうどいい。
今日はまた香苗からだ。相変わらずの激しいキス。
そのあとの珠江は、とてもやさしいキスになった。嵐のあとのやわらかな太陽のような味わい。
珠江の気遣いが伝わってくる。本当にいい子だなあ。もちろん、香苗の激しさも素晴らしい。
愛妹弁当の桜bでんぶハートと、香苗のサンドイッチ、珠江のタコさんウィンナーでランチ。今日も美味しいな。
ランチが終わるころ、香苗のスマホが鳴った。
「今日の相談ね。え?今から?もちろんいいわ。じゃあ、生徒会室に来て。」
香苗は俺たちに言う。
「料理部の、学園祭で出すメニューの相談に今から来ることになったの。話を聞いてあげてね。」
もともと放課後のはずだったような気がするが、まあいい。
ほどなく、小柄で地味目な少女が現れた。緑リボンだから、二年生だ。
料理部といえば毎日食事をつくって食べてばかりのボリューミーな人かと思ったら、そうでなかくて小柄で華奢だ。ウェーブのかかったセミロングの髪型で、カチューシャで止めている。化粧している感じはしない。だが肌は綺麗だ。 そして胸は、全体的に小柄なので、それなりだ。珠江よりももっと細い。
「いらっしゃい。紹介するわね。こちらは陸上部の倉沢珠江さん。有名人だから知ってるよね。あと、彼は助っ人の三重野ハルくん。」俺たちは軽く頭を下げる。
彼女は、俺の胸のバッジを見て、「イルカの人だ…」とつぶやいた。
そして気を取り直して挨拶する。
「初めまして。料理g部の部長をやってます、境 和歌です。」ぺこりと頭を下げた。
「「よろしく。」」俺と珠江は声を上げる。
ちょっと世間話の後、本題に入った。
「料理部は毎年、学園祭でクッキーを売っています。それはそれで好評なんですけど、他のクラスとかで焼きそばとかホットドッグが出ているのに、料理部がクッキーっていうのはどうなのよ、という声が出ています。お昼ご飯になるものを出してほしい、という要望ですね。 それで、どんなものがいいか、副会長に相談していたんです。ちなみに、学食も売店も休みですよ。」
なるほど。
「ご飯は炊けるのかな?」俺は聞いてみる。
「もちろん大丈夫です。学食の炊飯器も借りられるので大量にも作れます。」
「普通に考えると、サンドイッチか、あとはドンブリものかしらね。牛丼とか。」珠江が言う。
「そうなんですけど、牛丼だと、女の子が買いにくいという声もあります。サンドイッチやおにぎりでいいかも、とは思うんですが、暖かいものがいい、という希望もあったりするんです。大きなお鍋もあります。」
俺は考えた、これでイケるんじゃないかと思う。
「一日、時間をくれないか。 明日の放課後には提案できると思う。」
香苗が言う。「何かアイディアがあるの?」
「ああ、あるんだけど、確認事項がいくつかあるんだ。それが解決すれば、たぶんいけると思う。生徒会にもメリットのある話だ。」
香苗は納得したようだ。「よっぽどいい案なのね。変なものだったら承知しないからね。」ちょっと怖い顔だ。
「あの、ご質問があるかもしれないなら、とりあえずメッセンジャーのID交換しませんか?」境が提案してくる。
「ああ、よろしく。」俺はそういってスマホを出す。 IDを交換して、彼女からテストメッセージのスタンプがくる。女子高生に人気のモデルの似顔絵だ。 俺は無料スタンプで返事をした。
一連の動作を、香苗が意味ありげに見ている。
おい、俺って手当たり次第じゃないんだから。仕事として頼まれたものはきっちりやるぞ。多分。
ちなみに珠江は、そんな疑いはつゆほどもないようだ。素直なのはいいよな。
というわけで今日もせわしない昼休みだった。
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ここまでお読みいただいて、ありがとうございます。
最近、字数が増えてきました。最初のころの倍くらいです。
もっと短く分けてもいいんですが、まあとりあえずこれくらいの長さで切るようにします。。
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