第14話 その頃、彼らは。

 8月上旬、大阪市内某所カラオケ店にて。



「うーっす」

「おっ残りも来たな。ウッスウッス」

「おす久しぶり」

「ちょっと奥詰めてくれ」

「はいすいませんね、どすこいどすこい」

「ちょおまっ、無理やり詰めてくんなって!」


 

「お前んとこも、もうテスト休み?」

「とりあえずは。課題関係の残りまだめっちゃあるから休み期間中もやばたんやけど」

「せやんなぁ、なんで大学ってあんなに提出物多いん?」

「節子味を感じる言い方」


 

「○○はやっぱり来られへんって?」

「アイツ行ったん▲▲大やろ? こっち帰ってくる交通費がキツイから無理って言ってたわ。めちゃくちゃ来たいって言ってたけどな」

「貧乏つらたん」

「タン塩食べたい」


 

「みんな髪の毛伸びたなぁ」

「お前もやん。ってかロン毛似合わなさすぎやろ」

「大学デビューやろがぃ! ……え、マジで似合ってへん?」

「うん」

「うん」

「……明日切るわ」


 

「ってかそういやなんで俺ら坊主やったんや?」

「確かに。誰が最初にやり出したんやったっけ」

「立花やろ。アイツが何故か坊主にして部活来たんやん」

「あーっ……せやせや! ある日部活に坊主で来たからなんでか聞いたら、『え? 高校野球といえば坊主やん』って言うてたわ」

「自主的にしたんかよwww アイツやっぱりおかしいって」

「でもなんかめちゃくちゃ楽しそうに野球するから、コイツとコイツが真似し始めたんよな」

「そうそう、そんでそれが面白くてみんな真似して最終的に全員坊主になったという」


 

「そういや、全員坊主にして練習してたら校長が見に来た事あったよな」

「あったな! アレはほんま笑ったわwww ちょいお前らやってみて」

「ん”ん”っ! 『監督、君が野球部員たちに坊主を強要しているのではという話を聞いたが、本当なんかね?』」

「『えっ! えっいや、アレはコイツらが勝手に自主的にやってるだけで私は1度も強制などした事はありませんって!』」

「『……部員たちの表情を見るに、そうは見えへんねんけど、その辺りはどうなんや?』」

「『えっ? ……ちょぉぉっ! お前らやめろってそんなシュンとした表情すんな! ほんまに俺が強制してるみたいになるやろ! ……立花お前もうすでに耐えられへんくて笑いかけてるやないか!』」

「アカンわ、今思い出してもクッソおもろいwww」

「しかも誤解が溶けた後も、立花が『いや、でも……』とか『まぁ校長を目の前にして本当の事は、ね?』とか言うから監督が滝のように汗流してたからなww」

「世間で見てる立花とのギャップ激しすぎやろ」

「まぁでも俺らも途中から坊主でおることにちょっと楽しみ感じてたしな」

「そう! なんか高校野球児です! って青春してたよなwww」

「……今度、監督のとこにみんなで挨拶行く時に、坊主していく?」

「やめたれよwww監督泣くぞwww」


 

「そういや、結局野球部は休止のまま?」

「いや、再始動しはじめてるらしい」

「えっ! そうなん!? 部員全然集まらんくて練習すら出来ひんって言うてたやん」

「立花効果で集まり始めたらしいで」

「はぁーっ、やっぱ知名度ですかぁ」

「そらあれだけマスコミが学校に押し寄せたら次に続けってやつも出てくるやろ」

「まぁ、分からんでもないな」

「何人かが入部届出す前に坊主にしたらしくて監督涙目やったらしいけど」

「ブハッ! ちょおま笑かすなってwww」

「いやホンマやねんって! 入部届を手に持ったまま呆然としてる監督が聞いたら、『OBの方が、ウチの野球部は坊主頭が伝統だって言ってました!』って言うて監督涙目」

「誰がそんなガセ流してんねん!www」

「あ、俺」

「お前かぃ! お前監督殺しにいってるやろwww」

「しかも、その光景を校長が見ていたという」

「それ絶対アカンやつやんwww」

「まだ無駄な伝統を作ってしまった……」

「五右衛門っぽく言うなや!www」

「監督は涙目が一番映えるから仕方ない」

「可哀想すぎるwww」



「で、マスコミの奴らちょっとウザすぎん?」

「ウザいな。普通にウザい」

「最近はちょっと落ち着いたけど、それでもちょくちょく来るからな」

「俺らがそんなペラペラ喋ると思われてるんが腹立つねん」

「ほんまそれな! 仲間の情報を売るわけないやろ! ってなんぼほど言うか迷ったわ」

「俺は言うたで。……記者さん、一生の仲間が頑張ってるのに俺らが邪魔すると思います? って言うたったわ」

「こんなおもろいメンツの集まりに出られへんくなるとか地獄すぎるもんな」

「せやで。俺らヒョロいから舐められてるんやろ」

「俺も前に困ってたら、大阪藤陽の1番で□□君っておったやろ? 実は一緒の大学で、対応に困ってたら助けてくれたわ」

「えっ、□□君もお前んとこの大学なん! よう話しかけれたなぁ。俺なら申し訳なさすぎて隠れるわ」

「いや、□□君から話しかけてくれてん。声かけられて振り向いたら立ってたから思わず逃げそうなったわ」

「そらそうなるやろなwww 俺でもそうするわ」

「思わず俺の俊足を大学で披露しそうになってんけど、ようよう聞いたら同じ学部でな、たまに飯食いに行ったりしてる」

「甲子園優勝のスタメンとダチとかお前やっばぁ!」

「虎の威を借るのは気持ちええでぇ~?」

「ニヤニヤしながら言うなwww 言うてること一つもカッコよくないやろwww」


「んで、立花のピッチングやばない?」

「ヤバい。そうなるとは思ってたけど実際に見たらやっぱりヤバい。ヤバい通り越してパない。」

「失礼やけど、真鍋君が取り巻きみたいに見えてる時点でもうおかしい」

「あそこの2人は信頼関係が構築されてるからええけど、端からはそうは見えんもんな」

「ヒーローインタビューに代役で真鍋君立たせたらアカンやろww」

「あれ生で見てたけど、一瞬監督思い出したわ」

「俺も!www あれは強烈やったなぁ」

「しかもあんな強烈なキャラでいってんのに打つ方は全くアカンというね」

「ってか、立花が打つ方全くアカンって誰か知ってるんかな?」

「実はアイツ今季でバッターに立った回数1回だけやからな。誰も知らんかもしれん」

「あのやる気無しでちょい叩かれた三振のアレか?」

「そうそう。バットを振る素振りすらせんかったやつな。だから知られてないかもしれんで」

「セントラル行ったらバチクソに叩かれるやつやん」

「それもあってDHのあるパシフィックにしたんかもやで」

「そうやとしたらアイツ策士すぎるやろ」


 

「ちょうど一年前くらいか? 立花からアレ言われたん」

「そうやな、さっさと負けて夏が終わってちょっとやから時期的にちょうど今くらいちゃう?」

「甲子園から藤陽が帰ってきたら練習試合をしてくれとか、はぁ? って感じやったよなぁ」

「そら、その時も藤陽が甲子園でガンガン勝ち上がってる最中やったからな」

「普通やったら絶対断る案件よな」

「そらそうやろ。あんな俺らに土下座してまで頼まれでもせんかったら全力でお断りレベルやわ」

「監督は全力お断りしてたけどな」

「『じゃあ、校長に坊主を強制されてましたって言います』って、それお願いちゃうやん! 脅迫やん!www」

「野球部引退でやっとホッとしてた監督に追い打ち掛けてたからなwww」

「甲子園優勝したばっかの藤陽に乗り込むとか頭イカレてるとしか言えん所業やったけどな」

「まぁ、今思えばあれもいい思い出やな」

「せやなぁ……。あの時の藤陽部員たちの殺意ビンビンの視線を思い出せば大抵は何とか出来そうって思えるもんな」

「いやー、アレは怖かったwww 俺、トイレ借りようと思って藤陽マネの子に聞いたら、その子にすら殺意向けられたからなwww」

「地獄やんwww 練習試合終わって学校着いた瞬間に全員が倒れ込んだもんな」

「一番キツそうやったんは監督やけどな」

「校門くぐってすぐのとこで大の大人が三角座りでいじけてたからな」

「さすがに立花もバツが悪そうな顔してたもんな」

「『あの、監督……。きっと良いことありますって……たぶん』」

「たぶんって何やねん!www」

「お前聞こえてへんかったやろうけど、立花あの後でボソッと『知らんけど』って言うてたからな」

「知らんのかぃ!www あーっ、やっぱ立花おもろすぎる」

「世間は今の立花を見てるだけやけど、俺らからしたら高校時代からすでに伝説よな」

「あんな頭おかしいやつ大学にもおらんってwww」



「今日も立花来れたら良かったのになぁ」

「今2軍やから北九州おるんやろ?」

「そうそう、2軍遠征に付いていってないからずっと自主練らしいで」

「相変わらず走り込んでるんやろな」

「とにかく走り込みと下半身強化は立花の代名詞やからな」

「よくあんだけ飽きずに延々とやり続けれるよな」

「俺も一回聞いたことあるけど、身体を動かせるのが楽しくて仕方ないって言うてたわ」

「アイツ、なんか病気とかなった事でもあんの?」

「いや、聞いた事無いけどなぁ……。まぁ身体能力的にゴッツいわけじゃないからとは言うてたけど」

「俺らの中でもアイツが一番ヒョロかったよな」

「うん、スタミナもアイツが一番無かったな」

「3年間フルベンチやったしな」

「最後の打席で監督が代打で出そうと思ったら、全力で首振ってたもんな」

「そう、あの時俺の代打で立花が出る予定やってん。俺も立花が出るんやったら全然OKですって監督に言うてんけど、立花が断ってん」

「なんで?」

「みんなが3年間頑張ってきたのを最後までベンチで応援したいって」

「うーん? 分かるけど……なんかやっぱりしっくりせんな」

「いや俺もそう思って、立花にホンマに出んでいいんか? 最後までベンチでええんか? って聞いてんけど、満面の笑みで『おう!』って言うねんもん。仕方ないやん」

「むさい顔で、もんって言うな。でもホンマに結局出ずで終わってもうたからなぁ」

「しかも、最後の試合が終わってちょっと経って、みんなやり切ったと思ってたところに藤陽とのアレやからな」

「最後の最後まで立花に翻弄された感あるな」

「ほんませやで! ……でも知ってる? 野球部から退部者が1人も出えへんかったんて俺らの代がひっっさしぶりらしいで」

「えっ、そうやったんや。でも確かに楽しかったから勉強との両立がキツくてもやめようとは思わんかったなぁ」

「女っ気は一ミリも無かったけど、青春してる! って感じやったからなぁ」

「学校でも坊主の俺らだけ浮いてたもんなwww」

「そら自主的に全員坊主になってるとか引かれるやろwww」



「最近、みんなはどうなん?」

「ぼちぼち」

「せやな、ぼちぼち。バイトしんどい」

「立花だけ早々に社会人デビュー果たしてもうたからなぁ」

「焦ったりはせえへんけど、将来について考えてまうよな」

「俺は……国家公務員目指そうかと思ってる」

「えっ!? お前大企業に入ってキレイな奥さん欲しいって言うてたやん」

「あんなに童貞丸出しの思考回路してたお前が国家公務員て」

「うっさいわ! 立花がいつかお前らの力を借りる時がくるからって言うてたやろ」

「あぁ言うてたな。何か聞いてないけど」

「うん、でもその時になって……立花から声かけられた時に恥ずかしくないようにはしたいなって」

「……何するかも知らんのに?」

「とりあえず国の中枢にちょっと近かったら何か出来るかもしれんやろ!」

「えぇ……考えてるようでなんも考えてないやつやん」

「俺んとこは親父の会社継ぐのが決まってるようなもんやからなぁ」

「いやそれはそれで別にええやん。ウチの家は普通のサラリーマンやからな。ちょっとでも何か出来るようにする為にって考えたら、家に金は無いから権力に近づく事にした」

「コイツ急にゲスい事言い出したぞ」

「真っ当に考えた結果やっちゅーねん! いつになるかわからんけど、立花から頼まれた時に胸張って俺に任せろって言いたいやんか」

「キャプテンより影響力の強いベンチ要員とは」

「キャプテンの概念が崩れつつあるな」

「おいキャプテン! そのへんはどう考えてんねん」

「キャプテンって、お前らが俺に押し付けただけやろ! しかもお前らそのくせして全然言う事聞けへんかったやんけ!」

「いやそりゃ……なぁ?」

「うん」

「うん」

「キャプテンと監督イジってる時がいっちゃん面白い」

「よーし、全員ビンタや。立てぃ!」

「まぁ、そういう事で俺は国家公務員を目指してみる。そして官庁でキレイな奥さんも見つけてみせる」

「そうかぁ。いやいい夢やと俺は思うで。俺も頑張らなアカンな」

「せやな。みんな頑張ってるし、俺も頑張ろ」

「おい無視すんなや!」

「ちょっキャプテン今大事な話してるからちょっと静かにしてくれん?」

「キャプテンのそういうとこ、悪いとこやで」

「ほんまキャプテン頼むって~www」

「よし、○す。今日こそはお前ら全員○す」



「んじゃ、今日居ないメンバー達の分も含めてカンパイ!」

「ソフトドリンクやけどカンパイ!」

「立花と俺らの未来にカンパイ!」

「監督の涙目にカンパイ!」

「童貞にカンパイ!」

「えっ? あっ」

「……えっ」

「は? えっキャプテンお前……えっ?」

「……カンパーーイ!」

「ちょお前勢いで誤魔化そうとすんなや! えっ? マジなん?」

「は? マジで卒業したん? 俺らの血盟を忘れたんか?」

「近い近い近い。お前ら近いってぇ!」

「おい、コイツちょっと取り調べすんぞ。誰か縛るもん持って来い」

「俺ちょうど縄跳び持ってんで!」

「なんで大学生のカバンから縄跳び出てくんねんwww」

「どうしても縄跳びでボクサー風にやりたくて今日ド○キで買ってきた」

「お前笑かすなってwww ……まぁちょうどええわコイツ縛ったろ」

「ちょいちょいちょいお前ら目がマジやって! やめろやめろ!」

「吐けえええぇぇぇぇ!!! 一から十まで吐け犯人めぇぇぇ!!!」

「らめええええぇぇぇぇ!!!」



 その日、野球部でグループを作っているチャット欄には、1枚の写真が投稿された。

 投稿主はキャプテンで、『私がやりました。犯人です』との文章とともに、野球部全員でキャプテンを縄跳びで縛っている写真だった。


 数時間後、それを見た立花が『いつかやると思ってました』との返事が送られ、キャプテンは激怒した。 必ず、かの邪智暴虐な立花を除かなければならぬと決意した。

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