【勇者物語】 第四章 賢者の塔四階

 あれから一夜明けた翌日。疲労感の残る身体を無理やり奮い立たせ、賢者の塔四階へと続く階段を上り扉の前へと立つ。


「この塔は一体何階まであるんだ?」


流石にここまで来ると「早く終わらないか」と重たい溜息を吐きたくなる様子でライムはぼやく。


「今度は地のマーク……どんな相手であろうと、ここまで来たら最後まで頑張るしかないよな。よ~し! 行くぞ!」


意を決した彼は扉を勢い良く開け放ち中へと入る。


「今度は砂地か……」


扉を開けた途端に視界一杯に広がっていたのは草木一本もない砂地地帯だった。


『頂上を目指す若者よ。汝の実力を示し見事この階をクリアーして見せよ』


今までと同じ様に今度は男性の声が部屋全体に木霊する。


『我は地の戦士! 挑戦者よ何処からでもかかって来い!』


「っ!?」


不意に声が聞こえてきたことに彼は驚きそちらへと視線を向けた。


そこにはいつの間にか全身黒い鎧で覆われたダークナイトが立っていてライムは驚く。


(気配が……なかった?)


何時の間にいたのか、はたまた最初からそこに立っていたのに気付かなかっただけなのか、疑問に思いながらも彼は警戒して相手を見詰める。


『どうした、何をぼさっと突っ立っている? こないのか?』


「い、いや。すぅ……行くぞ!」


訝しげな様子でダークナイトが尋ねるとライムは慌てて返事をしてから、小さく息を吸い込み威勢のいい声で宣言した。


『さあ、来い。挑戦者よ』


「たぁ、やっ。はぁっ!!」


ダークナイトが言うと茶色に光り輝く剣を突きつけ挑発する。


それに彼は勢い良くロングソードを振り被り三連切りを繰り広げた。


『ふっ……』


「な?! 消えた?」


ダークナイトが小さく笑むと気配を絶つ。目の前の相手が突如消えたようにしか見えない状況にライムは焦る。


『何処を見ている?』


「うわっ!?」


背後から現れたダークナイトが言うと驚いた顔で突っ立ている彼の無防備な背中を斬りつけた。


「鎧を着けてなかったら危なかった……」


ココア王から貰った鎧のおかげでたいしたダメージにはならなかったが、もし着けていなかったらとライムは冷や汗を流す。


『さあ、どうした。お前の実力はこの程度なのか?』


「ちょっと驚いて油断していただけさ! 今度はそう簡単に背後は取らせないぞ!」


ダークナイトの言葉に少し不機嫌になった彼はぶっきらぼうな態度で言い放つ。


『そうか。なら、我も遠慮なく背後を取らせてもらうことにしよう』


「何!?」


余裕な態度でそう話したダークナイトにライムは片眉を跳ね上げ呟く。


先ほどは消えた事に油断したが次はそう簡単に取らせるものかと少しムキになり身構えた。


『はたして、お前の実力がどれ程のものなのか見定めさせてもらうことにしよう』


「……」


ダークナイトの言葉に一気に警戒の色を強めた彼は手に持つ剣に力を込める。


「今度は外さないぞ。居合い切り!」


『ふっ……』


威勢よく叫びながらライムが相手に突っ込んでいく。ダークナイトが再び小さく笑むと気配を絶った。


「な!? また?」


またも姿が消えたようにしか見えなかったライムは驚き動きを止める。


警戒して周囲をくまなく探るも相手の姿は見えない。


『隙あり』


「わぁ!?」


再び気配を現したダークナイトが彼の背後を斬り付けた。その攻撃によろけたライムだったが何とか態勢を保つ。


『どうした、やはりお前の実力はこの程度なのか?』


「まだまだ。……これならどうだ。食らえ、大回転切り」


ダークナイトの言葉に答える様に彼は言うと立ち上がり大技を繰り出す。


この必殺技ならばいくら姿を消す相手にだってダメージを与えられるはずだと思ったのである。


『はぁ……』


ダークナイトが呆れた様子で溜息を吐くと気配を絶って姿をくらます。


『そこだ!』


「わぁっ」


またもや姿が消えた相手から背後をつかれ、三度目の攻撃を食らったライムは流石に態勢を崩して膝を付く。


「くそ! ……如何したらいいんだ!」


『我に攻撃を食らわしたいのなら、もっと冷静になることだな』


悔しさと焦りでいっぱいのライムは喚くように叫ぶ。


その様子にダークナイトがまるで諭すかのように静かな口調で助言する。


「冷静に?」


「……常に相手がお前の思い道理の行動をしてくれるとは限らない。敵を倒すのには研ぎ澄まされた精神で相手と対峙する必要がある」


意味が分からないと言いたげに首を傾げる彼に、ダークナイトが若干呆れ返りながら説明を加えた。


「相手の……そうか、気配! 気配だったんだ!」


『……疲れる』


今まで消えていたように思えていたダークナイトが実際は気配を絶っていただけで、その場所からいなくなった訳ではないことにようやく気が付いたライムは大声をあげて納得する。


そんな彼の様子に疲労感を覚えたダークナイトが小さくぼやいた。


『ようやく気付いたか。……では、今度こそお手並み拝見といこう』


「いくぞ、たぁ」


ダークナイトが言うと剣を構える。


ライムは叫ぶような声で言い放ち、大きく跳躍して相手の胸へとロングソードをかざして突っ込む。


『ふっ……』


「っ!」


目の前まで迫った彼に向けてダークナイトが小さく笑むと姿をくらました。


それにライムは動きを止めると注意深く辺りの気配を探り相手を探す。


『はぁっ』


「っ、そこか!」


背後から感じた殺気にライムはとっさの判断で、横飛びをして攻撃をかわすと、振り向きざまに剣を振り被る。


『くっ……』


「当った!」


ダークナイトが小さく声をあげると攻撃が当ったことに彼は喜び笑顔になった。


『そうだ。そうやって相手の殺気を感じ取り戦うのだ。……さあ、挑戦者よお前の本気を見せてみろ!』


ダークナイトが言うと気配を絶ちライムの目前まで駆け込む。


『はっ!』


「そこか、急所突き」


再び気配を現した相手の居場所を把握した彼は一歩背後へと飛びのき、剣を構え直して技を食らわせる。


『ぐっ……やるな』


「っ!」


ダークナイトが苦しげな声をあげると胸を押さえ小さく言葉を零して姿を消した。


その様子に再び襲い掛かってくるのではないかと、警戒の色を濃くしたライムは、精神を研ぎ澄ませ周囲を見回す。


『相手の気配を読み取り攻撃するとは見事だった。……挑戦者よ次の階へと進むといい』


「終わった……?」


部屋中に木霊するダークナイトの言葉に、ライムは勝敗がついたという実感がわかないまま、呆気に取られた様子で気の抜けた声をあげると構えを解いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る