転移

第3話 覚醒


 その少年は、頭が揺ら揺らと揺れるような感覚に襲われていた。

(頭をもたれているような感覚は無い。……。ああ、気絶していたのか。気絶から意識が戻る時の感覚なのか。でも、気絶する前は、何をしていたんだ?)

 一般的には、気絶していたのなら、徐々に頭の中が整理されて冷静になってくる。

 そして、その前の記憶によっては恥ずかしい事だったり、冷静になると、とんでもない事をしてしまったと思うものなのだが、少年には、そんな感覚が無かったようだ。

(気絶していたなら、もう暫くすれば、記憶も戻ってくるはずだが、……)

 体の感覚が、戻ってきているようだが、少年は、記憶について、何も思い出すことが出来ずにいる。

(気絶したなら、倒れた時の、痛みを感じるはず。その痛みを感じれば記憶も戻ってくる?)

 徐々に意識が戻ってきている。

(うっ! 鼻の奥がツーンとするような感覚がする。あ、頭が揺れる)

 うつ伏せた状態で、体がピクピクと動き出した。

(ああ、目の前が、徐々に明るくなっていく、何だか、光の点が、たくさん見えてきた。上下左右に流れて、……。視界が、赤い)

 少年は、体を震わせ始めた。

(変だな。体のどの部分からも、打撲のような痛みも無い。気絶したのなら、倒れた時にぶつけた痛みがあってもおかしくないはずなんだが……。それに、記憶が戻ってこない)

 少年は、体を震わせると、指先が動き出した。

(何なのだろう? この肌に感じる感覚は何だろうか?)

 少年は、うつ伏せで砂の上に寝ている。

 そして、両手を握り地面の砂を掴んだのだが、指の僅かな隙間から握った砂は流れていた。

(砂?)

 左の側頭部、左頬、手の平、腹部には、砂が、そして、そこは日中の砂漠なので少年の背中に太陽の光があたっていた。

(暖かい、……。でも、何だか、暑いような気もする。それに、頭の揺れる感覚も無くなった。それに、何だ? 地面の匂いがする)

 うつ伏せになり、顔が左を向いている、その顔に表情が現れ出した。

 その表情は、何やら不快そうな表情になった。

(閉じている目なら、開ければ良い)

 目を開けようとすると、強い光が飛び込んでくる。

(眩しい)

 もう一度目を閉じると、今度は徐々に目を慣らすように、ゆっくりと目を開け始めた。

 少年には、かなり長く感じたようだが、側から見れば掛かった時間は僅かな時間にすぎない。


 少年は、目が慣れると薄い茶色の砂が敷き詰められている地面を見ていた。

 そして、目を動かした。

 その目は、視線の動く範囲を確認しているようだった。

 動かしていた視線が止まると、今度は肩が動くと腕に力を入れた。

 何も着てない裸の状態なので、筋肉の動きが手に取るようにわかり、筋肉の動きから、次の動きが周りからはすぐに予想がつく。

 少年は、周りを確認する為に、両腕を使って上体を起こして周りを見渡した。

 そして、手足を確認するように動かして、四肢になんらかのダメージが無いか確認をし、体も捻って動きを確認した。

 そして、目の前を確認するように見た。

 そこには砂漠が広がっていて、その先は地平線が見える。

(地平線が見えるって、ここは、とんでもなく広い砂漠じゃないのか)

 腰を上げてから、上体を立てて正座をするように座るのだが、足の指が外に向いて座っている。

 体は、男の子なのだが、正座をして足が外に出るような男の子は珍しい。

 股関節なり腰なりの関節が、普通の男の子とは違うようだ。

(何だ。丸裸じゃないか)

 体には糸一つもないが、倒れていた時に付いたと思われる砂が、所々についていたので少年は手で軽く払った。


 前を見て、うつ伏せた状態から座った状態になった事で、少し視界が広がったが見えるものは砂漠だけである。

 少年は、体を右に捻って後ろを見た。

 そこには、大きな岩が聳え立つようにあることを確認した。

 そして、その岩が気になったのか、岩を見つつ立ち上がり岩の方に向かって歩き出した。

 歩き出すといっても歩いた歩数は4歩だけだった。


 その岩は少年の身長の3倍はあった。

 少年は、その岩を右手で触って表面の肌触りを確認していた。

 その岩は、その場に長年さらされていたこともあり、風に乗った砂が岩の表面を研磨し綺麗になっていた。

 触っても肌が切れるようなことはなさそうだった。

(砂漠で陽の光に当てられているから、かなり、熱くなっているな)

 岩は、直角に反り上がっているわけではなく僅かに傾斜があり、砂漠で砂塵に晒されていたので表面はかなり滑らかになっている。

 だが、岩には、所々に出っ張りが有るので、その出っ張りを手で握れそうな事から、その出っ張りを伝っていけば登れない事は無い。

(急斜面のようには見えるが、登れない角度では無いな。それに高い所から見たら、遠くまで見渡せるかもしれない)

 すると、少年の後ろから、砂が擦れるような音が聞こえてきた。

『音の方向を確認しろ』

 少年の心の中で、そんな声が聞こえたように思えたのだ。


 少年は、音の方向に振り返った。

 後ろを振り返ると20メートル程先の砂が、軽く山のように盛り上がり、その砂の中から何かが浮き上がるように出てくるところだ。

 砂の中から出てきた、それは黒い色をして砂とは対照的な色なので何かが出てきたと誰が見ても直ぐに理解できる。

 その黒い物体は、砂から出ると徐々に動きだした。

(生き物だ)

 そう思った瞬間、少年の表情が強張り呼吸が速くなった。

(何だ? でも、あの形は、攻撃的な感じがする)

 少年には、何なのかは分からないようだが、少年の本能が危険を知らせているのか表情が強張った。

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