第34話 地下遺跡の前


 セルレイン達は、昼近くになって狩りにでた。

 それは、冒険者のような稼業をする人々には考えられない事だ。

 特に、この南の王国は、大陸でも弱い魔物の部類となる事から、冒険者は朝早くギルドに行き美味しそうな依頼を得てから順番に消えていく。

 魔物のコアを販売することで生計はたつが、それだけであって、余裕のある生活は出来てない。

 そのため、南の王国の冒険者は、少しでもお金を稼ぐ事に徹していた。

 ギルドに来る依頼を確認して、その依頼と含めて魔物のコアを販売することで冒険者は生計を立てている。

 そのため、今日のようなセルレイン達のように昼近くになって活動を始めるような冒険者は居ない。

 セルレイン達は、この時間にギルドに向かっても大した依頼もないだろうと着替えて装備を整え昨日と同じ地下遺跡に向かった。

 セルレイン達が、なぜ、昼近くになって活動を始めたかは理由があった。

 昨日、地下遺跡を出ようとした時に転移者の少年を見つけ、その少年を無傷でギルドに届けたことで多額の報酬を得た。

 昨夜は、そのお祝いを行い、夜遅くまで全員で幸運を祝った。

 ただ、深酒をして二日酔いになるようなことは無かったが、気分的に解放されたようになり、今までの苦労が報われた達成感からか、全員がゆっくりと寝てしまっていた。

 だが、目が覚めれば、そんな幸運は続く事はない事を知っているので、少しの時間でも稼ぎを増やそうと考えた事もあり、昼近くになってしまったが、セルレイン達は地下遺跡に向かった。

 通常ならば、昼近くになってしまったら狩場を探すには苦労するはずなのだが、昨日、セルレイン達が使った狩場の入口で転移者が現れたとなった事から、地下遺跡は冒険者達から除外されているだろうと考えていた。

 過去に2日続けて転移者が現れた事が無かったのなら、転移者の現れた翌日となったら、その日は新たな転移者が現れないと、誰もが思っているはずだったら、今日に限って言えば、地下遺跡は誰も使う事は無いと想像がつく。

 だったら、そこで、大して高くも無い魔物のコアを集めて、今日の稼ぎにしようと考えていたのだ。


 セルレイン達は、砂漠を歩いていた。

 その間、他愛も無い会話で盛り上がりつつ歩いていると、先頭を歩いているアジュレンが緊張して右手を上げた。

「セルレイン。あの岩の辺りの様子が変だ!」

 岩とは、昨日、転移者の少年が現れた場所だ。

 その岩を登れた少年は、何とか無事にセルレイン達に保護された。

 転移者は何も身につける事なく、この世界に現れ、近くの魔物渦から現れるサソリの魔物から命を守る必要がある。

 セルレインは、言われて岩を見るが、岩の上に子供が乗っている気配はない。

 それなら、今日、現れるはずの1匹が周辺を彷徨っているはずである。

「セルレイン サソリの魔物が2匹居る!」

 その声を聞くと、セルレインは走り出した。

 その様子を見て全員が続いた。

 パーティーでの単独行動は、魔物の餌食になり易いこともあり、偵察でもない限り単独で動く事はない。

 偵察だとしても、常にフォローできるような距離で待機する事が鉄則であるが、セルレインは突然に走って岩の方に向かったので、メンバー達も単独行動にさせないように、慌てて後を追った。

「ちょっと、セルレイン!どうしたって言うのよ!」

 その様子に文句を言ったのは魔法職のウィルザイアだった。

 メンバーの中では体力的に弱いので慌てて後を追いかけるのだが、ついて行くだけで精一杯のようだ。

「転移者だ! 2匹のサソリなら、後から、転移者と一緒に現れたんだ!」

 魔物の渦から現れる魔物は、南の王国では、1日に1匹だけの魔物しか現れない。

 世の中には、ツノネズミリスのように、1日に何匹も現れると言われている魔物もいるが、このサソリの魔物が発生する魔物の渦では1日に1匹であって、それが崩れるのは転移者が現れた時となる。

 今、そのサソリの魔物が、2匹現れているということは、朝に1匹現れた後、転移者が現れた事で、もう1匹現れたと思った方が可能性が高い。

 そして、1匹のサソリの魔物が居たにも関わらず、転移者が現れたとなると、その転移者が最初のサソリの魔物に襲われている可能性が高い。

 セルレインは、そう考えるとメンバー達に何も言う事もなく、一目散に魔物に向かって走り出したのだ。

 そのため、メンバー達も慌てて、その後につられて走り出した。

 すると、まだ、距離があると思ったウィルザイアが、立ち止まって詠唱を始めていた。

 かなり簡単に終わらせると、火球が現れて飛んでいくと、見えているサソリの魔物とセルレイン達の中間に、その火球は音をたてて落ちた。

 その様子にサソリは、襲撃だと判断し、メンバー達の方に向かって走り出した。

 ウィルザイアが、魔物達を自分達に気付かせて転移者から目を逸らさせようとした。

「ウィルザイアの奴、分かっている!」

 セルレインは、苦笑いをした。

 その事をセルレインも他のメンバー達も分かっているので、その火球の音と同時に、それぞれの獲物を手に取って、大きな声を上げて魔物に向かって行った。

 昨日のような方法では、転移者の命が危ないと判断した事で、作戦も何もなく転移者を守るためだけに危険な魔物に向かって突進していた。

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