第4話 始まりの日(3)
ご注意; 本日は2話追加しています。
もし第三話を読んでいない場合には、そちらからどうぞ。
美容院「シブリング」は、駅前から一本入った道にあるビルの二階にあった。通りから階段で上がっていくスタイルだが、道からは中が見えないので、ちょっと一見さんには敷居が高いかもしれない。
まあ、美容院に行ったことのない俺、三重野晴(みえの・はる)からすれば、何でも一緒ではあるのだが。
階段を上って、おそるおそるドアを開ける。
「いらっしゃいませ~」背の高い男性が迎えてくれる。
とりあえず、カオルさんを呼んでもらおう。どんな女の人かな。
俺は、やはりおそるおそる告げる。
「あの、カオルさんをお願いします。予約したハルです。」
「ああ、やっぱり。あなたがハルくんね。あたしがカオルよ。よろしくね!」そう言うと、この人はウィンクした。カオルさんってオネエの美容師だったのか。まあ、イメージといえばイメージなんだが。
「ノゾミちゃんから聞いたわよ。整髪料つけなくっても何とかなるようなスタイルにすればいいのね。なんか好みあるかしら?」カオルさんが聞いてくる。
「いや、そう言われましても、正直、見当がつきません。」俺は正直に答えた。それが、カオルさんには好感度高かったらしい。
「正直でいいわね。変に拘るより、ここはアタシに任せて頂戴ね。」そういうと、カオルさんはスタイルブックを出してきて、ぺらぺえらめくる。
「こんな感じかしら。」イケメンの髪型だ。はっきりいって、イケメンは何しても同じだろうと思う。
「ちょっとウェーブかけて、メッシュ入れるわね。伸びてきても違和感がないような感じで、ちょっとだけにしとくわ。」
さいですか。よくわからない。
「じゃあ、先にシャンプーするわね。」そういうとカオルさんは俺の頭を洗面台に向けて倒した。床屋は前向きだが、美容院は後ろ向きにシャンプーするんだな。
なぜだろう。
あ、女性の場合、化粧が崩れないようにするためなんだな。今時は男でもメイクしてるのもいるかもしれないしな。特に美容院に行くような奴は。イケメン死すべし。
軽くドライヤーを掛けたら、髪に色を付けられた。。
え?何するの?
「あの、まさか金髪にするんじゃないですよね?」
不安になって聞いてみる。
「まさか。ちょっとだけよ。自然に明るめにするだけ。ハルくんの場合、それで全然感じが変わるからね。全部やっちゃうと、地味目の顔が髪のインパクトに負けちゃうの。」
どうせ地味な顔ですよ。まあ、事実だし、金髪にされても多分似合わない。うちの母親なんか卒倒しそうだな。
そのあと、ちょこちょこカットされたあと、カーラーを巻かれた。
チリチリにならないかちょっとだけ心配だったが、カオルさんは
「ウェーブがかかる感じに調整するから安心してね。」」と言ってくれた。
眉毛や鼻毛も整えてくれたが、ひげは剃らなかった。
美容室では、剃刀でひげをそるのは法律で禁じられているんだって。ちょっと不思議だな。
切ったりドライヤー掛けたり、なんかでっかい帽子みたいなものをかぶったり。美容室は、床屋より待っている時間が長いような気がする。 だから雑誌とかおいてあるのかな。タブレットもおいてある。
出来上がりを鏡で見て、自分ながら驚いた。これが俺?
軽くウェーブがかかっていて、生え際にはちょっとメッシュも入っている。全体的に明るめの髪色になり、メッシュがうまくアクセントをつけている。 j
「うん、うまくできたわ。」カオルさんは自画自賛した。
「モデルはいまいちですけどね。」俺は自虐的にいう。
「そんなこと、ないわよ。ハルくんはちょっと地味だけど、決してブサメンではないし、普通よね。髪型を変えると、普通でも周りに埋もれなくなるの。言い換えれば、目立つわけね。」
「あまり、目立ちたくはないんですが。」俺は抵抗を試みる。
「でもね、人は見られて向上するのよ。ハルくんも、これからは少しずつでいいから人目を考えてね。まずは清潔感が大事よ。」
希望と同じことを言っているな。
「世の中、美男美女カップルだけじゃないでしょ。美女と野獣、綺麗な女優とお笑い芸人、相撲取りとモデル、じゅんとネネ、キララとウララ、サンダとガイラ、鬼畜眼鏡と誘い受け、みたいにいろんなカップルがいるのよ。」
なんだか後半はよくわからない。同性も多くないか?
「とにかく、自分の良さを出して、見てもらうのが一番よ。イケメンにはかなわなくても、あなたにもファンがそれなりにできるわよ。」
そうかなあ。そうだといいかもな。
そのあと、清潔感を保つための身だしなみについて、注意を受けた。
スラックスにちゃんと折り目を入れて、シャツもしっかりアイロンをかけたほうがいいそうだ。イケメン連中は結構崩しているんだが、あれは応用編。イケメンは基礎をわかった上で崩してる。 知らないで崩すのは、ただだらしないだけなんだそうだ。でも納得だ。
基礎的だが、清潔なハンカチをもつとか、鼻毛を出さないなんてのもある。
当たり前といえば当たり前なんだが、普段全然意識していなかったな~。櫛とブラシと小ばさみと電気カミソリをポーチに入れて持ち歩け、と言われた。鼻毛もアホ毛も処理しろとな。
この髪型は、朝、ドライヤーをかければ10分で整うそうだ。朝シャンまではしなくていいんだな。整髪料をつけないでも何とかなるのはありがたい。
ちなみに、カオルさんに普通にやってもらうと一万円くらいかかるらしい。夕方は主婦もOLも来ないから、空いてることが多いんだって。ちなみに、銀座の美容院は、出勤前のお姉さまたちで混んでたらしい、。
香りについては、試供品を3種類もらった。両耳の後ろに一滴ずつでいい、と言われたので、当分は持つだろう。
香水つけすぎた男なんて、気持ち悪いだけだしな。
というわけで、今回は十分に五千円の元は取れた。希望(のぞみ)に感謝だ。
とはいえ、今月の昼食代のはずだった五千円、ちょっと痛い。昼飯、これからどうしようか、などと考えながら帰宅した。
「ただいま」家に戻り、玄関を開けた。まだ両親は帰っていないが、妹が戻っている。
わざわざ出迎えに来た妹が、「お帰り…」と言ったところで、固まった。
「え…」人をお化けでも見るような目で眺めるなよ、おい。
妹はじきに気を取り直して再起動する。
「お兄ちゃん、すごい!かっこいい!イケメン!すばらしい!ついに、私のアドバイスを聞いてくれたのねええ。」
すごい喜びようだ。
ちなみに、妹の名前は笑美。これで「えみ」と読む。三重野笑美。みえのえみ。実は回文なんだ。小池恵子、中田加奈につづく3大回文氏名だ(当社調べ)。
妹には、今まで何度も「私のお兄ちゃんらしく、もっと目立つように雰囲気を変えて」とか言われてきた。
うちの妹は、かなり可愛い。というか、うちのクラスの原中理恵にもひけを取らない。
高校の入学式の日に、3人から告白を受けるという快挙?を成し遂げた。自分で意図したわけではないので快挙というのも変だが。もちろん、すべて断っている。
背はそれほど高くもないが、大きな目、整った顔立ち。適度な大きさの胸。髪型はバドミントン部のため短めだが、明るめに染めている。
名前の通り笑顔が美しい。というか可愛い。
みんな、こんな子がいたら妹にしたい、と思うような、ザ・妹 という感じで、庇護欲をそそり、守ってあげたくなる。
もちろん、自分の妹だし、昔から二人だけで過ごす時間が長かったので、絶対に守る。妹も、反抗期とかで親には反抗することがあっても、兄には優しい。まさに理想の妹だ。
「お兄ちゃん、今日は、ここ数年間で初めて、お兄ちゃんの妹で本当によかったと思ってるよ。」
なんと大げさな。
だがそれも可愛い。そんな風に思う自分は、シスコンなのかもしれない。。
俺は、玄関に立ったままで言う。
「実は、笑美に頼みがあるんだよ。」俺は帰り道に考えていたことを告げる。
「時々でいいから、俺にも弁当を作ってくれないか。美容室に行ったせいで、昼飯代がなくなっちまったんだよ。」
実は妹は時々自分で弁当を作っている。こいつはバドミントン部で、結構朝練があるんだが、朝練のない日は自分で弁当を作っている。朝練のある日は、朝食を俺の分とあわせて作り、昼食は学食で済ませているようだ。
「じゃあ、週に二日ならいいよ。月、木ね。今日は水曜だから、あしたは作ってあげる。その代わり、中身が何であっても文句は言わないでね。あと、帰ったら必ず弁当箱は洗っておいてね。」、
それくらいでいいなら、大歓迎だ。
「ありがとう、笑美。俺は、いつもいつもお前が俺の妹でいてくれて幸せだと思っているよ。」今日は本心である。
「感謝だ。お金はないけど、何かお礼しないとな。」俺は妹にいう。
「じゃあ、ちょっとお礼についても考えておくね。晩御飯作ったとこだから、着替えてきてね。」
ちなみに、うちの両親は共働きで帰りもいつも遅い。そのため、兄妹で夕食を食べることが多い。
うちの冷蔵庫には、冷凍食品が山のように入っている。それに生野菜もある。
実は、四人家族なのに、業務用の大きな冷蔵庫があるのだ。家を建てるとき、冷蔵庫の設置場所と方法をメーンに考えたとか母親が言っていた。大きな冷蔵庫を買うと、キッチンに入らないで返品するケースもあるらしい。
冷蔵庫を置くスペースがあっても、途中の廊下を通れないなんてアホみたいな話もあるとか。どんだけデカい冷蔵庫だよ、とか思うけど、日本の住宅事情はそういうものらしい。
妹は、冷蔵庫の食材を上手に組み合わせて、毎晩のように夕食を作ってくれる。 母親が帰ってきたときは母親が作ることもあるが、帰りは遅いことが多いし、早めに帰ってきても疲れているときにはそのまま妹に任せたりもする。
そのため、妹の料理の腕はなかなかのものなのだ。すでに、「おふくろの味」ならぬ「妹の味」で胃袋をつかまれている。明日は妹の作る弁当だ。一日三食、妹の愛情ダイニング。 幸せだなあ。
…って、何か間違っているような気もするが、特に気にしない。
部屋に戻って着替えようとしてところで、希望からメッセージが入っているのに気づいた。
開いてみる。
「ハルくん、制服のままで、いまの顔を写真に撮って送ってね。できれば、白いバックで、そのまま学生証に使えるような感じで一枚と、普通に一枚。」
なんだそれは。
まあ、これもきっとHKHP、ハルくんキス放題プロジェクトの一巻なんだろう。
俺は、白い壁をバックに一枚、勉強机に座ってもう一枚、写真を撮り、希望に送る。
希望から、すぐに返事が来る。
「さすがカオルさん。素材の味を引き出してる! ハルくん、明日の朝、靴箱を見てね。」
「まさか画鋲でも入れる?」
「そんなことはしないけど、あとはお楽しみ!」
希望の似顔絵スタンプがVサイン出してきた。しかも動いている。
こういうスタンプに金をかけるのがイマドキの女子高生なんだろうなあ。
「お兄ちゃ~ん、ご飯できたよ~」
妹の声に、
「今行くから~」と俺は言い、急いで着替えて夕食を食べに行く。
------
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
ご興味あれば、★、💛、フォロー、コメントなどいただければとても励みになります。
あと、新作はじめました。
裏庭にハニワ、庭にハニワ、ハニワ取がハニワになった件 ハニワの中から美少女が出てkきたけどどうすれば?
https://kakuyomu.jp/works/16816700428153534842
こちらもよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます