第28話 転移者のリスト
メイリルダは、エリスリーンから資料を読むようにと言われてゾッとしていた。
かなりの量の資料がテーブルの上に置いてあったので、その全てに目を通す事もだが、これから後に、この少年の資料をこれだけ作るのかと思って、うんざりしているようだ。
その表情をエリスリーンは面白そうに見ていた。
「メイリルダ。その資料は、私が確認のために取り寄せたものだ。お前が、全部読む必要はない」
それを聞いて、メイリルダは、多少気が晴れたようだが、まだ、大きな問題が残っているといった様子で、その資料を眺めていた
そんな、メイリルダの表情の変化が、エリスリーンには面白いと思えたようだ。
「強制はしないけど、メイリルダは、今、手を繋いでいる、その少年を、どうしたいのかしら? ……。少年は、今までの誰かと一緒じゃないが、過去の転移者が、どんなだったか、少し見ておくだけでも、きっと、役に立つと思うわ。斜め読みで構わないから、少し見ておいたら参考になるでしょう。ああ、一番上に有るのは、過去の転移者のリストだ。その中から気になったものがあれば、それを見るだけでもいいだろう」
メイリルダは、リストと言われて、資料が1人の転移者の物ではないと分かったようだ。
(もう、ギルマスは私に何をさせたいのよ。この大量の書類を読ませたいのか、そうでないのか、……。なんだか、よく分からないわ。でも、斜め読みで良いなら、中身の全てに軽く目を通しておけば良いわね)
メイリルダは、ムッとしたような表情をしてから、納得するような表情をしてテーブルの上を見た。
そして、一番上にあるリストが気になったようだ。
(そうよね。せめて、過去の転移者にどんな人が居たのか位は見ておいた方が良さそうね)
リストに上がっている転移者の名前とかだけでも、メイリルダは目を通そうかと思ったようだ。
そして、応接セットの長椅子に少年と一緒に座るとリストを手に取った。
その様子を、エリスリーンは微笑ましそうに見ていた。
メイリルダは、長椅子に腰掛けると少年もその横にチョンと座った。
メイリルダが、気になったリストを手に取り見始めるのだが、最初のページを見て、うんざりしたようだ。
(ああ、そうよ。ギルドって誕生してから800年位になるのよね。まあ、それからの転移者の資料なのだろうから多いわよね。10年に1人の割合でも80人近くなのだろうから、その資料となったら、これだけの量、……。いや、そうなると、ここにある資料だけというのは少なすぎない?)
リストは、数枚になっていたので、それなりの人数が居ると思えたようだが、その割に資料の数が少ないように思えたのか、重なっている資料の枚数を確認するように横から見た。
(まあ、いいわ。そうなると直近の人はリストの一番最後か)
メイリルダは、リストの一番最後を見た。
(ジェスティエン。……。ああ、聞いた事が有るわ。銃とか火薬とかを発明した人と言ってたわね。へー、そうだったのか)
ジェスティエンは天才と言われ、火薬の発明と銃を一緒に発明した。
そして、すぐにギルド本部が、ジェスティエンの保護を行うようにしたことで、火薬についてはギルドが独占して秘密を漏らさないようにしていた。
ギルド本部は、ジェスティエンをギルドの直属にしたことで、火薬の製造と弾丸の供給をジェスティエンに行なっている。
主な活動拠点は、南の王国なのだが、ギルドとしてもジェスティエンを他国で活動させる事は無かった。
ジェスティエンの話は、メイリルダもギルド内で噂話を聞いた事が有るが、メイリルダ自身はジェスティエンと面識は無い。
(へー、この少年の面倒を見ることが無ければ、こんな資料を見る事は無かったわね)
メイリルダは、リストから目を離すと残りの資料の表紙を確認していった。
(あら、ジェスティエンについて、リストには書かれているのに資料は無いわ)
不思議そうに、書類の表紙を確認していた。
(変ねぇ。この少年の前が、ジェスティエンなら、一番使えそうなのに、……。何で無いのかしら)
メイリルダは、不思議そうに自分の執務机で石板の内容を確認しているエリスリーンを見た。
「あのー」
「ん? 何だ」
メイリルダの呼びかけに、エリスリーンは石板を見つつ声だけで答えた。
「一番最近転移してきた、ジェスティエンの資料がありませんけど」
メイリルダとしたら、直近の資料だけは、ちゃんと確認しておきたいと思い、エリスリーンに聞いた。
「ああ、ジェスティエンの資料は、全部、本部に持って行かれている。それに担当も、本部の職員に格上げされ連れて行かれた。だから、この支部でジェスティエンに関する資料を確認することは出来ない」
「そうなのですか」
メイリルダは、気のない返事をしたが、すぐに気を取り直した様子でリストに目を通した。
(ふーん、それじゃあ、その前の人か、……。その前は、ウサギの亜人女性、名前がアリアリーシャか。ふーん。あら、この人2年も経たずに、ここのギルドの寮を出ているのね。ジェスティエンの転移した日は、……。ああ、それ以前なのね。この人は転移者と言っても、ジェスティエンとは接触した形跡が無い見たいね)
メイリルダは、少年が気になったのか様子を確認すると、机の上に置いてある資料を自分の膝の上に乗せて中を開いていた。
(あら、文字なんて読めないでしょうに、……。ああ、ひょっとしたら私の真似をしているのかしら、……。まあ、見ているだけだし悪戯しそうな感じもないから見せておいてもいいか。それに羊皮紙なんて、簡単に破くことなんてできないでしょうからね)
メイリルダは、少し少年を確認してから資料に目を通した。
(ウサギの亜人のアリアリーシャの前は、あら14年も空いているのね。それに、この人達は、14年もギルドの寮を使って、……。アンジュリーン、カミュルイアン。へーっ、この時は一度に2人の転移者が現れているわ。こんな事もあるのね。あら、この人達はエルフの男女なのか。……。成長の遅いエルフだったから、ここの寮を長く使ったって事なのね)
メイリルダは、何かを納得するような表情をしつつ資料を確認していた。
そして、資料の表紙に書かれた名前とリストを照らし合わせていた。
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