転移者ジューネスティーンの誕生  パワードスーツ ガイファント 序章 〜突然、別の世界に飛ばされた子供達〜

逢明日いずな

第1話 駆け巡る想い


 暗闇。

 気がつくと何も目の前に見えてはいない。

 完全な闇が目の前に広がっている。


 首を下に向けて、自分の体を確認しようとしてみる。

 ?

 両手を見ようと思い、手を動かそうとするが、手の感覚がなんなのか?

『どうなっている』

 なら、さっき迄の記憶を辿ろうと、思考を巡らせるが、何も思い出せない。

 自分の名前は何だったのか、それすらも思い出す事が出来ない。


 今、自分の置かれた状況に思考を巡らせようとするが、何も見えない。

 耳をすませても、……、何も聞こえない。

 手を動かそうとする。

 しかし、手の感覚が感じられない。


 慌てて、手の感覚が感じられないのに、思考は、必死に手を動かそうとするが何も感じられない。


 足の感覚も、何もかも感じられない。

 ただ、思考だけが、手足や体を動かそうともがく。

 助けを呼べばと考え、「助けて!」と、声を上げようとする。

 しかし、声にならない。

 なんでなのか、全く理解できない? 

『ん? 呼吸もしてない? でも、苦しくもない。まさか、そんな。……』

 そう思った瞬間、有るのかどうかも分からない、頭の頂上と後頭部の中間あたりを、何かに引っ張られる感覚を受けたように思うのだが、自分に肉体があるのか、それすらも理解できない状況なのだ。

 人なら、顎が上がって、引っ張られるのだろう。

 そんな感覚にとらわれると、意識が、ゆらゆらとし始める。

 何だか、押さえ込まれるような、落ちるような、頭が押さえつけられるような感覚に襲われると、その後は、軽くなるようなというか、浮き上がるような感覚になる。

 フワフワと、波間を漂うような感覚、何とも言えない気持ちよさを感じる。

『……』

 ふと、目の前に、人の顔が何かを話すように口が動いているのだが、視界の中心に人の口元が見えるが、視界の中心を外れるとぼやけて見え、そして、コントラストも低く、かなり暗い。

 明るいように思えるのだが、視界に入ってくる映像は、暗い。

 音は、水の中から聞く声のように、よく聞き取れない。

 ただ、暖かな心地よい気持ちが伝わってくる。

 目の前に、人の顔が浮かんでおり、その口元が目に入る。

 その口元の感じから微笑を浮かべていることがわかる。

 その暖かそうな口元には、ほうれい線が目立たない事からも、首にシワもない事から若い女性(20代?)なのかと思われる。

『誰なんだろう』

 そう思い、目の前の顔を確認する為に、その人の、目を見ようと、少し上に視線を移そうとする。

 だが、その瞬間に、目の前の顔が揺らめいて波打ってしまい、顔の確認できなくなって、闇に変わってしまう。


 気がつくと、今度は、建物が目の前に現れる。

 先程と同じように、見えてくる景色のコントラストは低く、明るいイメージの場所なのだが、暗く見える。

 そして、普通なら視界全体に見えるのだが、視界の中心以外がよく見えない。

 その不思議な感覚の視界を、何となく眺める。

 地上3階建、横に100メートル程と長い建物の正面にいる。

 それを50m程、離れた地上から眺めている。

 しかし、視界は正面だけが見えており、周辺はぼやけている。

 見ている建物は、見た覚えのある気がするが、思い出せない。

 建物は見えているが、その周辺部分がぼやけて、濃い灰色掛かって見えており、心の奥で、その灰色の部分は見てはいけないと、ささやかれているように思えた。

 その無意識が、語りかけるような感覚を感じつつ、目の前の建物を見ると、どの階にも窓が有り、建物の柱以外は全て窓になっている。

 何の建物なのだろうかと思いながら眺めていると、窓の手前に、たいして広くも無い、2人が並んだら、肩が当たる程度の幅のベランダがあるのだが、部屋毎に仕切られている訳ではなく、隣の部屋に移動する事も可能だ。

『マンションとは違う』

 視線を下げていくと、一階の床は地面より1メートル程高くなっており、建物の一階の中央に、大きなガラスの嵌め込まれたサッシの扉が数枚並んでいる。

 この建物の玄関なのだろうか、幅が20メートル程ある。

 そして、サッシは開かれている。

 サッシの扉の手前には、サッシの扉全体と同じ幅の、タイルの貼りのコンクリートの床と、その前には5段ほどの階段が、扉と同じ幅でつながっている。

 その手前の階段を降りた先は、建物より広い平らな地面が広がっており、白線がかなり離れた箇所に1本、また1本と引いてある。

 視線で、その白線をおうと、白線は、大きな四角形が、二つ並んで描かれ、その外側には、四角形の面と同じ直径の半円が描かれている。

『陸上のトラックのようだ』

 視線を直ぐ横に移すと、身長より、1メートル程高めのコンクリートの柱が、両脇に立っており、その先はどちらもコンクリートの壁が連なっている。

 この建物を覆う塀になっている。

 左の柱の先の壁に、自分より少し高い位置に、大きなプレートが埋め込まれて、プレートには文字が書かれている。

 文字の右側から徐々に確認していくと、文字が見えてくる「校」「学」と左から順番に見える。

『……学校』

 学校まで確認する。

 その先にある文字を見ようと、左に目を向けようとすると、画面が左右に揺れながら流れていき、真っ暗な画面に切り替わった。

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