第11話 サソリの魔物 対 セルレインのパーティー


 セルレインたちのパーティーは、この地下遺跡の狩場で魔物を狩って倒した魔物から出る魔物のコアをギルドに売って生計を立てている。

 ギルド所属の冒険者達である。

 数年に渡って、この界隈で狩をしているが冒険者になってから、転移者が現れた話は聞いた事が無かったので、初めて遭遇した転移者に少し興奮気味である。

 いつものように、地下遺跡の魔物を倒してコアを集めた帰り道で、入口近くに初めて転移者と思われる子供を発見した。

 メンバーの誰一人として、今までに転移者を助けた事はなく、この始まりの村限定で掲示板に貼られている転移者の保護に対する報償についてのビラを見るだけだった。

 だが、今、そのビラの内容が目の前にある。

 しかも、生きた状態で岩の上にいる。

 セルレインも、アジュレンも、その子供の怪我については、何も言って無かったので無傷で岩の上に居るのだと残りの4人は想像している。

 報奨金を6人で山分けしても、いつもの収入より遥かに高額になる。

 6人は、その報奨金に心を弾ませているのは側から見て直ぐに分かるほどだ。

 セルレインは、メンバーの士気が高いことに満足そうな表情をしていた。

「それじゃあ、作戦だ。まず、ストレイライザーを中心に、左右に2人ずつ配置する。左に俺とアイカペオラ、右にアジュレンとメイノーマ、後方支援はウィルザイア、魔物に近づく時に認識阻害を頼む。それと今回は剣のみで倒す。あの魔物は、岩の上の子供に夢中になっている事と、あの魔物を切り裂くには、剣が有効だが、弓や投擲では倒すことができない。確実に仕留めるには剣の方が良い」

 セルレインの作戦に、5人は納得したように頷いた。

 セルレインたちのパーティーは、ギルド全体からすれば末端の取るに足らないパーティーではあるが、この大陸の最南端の小さな砂漠でなら中堅どころとして活動しているパーティーとなる。

 サソリの魔物は尻尾に付いた毒針が一般的なのだが、ここに現れるサソリは、毒は無く先端が鋭利な刃物のようになった尻尾と、口の横に有る触覚が変化した一対のハサミが攻撃手段である。

 その攻撃手段を潰せば簡単に倒せる魔物である。

「ああ、その通りだな」

 ストレイライザーが、代表した形でセルレインに答えた。

 他から、異論が出なかったこともあり、全員がリーダーであるセルレインの意見に賛成した。

 全員が納得したと判断すると、セルレインは次の指示を出す。

「それで、ストレイライザーは、最初にサソリの尻尾を切り落としてくれ。周りからも、同時に進むから可能な限り横ではなく縦に斬ってもらいたい」

 振り回しすぎて、同時攻撃している他のメンバーに危害が加わらないように配慮をしておく事を伝えた。

 適当な指示や、不明瞭な指示は事故の元になる事から、指示や命令は、誰が聞いても同じ事ができるようにする。

 セルレインは、リーダーとして当たり前の事を丁寧に進めた。

「分かった。右上から袈裟斬りにする」

 最初の一撃について指示を受けたストレイライザーは、指示の内容から自分の仕事の内容を考えて伝えた。

 “分かった”だけなら、他のメンバーはストレイライザーが、下から斬り上げるのか、上から斬り下ろすのか、右なのか左なのか、実際に戦っている時に確認してからの対応になる。

 確認の後に対応を考える事になると、後ろのメンバーは何種類かの手を考えておき、どの手段で対応するかストレイライザーの攻撃を見て判断しなければならない。

 その為、第2撃に僅かの遅れが生じることもある。

 それが致命的な失敗に繋がることもあるとメンバー達は認識しているから、ストレイライザーは、“右上から袈裟斬り”まで伝えた。

 セルレインは、それを聞いてストレイライザーの剣が、振り回される範囲を頭の中でイメージするように考えていた。

 同時に攻撃するアイカペオラも、同じように考えていると、セルレインは、その様子を見て安心したようだ。

「その後は、左右から、俺とメイノーマで、サソリのハサミを切り落とす。それと同時に、残りはサソリの胴を剣で突き刺して動きを止める。最後に、俺とメイノーマが、止めに頭を剣で刺す」

 自分達が、魔物から認識されてない時の作戦としては、一般的なもので確実に仕留めることが可能だ。

 特に今回は、目的の魔物が岩の上の子供を狙っており、その後ろから認識阻害の魔法で姿を隠して迫るのだから、奇襲攻撃の中でも成功の確率は高くなる。

「分かった。セルレインの作戦で進めよう。ああ、それと、魔物の先は岩だから、その岩に剣を当てないようにね」

 セルレインが、ハサミを切り落とす時の、注意点を言い忘れていた事を、後方支援のウィルザイアがそれとなく指摘した。

 慌てて、セルレインは、その方法を伝える。

「なら、内から外に払う事になるから、ストレイライザーは尻尾を落としたら、一度体を低くして欲しい。第2撃は、あんたの頭の上を剣が通過する事になる」

「了解だ」

 ストレイライザーが了承すると、メンバー全員がセルレインの作戦に納得するように頷いた。

「じゃあ、始めようか。転移者の子供を助けてボーナスを貰おう」

 作戦が決まった。

 後は実行するのみとなった。

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