第26話 エリスリーンとギルド


 始まりの村は南の王国の南部にあり、その始まりの村の西側には砂漠が広がっており転移者が現れるポイントがあった。

 ギルドは、南の王国が発祥の地でありギルド本部も南の王国にあり、冒険者達の依頼の仲介と魔物のコアの買取を行なっている。

 ギルドが創設された年をギルド歴元年とし800年の歳月が流れ、ギルド歴801年となった年に、新たに少年の転移が有った。


 ギルドは、この大陸に一国を除いたすべての国にギルド支部を置き、それぞれの国で冒険者と依頼人との仲介を行い、そして、その国の魔物のコアを冒険者達から買い取っていた。

 ギルド創設以前の冒険者は、各国の行政から発行される依頼だけでは食べていくことができなかったが、ギルドが、魔物のコアをギルドが購入するようになり依頼の他に倒した魔物のコアを買い取ってもらえる事から一気に冒険者を志す者が増えた。

 800年の歳月は、大陸全土にギルドの名前を普及させ、ギルド支部を設置し冒険者と各国の軍隊から魔物のコアの購入を行うようになった。

 街や村の外には魔物と呼ばれる人類の天敵が存在していたことで、人や亜人の生存範囲は、魔物避けの塀なり柵なりを用意しない限り、安心して居住できなくなっていた。

 ギルドが出来て冒険者が増え魔物の数が減り始めたことで、人の生存範囲も増えてきたが、魔物は、魔物の渦と呼ばれる場所から発生するので減らされたと言っても発生する事から、数が減っただけで魔物は絶滅する事は無かった。

 魔物は、一つの魔物の渦から1日に1匹発生すると言われているが、ごく稀に1日に何度も魔物が発生する魔物の渦もある。

 そして、始まりの村の西にある砂漠には、転移者と同時に発生する魔物の渦もある。

 ギルドは、魔物を倒した後に現れる魔物のコアを冒険者から購入し、その魔物のコアを活用する事で莫大な資金を得ている。

 そんなギルドには、各国に1支部と数カ所の出張所を用意して冒険者の対応を行なっていた。

 ただ、南の王国には王都と、始まりの村の2支部を置いている。

 それは、転移者が発生する砂漠の近くに支部を置きたかったというギルド本部の意向があった事から、王都と始まりの村の2箇所に支部を設置していた。


 始まりの村のエリスリーンは、始まりの村のギルドマスターであり、種属はエルフ属なので年齢も348歳になる。

 エルフ属は人属よりも、ゆっくりと年を取るので見た目の年齢は人属の70歳程度(計算上は68歳)となる。

 そして、200年以上この始まりの村に来て、ギルド支部のギルドマスターを行なっていたことから過去に現れた転移者を何人も見ていた。

(今回の少年は、どうだろうね。この世界に、何を、もたらせてくれるのかしら……)

 執務室で、石板に書かれた報告書の内容をチェックしていた。

 この世界で使われている羊皮紙は生産量が少なく簡単に使えるようなものではないこともあり、羊皮紙に書く内容は厳選されたのち筆記者によって書かれる。

 限られた羊皮紙には、書く内容も単純明快、可能な限り短くとなっており、最終的にエリスリーンが書類に書く内容をチェックして一文字でも短くするように配慮していた。

 問題無いと思ったら、それを筆記者に回し羊皮紙に書いてもらい書類として残す。

 執務机の上には、羊皮紙の書類も置かれおり、内容は過去の転移者の経歴を書いたものだった。

 過去に現れた転移者の経緯を知ることで、今回の転移者について、どのような対応をするかを考えるつもりで資料室から持ち出させていた。

 エリスリーンは、それを読む前に今日の仕事を片付けていた。

 今日は転移者が現れたこともあり、いつにも増して書類にする内容が多いのだ。

 冒険者セルレインと、そのパーティーからの聞き取り調査の結果、医務室での少年の健康状態の確認、ギルドの受付嬢から上がってきた報告が山になっていた。

(以前の転移者の資料を確認するのは、明日にした方が、よかったかもしれないわね。今日の報告の内容は、いつも以上に多かったわ。今まで、こんなに沢山の報告が上がるなんて初めてだわ)

 エリスリーンは、今までの転移者のつもりで過去の資料を読み返しつつ今回の処理を行おうと思っていたようだが、今回の転移者に対する報告がいつもより多かったのだ。

 その机上に上がった報告と持ってこさせた書類の量を見て、うんざりしているようだった。

 そして、立ち上がると持ってきてもらった過去の転移者の書類だけを持ち上げて応接用のテーブルの上に移動させた。

(これだけ多いと、一度に、両方を処理するのは難しいわ)

 テーブルと自分の机の上を見比べて、分類ができたのかを確認し納得ができたようだ。

 一度、頷くと自分の机に座り、今日の転移者に関する報告を、もう一度読み始め報告の石板を読み返しては、時々、数文字を消して書いてを繰り返していた。

 少しでも文字数を減らし高額な羊皮紙を使う量を減らすのだ。

(でも、何でなのかしら、さっき、確認した時は寝ていたから、よく分からなかっただけ? 今回は報告が多いわね。……。ジェスティエンの次だから、期待はしてなかったけど、これは、意外に何かあるのかもしれないわ)

 エリスリーンは、報告の内容を読んで真剣な表情をし、何か思うものがあるような表情をした。

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