第3話 始まりの日(2)
午後の授業中、メッセージが入った。
一言「五千円持ってる?」
何だこれは。新種のカツアゲか?
俺がキスしたいからって、5000円でキスできるのか?
…相手が希望(ノゾミ)ならぜひお願いしたい。
学年で一位とも言われるあのかわいい子だ。
二年生三大美女の中でも、一番の正統派だからな。
クールビューティの高橋香苗は、ちょっと近寄りがたい感じの美女だし、スポーツ少女の倉沢珠江は、可愛いけどマニア受けの部分が強いかもしれない。
ついでに「妹」の原中理恵は、すでに売約済みだしなあ。それに、同じ「妹」ならうちの妹のほうが上だしな。
まあ、それはさておき、俺はもしかして…という下心満載で、「あるよ」と答えた。。
もしかして、キスでもエンコ―になるのか?などと思いつつ、放課後を待つ。
いわゆる、期待に胸と股間を膨らませて、ってやつだ。股間は隠してるけど。
ただ、俺は美人だからどうの、というのは実はあまり気にしないんだ。
俺の妹がとても可愛いので、彼女が世界一だと思えてしまう。シスコンだと言われると、そうなのかもしれない。だが、俺はたぶんシスコンではない。なぜかというと、妹のウザいところもよくわかっているから。
可愛くてもウザいのは妹で実証済み。カワイクなくてもウザいのは白石真弓でわかってる。つまり、女子はある程度ウザいんだ。美人でもカワイクてもそうでなくてもな。
さて放課後、またウザくからんでくる残念少女の白石真弓を適当にあしらい、俺は旧校舎の視聴覚室に忍び込んだ。まあ、普通に入っただけだが。
驚いたことに、希望はもう来ていた。ただ、電話している。
相手は誰だろう?
「カオルさん、知り合いの男の子、五千円でお願い。うん、クラスメート。そんなんじないの。何もつけないでしてほしいの。うん、触って、手がべたべたにならないようにお願い。うん。4時半ね。名前はハルくん。よろしく!」
…何なんだ。五千円で、キスどころか、いきなりもっとすごいステージへ?
そこで希望は俺に気づいた。
「いらっしゃい。じゃあ、これから、HKHPの第一回ミーティングを始めます。はい、拍手~~」
わけもわからず俺は拍手する。希望は、口で「どんどんぱふぱふ」などと言っている。これこそ、何なんだ?まったくわけがわからない。
「じゃ、始めるね。」と、希望は俺に軽く言う。
「ちょっと待った。」俺はそこで希望を止める。
「なんのことやら意味がわからない。さっきの怪しい電話は誰だよ。あと、HKHPって何だ? 香港のホームページじゃあないと思うんだが。」
希望はにっこり笑った。花が咲いたような笑顔だ。ちょっと目が垂れるのも可愛い。泣きぼくろも一緒に動くんだなあ、などと俺はしょうもないことを考えた。
「まず、HKHPね。これは、「ハルくんキス放題プロジェクト」の略称です。わかりやすいでしょ!」
わかるかそんなもん。
「あ、キス放題プランのほうがいい?」
「いや、スマホの料金体系じゃないんだからやめてくれ。」俺はとりあえず断った。
「じゃあ、やりなおし。ハルくんキス放題プロジェクト。最終的なゴールは、ハルくんがたくさんの女の子とキスできるようになることね。よりどりみどり、キス放題。」
希望は屈託のない笑顔でそのように告げる。
「できるわけないよな、そんなこと。」俺は、そのゴールの遠さに茫然とする。それって、エベレストの頂上か、南極点か、それとも水平線のかなたじゃないのか? ひとつなぎの宝石を探すより難しそうだ。
希望は気にしないように答える。「千里の道も一歩から、って言うでしょ。まずはハルくんが変わらないとね。」
まあ、もしかしたらそれも一理あるかもしれない。
「というわけで、ちょっと考えてみて。女の子がキスしたい相手ってどんな相手?」
希望は俺の目を見ながら問いかける。
俺は女の子じゃないから、わかるわけないんだが、とりあえず無難なところで。
「うーん。イケメンだったらいいんじゃない?」
希望はちょっと顔を曇らせる。
「それはもちろんそうなんだけど、今からハルくんをイケメンにするのは無理よね。」
ぐさっ。俺の胸に言葉のナイフがクリティカルヒットした。
「自分にあてはめて考えてほしかったんだけどな。じゃあ、逆に、女の子がキスしたくない相手って、どんなの?」
これなら考え付くぞ。
「うーん。ブサメン、キモオタ、太って脂ぎってる、ぼっち、目立たない、不潔、下品。そんなところかな。」なんか、一部ブーメランがありそうなんだけど、気づかないふりをする。
希望はそれに対して笑顔で
「だいたい正解ね。で、この中で、気を付ければ避けられるものがあるの。それは、『不潔』よ。」
まあ、何となくはわかるんだが。
「というか、清潔感がとっても大事なの。もちろんイケメンに越したことはないけど、不潔なイケメンより清潔感のあるフツメンのほうが好感度は高いのよ。」
さいですか。でもブサメンじゃないのね。
「それはなんとなくわかるな。」
希望は続ける。
「ハルくんは目立たないフツメン。だから、清潔感をただよわせておけば、それで十分。香り系はあまり要らないわ。ちょっとだけコロンつけるくらいかな。」
「コロン?桐の箱に入っていて、入院したときしか食べられないやつ?」と、俺も一瞬ぼけてみた。
「それはメロン。でも続けないわよ。」さいですか。
希望はスマホをいじり、俺にメッセージを送ってきた。
リンクがついている。
リンク先は、駅前のビルの上にある美容院だった。名前は「シブリング」だそうだ。あまり聞いたことがない単語だな。
「4時半に予約したから、ちゃんと行ってね。カオルさんが私の担当で、夕方の時間は暇だから安くやってくれるの。五千円だからね。」
え?五千円って安いの?俺の床屋なんて、1000円とか2000円なんだけどなあ。
茫然とする俺に、希望は言う。
「ポイントは清潔感。あと、今後、整髪料はつけなくてもまとまるようにお願いしてね。頭を触ったときにべたついたら嫌だから。」
さっきのはそれか。
何も付けない、って、ゴムじゃあないんだよな。そりゃそうだ。
「頭を触るって?」俺は疑問に思い、尋ねた。
希望はいたずらっぽく笑い、口に指を一本縦に当てて言う。
「それは、ナ・イ・ショ!」
「はい、今日のHKHPはここまで。じゃあハルくん、美容院いってきてね。今からならちょうどいいころよ。カオルさんにヨロシク伝えておいてね。」
希望はそう言って、鞄を手にした。
人に見られないように、別別に出ることにしたので、彼女が去ってから3分経ってから、俺も視聴覚室を出て、美容院に向かった。
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ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
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