第2話 想いの終わり


 画面が切り替わる。

 画面が切り替わるのが当たり前のように思え、その現実感の無い状況に流されている。

 今度は、目の前に丸テーブルが置かれ備え付けられた椅子に、自分が座って見ている。

 やはり、視界の中央は見えているが、周辺はぼやけて見え、コントラストも低く、明るい雰囲気は感じるのだが、何だか暗い。

 テーブルを確認すると、そこには、細長いグラスが一つ置かれており、そのグラスに緑色の液体と、その上に白い丸い物が乗って、一本の細い筒状の物が刺さっている。

 ここが、何処なのかと思い、確認しようと意識を周りに向ける。

 右側は、緑の葉が生茂る木が立ち並び、左側には煉瓦が埋め込まれた通路が、そこには誰とも分からない人が、自分とは関係なく歩いている。

 テーブルには、日傘が丸テーブルの中央から伸びて、日差しを遮っている。

 テーブルの向こう側には、もう一つ同じグラスが有り、その先に人が座っている。

 誰かと思い、その先の人を見る。


 テーブルの先には、誰かが座っている。

『女性だ』

 目の前には、夏特有の肩が出る服、大きくは無いが女性特有の特徴である胸の膨らみが服の上からも分かる。

 彼女の右手は、目の前に置いてあるグラスに、刺さっている細い筒を摘んで、グラスの中をゆっくりと動かしている。

 その筒に、彼女の口が近付いていき口にくわえる。

 顔を確認しようとして、視線を上にあげると、……、消えた。

 目の前の光景の全てが消えた。

 先程と同じように、画像が左右に揺れるように動くと、確認する前に消えてしまう。

『何が起こった?』

 通常なら、その事に疑問を感じてしまうだろうが、自分の頭の中で、そんな疑問は湧かず、ただ、画面が切り替わるものなのだと認識している自分がいる。


 今度は、事務机の前に座っている。

 先程と同じように、視界は中央部のみで、周りはぼやけていて、コントラストも低く、暗い。

 さっきから、明るい場所のはずなのだが、視界に入ってくる映像は、暗い。

 しかし、その暗さに何も疑問を持つ事は無かった。

 自分の意識なのか、誰かの意識の中に居て、その人の視界を自分が借りて見ているような感覚である。

 机の上には、何か物が置いてある。

 更に、その先には、ディスクトップパソコン用のキーボードと、その右にはマウスが有り、更にその先には、ディスプレーが3台置かれている。

 左のディスプレーには、何かのカタログか部品の画像と、その下に細かな表が記載されている事から画像の部品の仕様が書かれている。

 右のディスプレーには、文字の羅列と、ポンチ絵が載っている。

『何かの仕様書だ』

 正面のディスプレーには、様々な記号が、縦横の線と繋がっており、その記号の脇には、番号や数値が書かれている。

『電気回路? マイク、アンテナ?』

 大半の事をICが行ってくれるから、外付けの部品は、パワーユニットや周波数決定程度で、後はICが勝手に仕事をしてくれる。

 興味がそそられるので、詳しく見ようと目を凝らすと、目の前のディスプレーは、左右に揺れるようになってしまい、気がつくと消えている。


 画像が、切り替わる事は気にならない。

『なんなのだろうか?』

 自分自身が見ている映像なのか、画面の画像を見ているのか、疑問が浮かぶ。

 誰かの意識の中に自分の意識があって、その誰かの視界の中の範囲で外を見ているような。

 今までに味わった事のない感覚だと思うのだが、どこかで味わった感覚でもある。

 しかし、それを味わった場所が思い出せない。


 すると、目の前に、コの字型の机に座っている画面が視界に入ってくる。

 大きな会議室なのだろう。

 目の前の先には、大型のプロジェクターの画面に何かが映し出されている。

 棒グラフと折れ線グラフが描かれ、右方向に行く程、棒グラフも折れ線グラフも上がっている。

 最後の棒グラフだけ色が薄くなっており、そのグラフについてポインターを用いて説明している人の姿が目に写る。

 プロジェクターの左右には、中央に向いてテーブルがあり、そこには、左右に7・8人の男女が、革張りの立派な椅子に座って、プロジェクターの説明を聞いている。

 半数以上の顔にはシワが刻まれており、中には、髪の毛に白い物が混ざっている人もいる。

 正面のプロジェクターの画像をよく見ると、「売上・利益」と書かれていることに気が付いた。

 すると、その瞬間に、画像が、左右に揺れて暗闇になる。

『どうしたんだろうか? 何がどうなっているのか?』

 疑問には思うが、それ以上の追求を自分の思考は求めようとしない。


 新たな映像が飛び込んできた、壇上から観客席を見る画像が浮かび上がる。

 薄暗い観客席は、満席とは言わないが、8割ほどの席が埋まっている。

 ビジネススーツを着ている者も、ラフな格好をしている者、着物を着ている者、様々な格好をしているが、その服装には全く統一性が無い。

 その観客は、席に座って、手元に資料を持っている事は分かる。

 その資料を眺めている人と、自分を見ている人が居る。

『何かの会合なのか?』

 そう思うと、自分は、壇上の中央の演台に立ち、手前のマイクに向かって原稿を読んでいる。

『自分が読んでいる? でも、自分の声なのか?』

 自分の意識とは、別の何かが喋っているように思える。

『そうだ、原稿の内容を確認すれば、ここが何なのか理解できるはず』

 そう思って、原稿に目を向けると、文字が書かれているが、文字が読めない。

 自分の話している内容が書かれているであろう原稿に、何か書いてあるのだが読めない。

 自分の知らない言語ではなく、いつも喋っている言語と理解できるが文字が読めない。

『どう言う事なのだ?』

 壇上で話をしている自分が分かるが、自分の話している事が理解できない。

 周りを見ると、壇上には、左右にテーブルが、前後に二列並んでおり、先ほどの映像の椅子に座っていた面々が、上等なスーツを着て座っている。

 その時、ふと、(会)というワードが頭に浮かんでくると、画像が左右に流れて消える。


 今度は上に引っ張られるような感覚に襲われる。

 自分の体が引き千切られるような力で持ち上げられている。

 意識が遠のき始める。

 何とか意識を保とうとするが、遠のく意識は戻す事が出来ない。


『薄れて。意識が薄れてゆく。何も考えられない。見えない。見え……ない。見え……、な……い』

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