第12話 サソリの魔物 対 セルレインのパーティー 2
セルレイン達は、地下遺跡の入り口付近で外の光に目を慣らしていた。
全員が、外の明るさに目が慣れた頃、セルレインは、ウィルザイアに攻撃開始の合図の前に指示を出す。
「それじゃあ、認識阻害の魔法を頼む」
リーダーの指示で、ウィルザイアは手に持つロットを両手で胸の前に持ち一度ロットをおでこに当てる。
そして、もう一度ロットを胸の前に持ち詠唱を始める。
「神より与えられし力を発現する。力・理・物・粒・心、五大元素よ、我に力を与えたまえ」
そう言うと、ロットを時計方向に一度回すと、その円に接するように五芒星を描く。
描き終わると、更に詠唱が続く。
「魔の力を持って新たな願いをここに示します。今よりこの6人のメンバーたちの認識を、この世から外し、他者から見えず、聞こえず、何も感じる事を止める事を望む。ただし、我等メンバーだけにはそれぞれの位置を示せ」
念ずるようにロットを高く上げると最後の詠唱を始める。
「御加護を我等に与えたまえ」
その瞬間、全員の体が薄く半透明になりメンバーそれぞれの後ろの景色が見えるようになった。
いつもの認識阻害の魔法が掛かると、メンバーには半透明で他のメンバーの位置を見ることが出来る。
しかし、メンバーにはそのように写るが、メンバー以外は何も見ることができない。
「よし、かかったな。じゃあ、いくぞ!」
そう言って、地下遺跡の入口から砂漠の丘陵を越えて一気に走り出した。
ストレイライザーが、先頭で一直線にサソリの魔物に向かうと、その少し後ろ、横に1.5メートル程離れた所、左にセルレイン、右にメイノーマが進む。
更に、その後ろから少し外側をアイカペオラとアジュレンが走る。
ストレイライザーを中心にクサビ型に展開した形でサソリの魔物に突進した。
魔物は、岩の上にいる子供を威嚇しているので、後ろから迫る5人に気がつかないが、岩の上にいる子供はセルレイン達の方を不思議そうに見ていた。
認識阻害の魔法は、自分達のパーティーメンバーには見えても岩の上の子供にはわからないはずであり、鎧や武器の擦れる音も遮断してくれるのだが、砂の上には足跡が残り、その時に砂が擦れる音までは消すことができない。
後ろから5人が迫っている事を、サソリの魔物には気付かれずにいるが、5人の足跡に子供は気がついたようだ。
ストレイライザーがサソリとの間合いに入ったので、腰につけた剣を右手で引き抜くと上空目掛けて突き上げ、左手を添えて一気に袈裟斬りに振り下ろすと、魔物の尻尾は斜めに切れて砂の上に落ちた。
尻尾が切れた事を確認しながらストレイライザーは、蹲み込んで頭を下げ、次の攻撃の邪魔にならないようにした。
その脇を、セルレインとメイノーマが、駆け抜けて斜め上から魔物の外に向けて剣を振った。
手前の岩に触れず、サソリのハサミを同時に切り落とした。
剣の長さを十分に理解している達人の技である。
魔物は、岩の上にいる少年を捕食することに集中し過ぎていた為、尻尾を切られた時に違和感を感じたようだったが、ハサミを切り落とされて、初めて自分が攻撃されていると理解したようだ。
「キィーーーーーッ!」
サソリは、ハサミを切り落とされると、耳をつん裂く甲高い悲鳴に近い鳴き声を上げた。
メンバーは嫌な顔をするが、この魔物の発する悲鳴は何度も聞いた事が有るので悲鳴に備えて心の準備はしていた。
だが、岩の上の子供は耳を押さえてヘタリとしゃがみ込んだ。
セルレインは、子供の行動を見て初めてサソリの魔物の断末魔の声を聞くのだろうと思いつつ次の攻撃に備えていた。
サソリは尻尾に異変を感じたのだが、一瞬何が起こったのか分からなかったのだろう。
しかし、目の前のハサミが切れ落ちる様子を見て事態を把握したのだ。
切れて落ちるハサミを見て魔物は悲鳴をあげた。
そして、その瞬間に、自分が捕食者から被捕食者に立場が変わった事に気が付き、獲物を食べるではなく、自分が、この場所から逃げる必要が出てきたのだと思うと奇声を上げたのだ。
しかし、その判断は遅く、ハサミが砂の上に落ちると、更に後から来たアジュレンとアイカペオラがサソリの胴に剣と槍を突き刺し動きを封じた。
動きが完全に止められ、攻撃の手段である一対のハサミと尻尾は切り落とされた魔物は逃げようと足掻くが、胴に刺さった剣が体を貫通しており、足掻いて逃げることもできない。
すると、ハサミを切り落とした2人がサソリの頭にそれぞれの剣を突き刺した。
サソリは、一瞬、硬直するが直ぐに力が抜けていく。
サソリが、完全に動かなくなると体から黒い霧を出し始めた。
魔素から生まれる魔物は、命を失うと魔素に分解してしまい触媒となっている魔物のコアを残す。
体から魔素が出始めた魔物は、完全に死んでおり、それ以降は動く事は無い。
その事を知っているメンバーは、自分の武器を引き抜いて収めると魔素が完全に消えて魔物のコアが現れるのを待つ。
(そろそろ、認識阻害の魔法が切れる頃だ)
認識阻害の魔法が有効な間で、サソリの魔物を倒せたことに、セルレインは安堵したようだが直ぐに岩の上を見上げた。
すると、岩の上の子供が倒れたので、セルレインは、岩を登り子供を抱き抱えると、丁度、認識阻害の魔法が切れてメンバー全員の姿が現れた。
セルレインは子供に声をかける。
「おい、坊主! 聞こえるか? 怪我はないか? 痛い所は?」
セルレインが、そこまで言うと子供は意識を完全に意識を失った。
セルレインは、慌てて少年の首に手を当て脈を確認し、そして、口元に顔を近づけて呼吸を確認し、そして、ホッとした様子でため息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます