第15話 転移者の少年 2
セルレインは、少年が興奮気味でサソリの魔物と対峙していた事をメイノーマに指摘されたのだが、それは、セルレインも分かっていたことだったので女性であるメイノーマに少し意地悪を思いついたようだった。
ただ、その話の後は、少しメイノーマには難しい事を話してしまい上手く理解できない部分があった。
それをセルレインは、噛み砕いて説明をしていた。
メイノーマは、セルレインの説明が進むと凹んだ表情から希望に満ちた表情に変わってきた。
それを見て、セルレインはホッとした表情をすると話を進めた。
「新しいものを作るってのは、そうやって数百も数千もの道筋を考えて試してみて失敗して、最後の一つだけが成功になるんだ。失敗して原因を突き詰めて対策を考える。新たな方法を考えて、見つけるのが、閃きなんだよ。人は、どうしても途中で諦めてしまうが、それを諦めなかった人にだけに閃きが降りてくると俺は思っている」
メイノーマには、余計に分からなくなってしまったのか表情に渋さが少し見え隠れしている。
(考え抜かなければ、閃く事はない)
メイノーマの頭の中には、それだけは残ったようだ。
メイノーマは、セルレインの話を聞いてから黙り込んで考えている。
(そうか、閃く前には壁があるのか。それに壁に当たって、それを乗り越えるには苦しみを伴うのね)
メイノーマは、考えるような表情で少年の顔を覗き込んだ。
その顔を見て、何か遠いもの見るような目をした。
それは、まるで自分と少年を重ね合わせているようにも見えた。
「今の話を聞いていたら、冒険者を目指して、剣を使いこなすまでの訓練の時の事を思い出したわ。何度も挫けそうになって、手のひらにマメができて、そのマメが破れて痛みと闘いながら剣を振り回していたのよ。泣き出しそうになって、凹んでいた時に、近所の子供にかけられた一言で救われたわ」
セルレインは、メイノーマの昔の話を聞けるとは思ってなかったのか、自分の話から何でメイノーマの昔話になるのかと思ったようだが、メイノーマが自分の話から、どんな事を考えたのか気になったようだ。
セルレインは、黙ってメイノーマの次の言葉を待っていた。
「ねえ。この子にどんな才能が眠っているかは分からないけど、それを応援する事はできるわよね。ほら、挫けそうになった時に励ますとかなら、私にもできると思わない」
セルレインは、メイノーマの思いが良い方向に向いていると思ったのか表情が和らいだ。
「ああ、そうだな。背中で寝ている小僧が、何か新しい物を考えたとして、そう簡単に完成まで持っていくことは無理だろうな。完成するまでには、挫折の繰り返しだろうから、その時に気持ちを、持ち上げてやるのは、周りの人の役目だろう」
そこまで言うと、セルレインは、また、メイノーマの表情を確認してから話を続ける。
「その時に、上手い言葉をかけるのが、年長者の役目だと俺は思う。挫折したままで終わるか、もう一度挑戦しようと思うか、気持ちをコントロールできるような言葉をかけてやれば、子供の未来は大きく変わってくるはずだ」
メイノーマは、セルレインの話を聞いて自分にも少年に出来そうな事がありそうだと思ったように表情は、どんどん明るくなっていった。
セルレインの背中で寝ている男の子の話を、セルレインとメイノーマが2人で話しているのを、後ろで聞いていたアイカペオラが話に入ってきた。
「そうだろうね。そんなに簡単に前世の記憶を呼び出せれば、私たちはこうやって、砂漠を足で歩くこともなく、別の方法で、簡単に移動だって出来ているでしょうね。この子が、ひょっとしたら、そんな物を作ってくれるかもしれないわ。メイノーマが、上手く励ましてくれたら、作ってくれるかもしれないわね」
そう言って、イタズラっぽい笑みをメイノーマに向けた。
「そうよ、ひょっとしたら、夜でも昼間のように明るくしてくれるかもしれないわね。そうなれば、この砂漠を抜ける時だって、暗くなる時間を気にせずにいられるわ。メイノーマ、この子の才能を引き出すのは、あなた次第かもね。期待してるわよ」
アイカペオラにつられて、ウィルザイアも話に入ってきたのだが、半分冷やかしが入っているようだ。
しかし、メイノーマは、2人の話を真摯に受けてしまったようである。
そういった未知の物を、この少年に作らせて実現させるのは自分の役目のように言われた気がして、少しプレッシャーを感じているようだ。
セルレインは、メイノーマの表情を見ると、また険しさが漂っていたので、余計な話をメイノーマにしたなと後ろの2人に思った様子で渋い顔をしていた。
(おい、今の話の内容だと、この小僧が新たな発明をするのはメイノーマの責任のようじゃないか)
セルレインは、余計な事を言うものではないと言うような表情を浮かべた。
「だが、今のアイカペオラとウィルザイアの話は、夢物語に過ぎないだろ。転移者だって万能じゃないからな。もし、転移者が、そんなに万能だったら、今の話は、全て現実にあって、俺たちは夜でも明るい砂漠を歩く事なく、くつろぎながら何かに乗って移動しているってことなんだよ。まあ、この小僧が、どんな風になるかは本人次第だが今の話を実現してくれるとは思えないな」
そう言われて、メイノーマは、自分がプレッシャーを感じる必要は無い事に気がついたのか表情が明るくなった。
2人が言ったような夢物語の物を、自分は少年に作らせる必要が無い事に気がつくと、何を考えていたのかと思ったように表情から緊張が和らいだように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます