第36話 2人目の転移者
セルレインは、転移者が現れる岩に向かって走っていた。
そして、わずかにある岩の窪みの部分に体を入れるようにしている血だらけの子供を発見した。
目は虚になり腕にも脚にも大きな傷があった。
その子供は、体を窪みに入れて腕と脛を盾にして、体を守るようにしていた。
「大丈夫か! 生きているのか!」
言葉は通じることはないのだが、セルレインは思わず声をかけてると、その子供の力がふと抜けた。
「おい! まだ、生きている!」
セルレインは、後から来るメンバーに声をかけた。
その子供は、気絶したようだったので、セルレインは窪みと体の間に手を入れて抱きかかえた。
顔にも血が飛んでおり、腹部にも切られたような傷があった。
セルレインは子供を抱えたまま広い場所に出ると、後から来たメイノーマが自分のマントを広げてくれたので子供をそこに寝かせた。
すると、メイノーマは突然セルレインを後ろに突き飛ばした。
「セルレイン、あんたは離れて!」
セルレインは、何だと思ったようだが、理由が理解できずにポカンとメイノーマを見ていた。
「そうね、これは、セルレインでは、ダメよね」
少し遅れて来たアイカペオラもメイノーマの意見に納得しつつ、自分のマントの裾を切って応急処置のための止血用の包帯を作り出し、それをメイノーマに渡した。
そして、遅れているウィルザイアを見た。
「急いで、ウィルザイア! 早くヒールして!」
そう言いつつも、自分のマントを切って包帯にしていた。
ウィルザイアは、体力的に苦しそうだったが、アイカペオラの言葉を聞いて必死になって走り出した。
そんな中、突き飛ばされたセルレインは、状況的には自分も治療に当たった方がいいはずだと思ったのか、体を起こしてメイノーマ達を手伝おうと近付いた。
「ダメ! セルレインは、ダメ! それより、止血が終わったら急いでギルドに運ぶわよ。だから、運ぶための何かを用意して!」
メイノーマに言われたセルレインは、よく分からない様子で周囲を見渡すが、砂漠の真ん中の岩の手前に何が有るわけでもない。
「なあ、俺も、包帯を巻いて止血するくらいなら出来るぞ」
メイノーマとアイカペオラは、そのセルレインの言葉にムッとし、手は止めることなく止血を続けている。
「何言っているのよ! この子は、女の子よ。あんたに任せられるわけないでしょ!」
セルレインは、あっけに取られたような表情をした。
岩の窪みから出す時は、そんな事を気にする余裕もなかったので気がつかなかった。
胸も無い小さな子供であって、血だらけだった事もあり、男女の確認もおこなってなかったので、セルレインは何も気がつかなかったのだ。
それを聞いたセルレインは、納得したような表情をしていると魔物のコアを回収したアジュレンとストレイライザーが来たのを確認した。
「なあ、昨日、地下遺跡の入口付近に剣先の折れた槍があったはずだ。それを持ってきて担架を作ろう」
メイノーマの甲高い声が、ストレイライザーには遠くからでも聞こえていた。
そして、担架と言われて、昨日、地下遺跡の入口付近に置いてあった槍の事を思い出したようだ。
「だったら、3人でちょっと入ってこよう。魔物の警戒は俺がするから、2人で折れた槍を探してくれないか」
「そうだな。3人だと魔物のリスクは上がるからな。可能な限り戦闘は避けていかないとな」
3人は、今の状況で必要な事をするための方法を考えていた。
女の子の怪我の処置は3人の女子に任せて、男子は男子のできることを行うことにするのだった。
セルレイン達は、地下遺跡の入口に向かった。
アジュレンが、最初に入口の中を覗くと安心した様子でストレイライザーに顔を向けた。
「お前、その折れた槍の場所は覚えているんだろ?」
「ああ、あそこの角を曲がったあたりだ」
ストレイライザーは、入口から見える一番最初の曲がり角を指差した。
その先は、直ぐに袋小路になっているので誰もそんな方に行くことはない。
それに、そこには魔物が現れることも無いので、誰もが気にする事もない場所だった。
「それじゃあ、その先の魔物はアジュレンが確認していてくれ。俺とストレイライザーで、その袋小路を確認してくる」
「わかった」
3人は、ゆっくりと地下遺跡に入っていった。
そして、ストレイライザーとセルレインが袋小路に入って行くと、奥の方をアジュレンが確認していた。
ただ、魔物の居ない袋小路とはいえ今日も居ないとは限らないので、セルレインもストレイライザーも警戒は怠っていない。
2人は、ゆっくり進むと折れた槍を見つけた。
周囲を警戒しつつ、セルレインはストレイライザーに槍を拾うように指示を出しつつ、自分は周囲を警戒していた。
そして、奥にもう一本の剣先の折れた槍をセルレインは見つけた。
担架にするなら2本必要になる。
ストレイライザーが、最初の1本を拾うと、セルレインは、奥に見つけた、もう1本の槍を、ストレイライザーに場所を指し示した。
ストレイライザーも、それに気がつくと、2人はゆっくりと移動した。
見える範囲に魔物は居ないが、未確認の魔物が突然襲ってくる可能性もあると考えて警戒は怠らない。
もう1本の槍もストレイライザーが拾うと、ゆっくりと下がり曲がり角の所で奥の警戒をしていたアジュレンと合流し、ゆっくりと入口に向かい地下遺跡から3人は外に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます