安心

第14話 転移者の少年


 セルレインと、そのパーティーは砂漠の地下遺跡から出た先で、1人の少年を助けると始まりの村までの帰路についた。

 歩き出すとメイノーマは直ぐにセルレインの横を歩き、背負われている少年の寝顔を見ながら声をかけてきた。

「ねえ、この子、大物になるかもしれないわね」

 セルレインは、自分が見て感じていた事を、メイノーマも見ていたのではないかと考え、少し意地悪そうな顔をした。

(メイノーマめ、この少年の股間を見て大物だって言ったな。確かに魔物に追い詰められていて怯えるなら縮こまっているが、気持ちを奮い立たせていたなら、あそこも立つわな)

 セルレインは、直ぐに表情を戻してメイノーマの話を聞きたいと思ったのか、視界の隅でメイノーマを捉えた。

「なんで、そう思うんだ」

「だって、岩の上で元気だったじゃない。あんな状態に置かれて絶体絶命だったのよ。私達が居なかったら、遅かれ早かれ、この子の命は無かったはず。でも、この子は、必死に足掻いていたじゃない。かなり興奮気味だったから、あれは死ぬことを諦めてなかった証拠よ。危機的な状況で諦めないなんて、大の大人でも難しい事なのに、この子は諦めて無かったわ」

 セルレインは、話に納得したような顔をした。

「どうして、今の話で、この子が大物だって思えるんだ?」

 セルレインは、自分が背負っている少年に感じた事を、メイノーマも感じていたのだと思ったようだが、その事を、メイノーマが、言葉にした時の顔が見たいと思ったのか意地悪そうな笑みを浮かべた。

「だって、この子、あの状況で、立ってたじゃない」

 メイノーマは、口を滑らせた。

(あー、言った)

 セルレインは、それを聞いた瞬間、やっぱりといったように笑みを顔に浮かべた。

 そして、顔をメイノーマに向けた。

「どこが?」

 そう言われて、メイノーマは顔を赤くし黙ってしまった。

 自分から、その場所を口に出す事ができずに恥ずかしくなったようだ。


 そのメイノーマの態度を見て、セルレインは少し悪い事をしたと思ったみたいだ。

 ちょっと、表情を曇らせると、メイノーマに話しかける。

「多分、俺も他のメンバーも、お前と、同じ事を考えていると思う。だが、こいつが大物になるかどうかは、これからの、こいつ次第なんだよ。当人がそれを望めば、それは叶うだろうが、……」

 そう言って、セルレインは少し考えるように黙った。

「周りがどんなに期待しても、当人にその意思がなければ大物にはなれない」

 メイノーマは、セルレインの大物にはなれないという言葉に少しがっかりした。

(大物になるかどうかは、当人次第だと言ったつもりだったが、メイノーマには伝わらなかったのかもしれないな)

 セルレインは、正論を言ったつもりだったのだろうが、メイノーマの、がっかりした表情を見て少し言い過ぎたのか、上手くメイノーマに伝わらなかったかと思ったのか少し渋い顔をした。

「だが、俺も、こいつは、大物になれる素質を持っていると思うぞ」

 そう言われて、今度はメイノーマの表情は明るくなった。

「死ぬか生きるかって時に、こいつは、生きる事を選択していたんだ。どんな困難でも立ち向かう勇気が備わっていると思って良いだろう」

 メイノーマが顔を赤くした少年の興奮状態の事を、セルレインも感じていたのだが遠回しに言ったのだ。


 ただ、セルレインは、この少年の死に直面した状況でも、生きる事を選択していたことに期待をもったようだ。

「転移者には、前世の記憶の断片が残ると聞いた事がある。はっきりと覚えているなら、もっと転移者の記憶から、この世にない物が、生み出された話を聞く事があるだろうし、それに、俺たちの生活も、もっと良くなっているはずだ。だが、それが出来てないって事は、転移者は、断片的にしか覚えてないから、抜けた記憶は、自分で考える必要があるって事だろうからな。多分、こいつもそうなるだろう。何かのタイミングで、その記憶の断片を思い出したとしても、全体像まで簡単に思い出せるとは思えない」

 セルレインは、一つ大きく呼吸をして、背負っている少年の位置を上にあげると話を続けた。

「何かを、……。新しい物を創造しようとしても、直ぐに完成するなんて事はないんだ。一つの成功には、沢山の失敗が積み重なって、初めて、成功に導くものなんだよ。失敗するって事は、壁に当たるって事なんだ。壁にぶち当たって、前に進まなくなるだろう。そして、追い詰められて考える。だけど、何も思い浮かばない、また、もう一度、初めから考え直してみる。それを繰り返して考えて、考えて、考え抜いてから、色々、試してみて、初めて、全く別の方法が、頭に浮かび上がる事がある。それが、閃くってことなんだよ」

 そこまで話しをすると、セルレインはメイノーマの表情をチラリと見ると難しそうな顔をしていたので苦い表情をした。

(メイノーマには、話が難しすぎたのか)

 そんなメイノーマの表情を確認してから、また、話し始める。

「あーっ、閃くってのは、その問題に、真剣に向かった時なんだよ。世の中に無い物が欲しいと思ったとする。あったら、いいなと思うものを、思いついたとする。世の中に無い物を、どうしても欲しいと思ったら、自分で作るしかない。その無い物を作るには、どうしたら良いかと、考えて、考えて、更に考える。その間に、色々な、道筋を描くんだ。考えて作ってみて失敗する。失敗したらその原因を探して、その問題を解決するか、別の方法を考える」

 セルレインは、そこまで言うと少し間をおいて、メイノーマの表情を伺い話に付いてこれるのかを確認すると、なんとなくではあるが、理解できていそうだと思ったようだ。

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