第39話 少年の様子、ギルドの対応


 メイリルダは、少年の翌日に転移してきた少女を医療班に任せた。

 まだ、容体が急変しないとも限らないので、しばらくは医療班の元で容体の安否を確認し、万一の際は直ぐに対応できるように入院させていた。

 メイリルダと少年は、寮での生活が始まり用意された物の整理を2人で行っていたが、少年は朝起きてから妙にソワソワしていた。

 そんな少年の態度をメイリルダは面白そうに見ていた。

 昨日の朝は、この世界で初めての朝だったが、特に何かあるような様子もなくメイリルダに起こされると眠そうに目を擦っていたのだが、2日目の朝はメイリルダに起こされる事もなく起きていた。

 朝食の後に、残っていた少年の衣料品について整理をしていたが、その際も少年はソワソワしていたのだ。

(やっぱり、昨日の少女の事が気になるのよね。それに、その少女も私の担当なのだから顔を出した方が良さそうね)

 メイリルダは、心ここに在らずといった少年を見ると仕方なさそうな表情をした。

「ねえ、昨日の少女の所に行きましょう」

 少年は、メイリルダの顔を見た。

「きのう、しょうじょ、ところ、いく」

 メイリルダの言葉を、少年は不安そうに繰り返した。

 それは、ただ、メイリルダの言葉を繰り返しただけのようにも思えるが、不安な覚えたての言葉が相手に通じたのか心配そうに答えたのか、判断に困るような答えだったのだが、メイリルダは、それが少年の答えだと思ったようだ。

「そうよ」

 嬉しそうに答えると、少年も笑顔をメイリルダに向けた。

「すごいわ。もう、お話しができたわ。本当に、覚えがいいわね」

「いこう」

 メイリルダの答えに少年も答えた。

 そんな少年の様子をメイリルダは嬉しそうにしつつ、少年の手を握って部屋を後にした。


 ギルド支部の横にあるギルドの寮は、新人冒険者とギルド職員の為に用意されているが、そこには1画だけ冒険者の入れない区画がある。

 それは、転移者が現れた時に使う区画となっており2階にあるのだが、そこに上がる階段も玄関も、別に用意されているので一般の冒険者が、そこに入ることはできない。

 食事もギルド職員の食堂を使うことになっているので、ギルドの寮だからといって冒険者と接触することは殆どない。

 特に、転移者には記憶の断片から発明品が生まれる事がある。

 現に前回の転移者であるジェスティエンは、火薬と銃を発明した事もあり、転移者を取り込もうと考える組織が無いとも言えない。

 そんな事もあり転移者に対するギルドの対応は手厚いものがある。

 転移者の技術は、ギルドが独占し可能な限り各国に均等になるように配分するようにしていたが、前回のジェスティエンは、火薬と銃によってもたらされる影響を考えると完全に秘匿してしまっていた。

 そんな事もあり今回の転移者に対しては、ギルドも危機感を持って対応をする予定でいたのだが、今は、支部内だけでの対応となっている。

 本部に転移者が現れた事は報告してあるので、新たな警備体制を整えるための人員が配置されるようになっているが直ぐには揃わない。

 そして、昨日、2日連続で転移者が現れた事で、始まりの村のギルド支部も、連絡を受けたギルド本部も対応に追われていた。

 それが、吉と出るか凶と出るか、今は分からないが、ジェスティエンの後の転移者とあって、ギルド本部としても余計な事に2人を巻き込ませないように注意を図っていた。

 そして、始まりの村のギルド支部では応援が派遣されるまで、ピリピリした雰囲気を纏っていた。

「全く、ジェスティエンの後の転移者には、十分に注意するようにと言われていたのに、昨日も、また、転移者だ。しかも、大怪我を負っていたから、医療班も酷く重労働になってしまったわ」

 エリスリーンは、自分の執務室で疲れた様子で目頭を押さえていた。

「今の所は、周りに変化は無いけど、誰が変な気を起こさないとも限らないわね。早く本部からの応援が来てほしいわ」

 1人しかいない執務室で独り言を言っていた。

 流石に、2日続けて2人も現れるとは思っていなかった事から、メイリルダ達には知られていない部分への配慮を行っているエリスリーンとしたら、今日辺りが疲れのピークに達しているようだ。

 昨日、メイリルダに2人の世話をするように言ったのだが、それは転移者が1人だけでも、応援の来てないギルド支部ではギリギリ対応できるかと思っていたのだが、次の日になって、今度は重症の転移者が運び込まれたおがけで、警備体制に想定外の要素が出てしまっていた。

 エリスリーンは、何事も起こらないように体制を整えていたので、昨日から陣頭指揮を取る事になった結果、348歳のエリスリーンは疲労を感じていた。

 長命なエルフとはいえ、人属の年齢に換算したら68歳となるので、どう考えても高齢なエリスリーンにとっては辛い1日だった。

 流石に陣頭指揮はエリスリーンにはキツいようなのだが、事が起こってしまったら、その後の対応の方が辛い事になるので事前に何も起こらないように対処していた。

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