第38話 転移者同士の出会い 2
メイリルダと少年は医務室を出てギルドのロビーに行くと、先程の医師が大慌てで周りに指示を出して処置を行っていた。
そこに、ギルドマスターであるエリスリーンも顔を見せていた。
エリスリーンは、メイリルダを見つけると直ぐに手招きをするので、メイリルダは、エリスリーンの方に少年の手を繋いで歩いて行った。
「メイリルダ。すまないが今度の転移者の様子も確認しておいてくれ 双子の転移者は、過去に居たが、二日続けての転移者なんて初めてなんだ。それに今度の転移者は、大怪我をしている。場合によっては、お前の手も借りることになる」
医師は、必死にヒールの魔法を掛けていた。
その間に手足の傷については、応急処置のマントの包帯による傷の手当てだけだったこともあり、魔法を使えない医師は外科的な処置を行っていた。
それは、命を繋ぐことが最優先されているので、医師は数カ所の処置を一度に手掛けなければならなかった。
その運び込まれた少女は虫の息で、いつ死んでもおかしくはない状況であった。
そんなところにメイリルダも何か指示をもらおうと医師に近づいていくと、少年がメイリルダの手を離れて少女の脇に行ってしまった。
少年は少女の側にしゃがみ込んで少女の手を握った。
幸い、少女の手は血だらけだったが、大した傷も無かった場所だ。
『頑張れ! 生きるんだ!』
少年は、メイリルダ達には分からない言葉を発した。
だが、その様子に少女が僅かに反応したようだった。
それをヒールをしていた医師は見逃さなかった。
「メイリルダ! その少年に、もっと声をかけさせるんだ!」
医師としては、生きようと思う気持ちがあるなら助かる可能性は上がると思っていた。
生きる確率が少しでも上がるなら、少年に声をかけさせていた方が良いと判断したようだ。
ただ、少女の腕を治療していた医師は、あまり面白くなさそうにしていたが、応急処置が済むと、足の方の治療にあたるために移動したので、メイリルダは、慌てて少年を少女の頭の方に移動させた。
少年は、少女の手を握りジーッと少女の顔を見て、メイリルダは、少年の肩を両手で握るようにして同じように少女の表情を確認した。
「ねえ、もっと話し掛けるのよ。あなたの言葉に反応しているから、きっと、あなたが呼びかけたら目を覚ますわ。だから、もっと声をかけて!」
メイリルダは、少年の肩を揺らしながら話しかけると、メイリルダの言葉が分からないはずの少年は、また、メイリルダには分からない言葉で少女に話しかけていた。
その言葉に反応するように少女の顔色が良くなってきているようだった。
ヒールをかけていた医師から緊張感が消えてきた。
「なんとか、峠は越えたと思う。だが、危険な状況には変わりない。最後まで気を抜かないで処置をするんだ」
医師には、魔法で治すものと、治療をして治すものがいる。
魔法を使える人や亜人は、稀な存在であって非常に貴重になる。
その中でも、人を癒したり治療したりする魔法士は居るが、それに特化した魔法士は少ない。
医師としての魔法士だったら、魔物との命のやり取りを行うこともないので稀に医師になる魔法士も居る。
ギルドでは、1人の魔法を使う医師と、残りは治療を中心とした医師達だった。
ギルドの医療班なので内科的な治療より、外科的な治療を行う医師の方が多い。
それは、今回の少女のように魔物の攻撃を受けて、命辛々逃げかえることが多いこともあり外科が得意な医師が多い。
少女の容体が好転してきて、身体中に出来た怪我の手当ても終わりに近づくと、看護師によって血で汚れた腕や足、そして、身体を拭き始めていた。
少年は、処置が終わろうとしていても何かを話しかけていたが、周りは誰も少年の言葉が分からない。
そんな少年の肩を握っていたメイリルダだったが、自身の肩に誰かの手が置かれた事に気がついた。
それは、エリスリーンの手だった。
メイリルダがその肩に置かれた手の方向に顔を向けた。
「もう、その少女は大丈夫みたいよ。だから少年に声を掛けさせなくてもいいわ」
エリスリーンの言葉に、メイリルダは困ったような表情をした。
「あ、ええ、そうなんですけど、どうやって伝えたらいいのか、よく分からないんです」
その言葉にエリスリーンも、少年が昨日転移してきた事を思い出していたが、2人が困っている様子を少年が振り返って見上げていた。
「おや、通じたみたいだね」
エリスリーンは、少女に呼び掛けるのをやめた少年が、何事かと思った表情をしてエリスリーンを見ていた。
その少年の様子を見てエリスリーンは思わず声に出ていた。
すると、少女が唸るような声を発した。
それは、意識が戻る直前に起きる現象だった。
『痛い』
少女は、言葉を口にしたのだが、その言葉の意味は誰にも通じなかった。
しかし、1人だけ手を握っていた少年だけが、その言葉に反応した。
『大丈夫だ。お医者様が怪我を治してくれた。だから、もう大丈夫だ。君は助かるんだ』
『分かった』
それだけ言うと、少女は寝息を立てるように眠ってしまった。
その様子をエリスリーンは見逃していない。
「メイリルダ。お前、この2人の面倒を見なさい。この少年と少女は、お互いに言葉が通じるみたいだから丁度いい。あとは医務室の連中と相談しながら、どうするか決めてるようにして」
それだけ言うと、エリスリーンは他の職員達に指示を出し始めた。
「……」
メイリルダは、少年と少女の顔を見比べ、なんだか腑に落ちないような表情をした。
(あれ? これって、全部、私に丸投げってことじゃないの?)
慌ててメイリルダは、エリスリーンを探そうとするが、エリスリーンの姿はロビーから消えていた。
メイリルダは、呆気に取られてしまったが、医師の方から少女は医療班の方で入院させておくから、毎日、様子を見るようにとだけ伝えられていた。
メイリルダは、分かったのか分からないのか、どちらともつかない表情で医師の話を聞いていた。
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