第21話 北九州ファルコンズ立花 聡太の軌跡(前)

 テレビ夕方放送 ○月▲日 21:00~22:00。

 ニュース番組『ニュース ウォッチ!』内スポーツコーナー。


 

「はい、本日もやってきました『ニュース ウォッチ!』スポーツコーナーを務めます竹内です。今日は楽しみにされていた方も多いと思います!

 なんとなんとシーズン開幕からせっせと溜めてきました『名選手たちから見たファルコンズ 立花 聡太』のコーナーをさらに特大版『北九州ファルコンズ 立花 聡太の軌跡』と題して一挙に放送致します!

 さらにさらに、立花投手の魅力をさらに引き出すべく、開幕戦から直近試合までの立花投手の軌跡、さらに往年の名選手の方々のご意見だけではなく、他球団で実際に対戦された選手のみなさんにもインタビューしちゃっています!

 金沢オリオンズとの3連戦での活躍でも注目を浴びている立花選手。そんな立花の魅力を感じながらお楽しみください。

 ではでは早速VTR……スタートです!」


 ――2023年プロ野球開幕。


 冬の雪解け、新芽が芽吹く。

 桜が舞う少し前の話。

 例年、この時期は数多くの有識者やファン達が順位予想を行う。

 また、フレッシュな新入団選手達の動向や、FA組選手達の調整状況など様々な情報が飛び交う。

 そんな中、日本全国の野球ファンが待ち望んだシーズン開幕戦。

 そこには例年と異なり、謎に包まれた一人の選手がいた。


 北九州ファルコンズドラフト1位で入団した『立花 聡太』である。


 大阪府立南野学園出身。

 大阪でも屈指の進学校である南野学園。


 夏の地方大会を一回戦で敗退した南野学園野球部にあって、さらに立花はベンチメンバーだった。

 わずか10人しかいない野球部にあってスタメンに名を連ねていなかった立花は、三年間を通してベンチで過ごす。

 引退がかかった一回戦でも打席に立つ事無く、立花は三年間を過ごした高校野球を引退した。



 そんな立花 聡太をドラフト1位で指名したのが北九州ファルコンズである。

 北九州市を本拠地とするファルコンズはチーム打率がリーグトップの猛打が特徴的なチームだが、防御率もリーグワーストと弱点が明確とされており、

 投手陣のテコ入れは不可避とされていた。


 だが前評判では同じ大阪出身の大阪藤陽『真鍋 康介』捕手の1位指名がほぼ確実と言われていただけに、ドラフト会議でファルコンズが立花を指名した瞬間は各チームがどよめいた。

 しかし各チームは真鍋が「ファルコンズ以外には指名されても絶対に入団しない」との発言を聞いていた為に、当然のことながら指名回避。

 結局、ファルコンズは立花と真鍋を一本釣りして見事両選手を獲得した。



 立花、真鍋の入団後、ファルコンズは徹底的に報道陣を締め出した。

 また、チーム内にも箝口令を発動し、特に立花の情報については一切を外部に漏らさない。


 立花の母校でもある南野学園での成績を調べた報道陣は開幕前から立花の能力を疑問視した。

『ドラフト1位の選手じゃない』

『そもそもプロのレベルにすら達していないのでは?』

『裏取引でもあったんじゃないか』


 そんな声が多方面から上がった。


 そんな言葉が飛び交う中で到来したシーズン開幕。

 立花は開幕戦で全ての声を一掃させた。


 7回の表、エース柳葉がフラッグスの打線に捕まる。

 6回までをほぼ完璧な投球で抑えていたが、球のキレが落ちはじめたところをフラッグス打撃陣がしっかりとミートさせノーアウト1-2塁。

 一打出れば同点さらに逆転もあり得る。さらにバッターはフラッグス4番の砥峰。

 

 昨年までのファルコンズ中継ぎ陣を考えると難しいこの場面で副島監督が選んだのは新入団選手の立花・真鍋バッテリーだった。

 球場が大きくどよめく。

 投手交代かと思ったらそのまま捕手まで交代。

 ルーキーの両選手が開幕戦でさらにこの大事な場面での両選手交代だったからだ。


 そんな中でグラウンドへ登場する2人。

 その姿はルーキーとは思えないほどに落ち着いた佇まいであった。


 エース柳葉と言葉を交わした後、投球練習を開始する。

 さらにここでも球場がどよめいた。

 あまりにも遅い球速だったからだ。立花が投球する姿を初めて見る観客は技巧派のピッチャーだったのか? と疑問を抱く。

 だが、それにしてはあまりにも平凡な投球であり、投球練習が終わってマウンド上で立花と真鍋が最終確認をしている間もなお、球場は少なからずどよめいたままだった。

 マウンド上では何かを問い詰める風の真鍋に対し、立花がグローブで真鍋の肩を叩く。

 それに真鍋が何やら言い返すと、振り払うように手を何度か振ると真鍋が不承不承といった表情で定位置へと戻っていった。

 新人2人のやり取りに誰もが訝しむ中でプレイが宣告される。


 球場にいる全ての者がどんな球を投げるのかと思っていた次の瞬間、どよめきが止まった。


 一塁への牽制球。

 視線をバッターへ向けたまま投げたそのボールはファーストミットへと吸い込まれランナータッチ、アウト。

 一瞬の間に起きた出来事は、牽制死したランナーが自分がアウトになったことに気付かないという事態を引き起こすという珍事だった。


 まさかという牽制でワンアウトを取った立花は、今度こそ目の前のバッターである砥峰へ視線を向ける。

 そこからはまさに立花劇場と呼ぶにふさわしい投球だった。


 立花が投球モーションに入る。

 ワインドアップポジションから大きく両腕を上げてオーバースロー。


 この時点で真鍋はインコース低めのボールゾーンでキャッチャーミットを構えていた。

 だが、立花の投げたコースは真ん中高め。砥峰が最も得意としているコースである。

 好機と判断した砥峰は強振。

 しかし、ボールは当たること無く真鍋が構えるキャッチャーミットへと大きく落ちて吸い込まれていった。


 あまりの強振にその場に崩れ落ちるように転ぶ砥峰。

 だが、バッテリーは砥峰に落ち着かせる時間を与えない。

 タイムを取る事無く投球モーションに入る。


 真鍋が構えたのはアウトコース高めいっぱいの位置。

 立花が投じた球はそれを大きく超えるようなコースだったが、これもホームベース直前になって大きくその軌道を落とすと、ストライクゾーンギリギリに構えていた真鍋のキャッチャーミットへと吸い込まれた。


 これには砥峰も審判に詰め寄るがストライク判定は覆らず。

 思わずタイムを取った砥峰は、落ち着けるように3度素振りを行う。


 大きく息を吐いてバッターボックスへと向かう。

 前情報はまるで何もない。どんな球種を持っているのかも判明していない中でも、パシフィック・リーグの好打者として打撃成績を残しつつある砥峰は何とか立花に食らいつこうとしていた。

 立花が投球モーションに入る。真鍋が構えたのはアウトコース低め。

 立花の手からボールが放たれた瞬間、球場にいた全員が危ない! と思った。

 ボールは砥峰の肩付近を目掛けていく。

 それに気づいた砥峰が大きく身体を仰け反らせてボールから避けようとしたその瞬間、大きく軌道を左に曲げたボールはそのまま真鍋の構えたキャッチャーミットへと寸分狂わぬコントロールで吸い込まれた。


 三球三振。

 砥峰はバッターボックス上で呆然としたままだった。


 球場全体が大きくどよめく中、立花はそのままの勢いで次の打者も三球三振。

 一度もバットに触れさせる事無く、最小投球数で大ピンチを切り抜けた。

 さらに立花は次の回も続投するとそこでも三者連続三振。

 9回最終回にも登板するとここでも全打者を連続三振に切って取り、まさかの新人選手の開幕戦初登板で8打席連続三振という大記録を打ち立てたのだった。


 そこから日本列島は立花フィーバーが巻き起こった。

 開幕戦ヒーローインタビューでの出来事や、その後の立花の投球。

 フォーク、カーブ、シュート、パーム、ナックル、シンカー……。

 見る度に立花は新しい球種を投げ、観客の度肝を抜く。


『見に来てくれれば必ず楽しませる』の言葉通り、ファルコンズファンだけに関わらず、ファルコンズの試合はビジターでも常に超満員ばかりとなった。

 

 6月を終えた時点での立花の成績は、登板数34 登板回数72回 自責点1 防御率0.12 被安打6 奪三振134と、もはや異次元の投球成績となっていた。

 当然の事ながらオールスターで選出された立花だが、ファルコンズは立花をまさかの登録抹消。

 オールスターへの参加を登録抹消で休養に充てていると、様々な物議を醸して話題にもなった。


 だが、そんな風もどこ吹くものかと立花は再昇格を果たすと、もはや神話と呼ばれる活躍を見せる。


 8月終わり時点で立花の成績は、登板数48 登板回数101回 自責点1 防御率0.09 被安打6 奪三振238。

 なんと最後に浴びた安打は6月。自責点に到っては開幕3連戦の最終戦で砥峰が体勢を崩しながらも打った本塁打が最後だった。


 もはやすでに球史に残る選手とも言われている立花 聡太投手。

 背番号17を様々な視点から切り込む。

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