第13話 サソリの魔物 対 セルレインのパーティー 3


 セルレインは、子供の首の動脈を確認すると生きている事を確認した。

 そして、口元に顔を近づけて呼吸も確認した。

 子供の生存が確認できたので、後はどこかに怪我は無いか確認するのだが、まずは体全体を見ていた。

 血の付いた痕跡が無いと確認すると、今度は、四肢を触り出し骨が折れてないか確認を始めた。

 そして、関節も骨も大丈夫そうだと分かると、セルレインは子供を抱き抱えて岩を降りた。

 子供を抱えたセルレインが降りてくると、早速、メイノーマが興味深げに、抱えている子供を覗き込んだ。

「ねえ。この子、10歳位かしら、もう少し小さいのかもしれないけど、身長100センチってところかな。ちょっと可愛いかも。ねえ、私にも抱かせて」

 せがまれるのでセルレインは、メイノーマに子供を渡した。

 20歳のメイノーマではあるが、童顔なため周りから見ると母性本能と言うより姉が弟を見るような目で少年を見ているように思えるのだが、何だか子供をあやす母親のように子供を覗き込むようにも見える。

 メイノーマは、微妙な表情をして少年を見ていた。

 セルレインは、その子供を渡しながら何かを考えているようだ。

 そして、視線が、その子供の顔から外れなかった。

(俺達がサソリを倒そうとして向かってた時、この子は岩の上で、股間の逸物を立たせてた。あれは、恐怖よりも、未来を見ていた証拠だな)

 さっきのような最悪な状況で、恐怖から絶望しているなら、そうはならず絶望から全身の血が引いていくことで通常なら縮み上がってしまうものだが、この最悪な状況でも興奮して戦意を失ってなかった証拠だと感じていたのだ。

 それは、冒険者にとってというより人として諦めない事を証明している。

 少年は、死ぬかもしれない状況でも次の一手を考えていた事を意味している。

 もし、自分達がここを通り掛からなければ、この少年はサソリの魔物に喰われて死ぬか、岩から降りずにいても裸で砂漠の太陽にさらされているのだから、時間が経てば確実に死ぬ運命にあった。

 だが、この少年は、そんな状況でも諦めずにいて生きる方法を探して足掻いていたことを証明している。

(この子が成長したときは、どうなっているのか。まあ、これだけの度胸なら、どこまで上り詰めるのか楽しみだな)

 そんな事を思っていると、アジュレンが不安そうな表情でセルレインを見ていた。

「セルレイン、その子が転移者だったら、俺たちの言葉は通じないぜ。その子が目覚めても、サソリを倒した時、俺たちは認識阻害で、その子から、見えて無かったんだ。俺たちが、お前を助けたって言っても、通じない言葉じゃ、その子に伝わらないぞ」

 アジュレンの言う事は、もっともである。

 言葉も通じない大人に抱えられていて、恐怖を感じない子供は居ないとセルレインも同意したようだ。

「そうね。その子が起きないうちにギルドまで連れていった方が面倒にならないわ」

 アジュレンと同じ意見をウィルザイアも言った。

 それを聞いて、セルレインが言いそびれた事を、ウィルザイアに言われてしまったと思ったように表情を顰めた。

(くそ! 先に言われてしまった。それより、早めにギルドに連れて帰った方が良いだろうな)

 セルレインは、ここは正直に答えた方が良いと思ったようだ。

 ここから6キロ以上有る、始まりの村まで帰る時間を考え、途中で子供に暴れられたらどうなるのかを考えると、一番困るのは背負ったメンバーの武器を子供が手に取ってしまうことだ。

 何らかの方策を考えておかないと思わぬトラブルになってしまう可能性がある。

「そうだな、……。この子は、俺が、背負ってギルドまで連れて行く。すまんが、俺の武器は誰かが持ってくれないか? 途中で目覚めて暴れられてとか、万一、両手が塞がっている時に、俺の武器をもたれたら洒落にならないからな」

 そう言うと、ストレイライザーがセルレインの剣を持ってくれたので、他のメンバーたちに胸元や腰、手首に仕込んである武器を渡すと、それぞれがセルレインの武器を保管した。

「これで、俺は丸腰だ。何か有ったら、お前達で対応してくれ」

 そう言って、メイノーマが抱ている子供を背中に背負うと、少年の上からマントを羽織らせてもらった。

「問題無い。ここから始まりの村までです。このサソリ以上の魔物は現れないから、安心してくれて構わないわ」

 メイノーマが、少し残念そうな表情でセルレインに子供を背負わせながら答えた。

 背負わせ終わると、その様子を見ていたウィルザイアがセルレインに声をかける。

「セルレイン、私はスリープの魔法が使えるのよ。魔物だけじゃ無くて、人にも有効よ」

 セルレインは、それを聞いて思い出したというような表情をした。

「ああ、そうだった。うん。坊主が目覚めそうだったら、直ぐに掛けてくれ。ショックで気絶だから、直ぐに目覚める可能性がある。それと、呉々も永遠に眠らせるような魔法にならないようにな」

「分かったわ」

 ウィルザイアは、自信を持って答えるので、セルレインは安心した表情を見せた。

 強すぎるスリープの魔法では目覚めるまでに時間が掛かる。

 魔物にかけるような強力な魔法だと、小さな子供だと掛かり過ぎてしまうこともあるので、その辺りを指摘したのだ。

 だが、ウィルザイアも魔法には精通しているので、言われなくても理解できている。

 ただ、ウィルザイアは、セルレインが常に言葉にして、情報共有をしようとするので嫌味で言っている訳ではない事を知っている。

 すると、横からさっき子供を抱き抱えたメイノーマが声をかけてきた。

「ねえ。私も、そばで見ていても良い? 何だかこの子可愛いわ」

 先ほど子供を受け取っていたメイノーマは子供好きで、暇な時は宿の近くの子供達と遊んでいる事がある。

 20歳のメイノーマなのだが、精神年齢が、この子と同じなのかは分からないが、子供好きはメンバーからも知られている。

「ああ、見る目は多い方がいいだろう。ウィルザイアのフォローを頼む」

「はーい」

 笑顔で返事をするメイノーマを見てアジュレンがまとめる。

「じゃあ、俺が目と耳になるから先頭を進む。リーダーは、後ろからついてきてくれ。それと、ストレイライザー、殿を頼む」

 そう言うと、始まりの村に1人の子供を連れて戻る事にするのだった。

 自分達の狩りは、早く終わっていたので、今の戦闘の時間を考えても、日暮れよりも早くギルドに子供を届けられそうだとメンバー達は思っているようだ。

 6人は、転移者と思われる子供を連れて始まりの村のギルドに向かう。

 そして、届けた時に受け取れる報酬の額を思うと、6人の足取りは軽く表情も明るかった。

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