第27話 始まりの村のギルド支部


 メイリルダは、少年の手を引いてギルドの寮から始まりの村のギルド支部へ移動している。

 それは、ギルドマスターであるエリスリーンから呼び出しを受けたからである。

 そんな状況でも、メイリルダは少年に話しかけるようにしていた。

 そして、時々、少年は自分で指を差して、その物の名前を少年は声に出して言っていた。

 そんな少年の様子をメイリルダが、正しければ褒めながら笑顔を向け、違っていたら優しく首を振って正しい名前を伝えていた。

 ただ、ギルドの寮とギルド支部は、隣の敷地なので、今回は数回で終わった。


 ギルド支部に入ると、受付嬢達がメイリルダの方を興味深く見ていたが、その興味は、メイリルダではなく転移者の少年にあった。

 今日、ギルドに連れてこられた転移者の少年、つまり、メイリルダが連れている少年に興味があったのだ。

 受付嬢達は、チラチラと少年の様子を窺っていた。

 前回の転移者は、ジェスティエンと言い、その少年は火薬と銃を発明した。

 今まで、遠距離攻撃といったら、弓か魔法だったのだが、火薬の爆発によって弾丸が飛び出して魔物を倒すので、魔物を倒す効率は高かった。

 剣と弓、そして魔法の世界に新たな攻撃手段が出来たのだが、その有用性よりも危険性についてギルド本部が気が付いた。

 そのため、ジェスティエンの火薬と銃について調査を行うと、火薬の製造をギルドが一手に引き受け、ジェスティエンに必要なだけの弾丸を供給することになった。

 弾丸の無い銃には、武器としての魅力は全く無い事に気がつくと、火薬の製造方法についてギルドが独占して、その秘密を外部に漏れないようにした。

 そんな事もあり、今度の少年は世界に何をもたらすのか、興味津々という表情で見ていたのだ。

 しかし、転移者が全員ジェスティエンのように新たに画期的な発明品を供給してくれるとは限らない。

 それ以前の転移者には、そんな都合の良い発明品を世に出してはいなかった。

 だが、転移者は以前に居た、この世界とは違う、その並行世界での技術を断片的な記憶から辿って、この世界には無い以前の並行世界で使われていた物が、発明品として世に出ていた。

 前回の転移者であるジェスティエンが、そんな画期的な銃を開発した事から、今回も新たな発明品が出るのではないかと期待してしまっていた。

 そんな視線の中をメイリルダは、少年を連れて奥にある階段を登っていった。

 ギルドマスターの執務室があるのは、ギルド支部の2階にあるので、その階段を使って2階に行く。

 階段を登るメイリルダ達が見えなくなると、手の空いていた受付嬢達は思い思いにヒソヒソと話し始めていた。

 それは、メイリルダ達が消えていった、階段の方を見ながら行われていたことから、今度、現れた少年について様々な噂が飛び交っていた。


 メイリルダは、ギルド支部の階段を上がっていた。

 1階に居る受付嬢達の視線を受けていたのだが、大半は、少年に向けられていたことと、メイリルダ自身が少年の事を気遣っていた事もあり1階の受付嬢達の様子は気が付かなかった。

「かいだん」

 少年が階段を上がりながら言葉にしたので、メイリルダは笑顔を向けた。

「そう、階段。階段は、上の階と下の階を繋ぐのよ。上に登ったり下に降りたりする時に使うよ」

 メイリルダは、階段の説明もしていた。

 少年は、メイリルダの話が全て分かるわけではないが、メイリルダは、思わず丁寧に説明までしていた。

 分からないだろうから話さないのではなく、話している事を聞かせることで耳から言葉が入ってくる。

 その事で、徐々に、少年の脳内に、この世界の言語野が広がるのだが、メイリルダは、そんな事を考えて話をしている訳ではなかった。

 ただ、持ち前の優しさと、お喋りをする事が好きなメイリルダが無意識のうちに行なっている事だった。

「ろうか」

「うん、廊下よ。よく、覚えたわね」

 メイリルダは、そんな少年の様子を嬉しそうに見つつ廊下を進んでいくと一つの扉の前で止まり、その扉をノックした。

 その様子を少年は、ジーッと見ていた。

 中からの返事を聞くと、メイリルダは扉を開け少年を連れて中に入っていった。

「マスター、何か、お呼びでしょうか?」

 メイリルダが話しかけると、エリスリーンは応接用のテーブルの上を指差した。

「ここに残っていた資料だ」

「?」

 メイリルダは、何の資料なのかという表情をした。

「ああ、すまない。ここのギルド支部に残っている、過去に現れた転移者の資料だ。初めて転移者の世話をするなら、その時の資料が参考になると思う。見ておいて損はないと思うわ」

 そして、メイリルダは、その資料の山を見て少しげっそりしていた。

(何、この資料の山は、……。わ、私も、この少年の報告書を、これだけ書かなければいけないのかしら)

 そんなメイリルダの表情を、エリスリーンは不思議そうに見ていた。

(メイリルダは、何を気にしているのだ? ……。ああ、そうか数十人分の資料を読むと思うと、少しうんざりしているのか。でも、読んでおいた方がいいはずだ)

 メイリルダとエリスリーンは、過去の転移者の資料について、それぞれの思いを抱いていた。

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