第10話 冒険者 セルレインと、そのパーティー 3
全員の意見が、岩の上に登った子供を助ける方向に傾いた。
その後は、リーダーであるセルレインが、子供を助けるか決定するだけになる。
そして、決定したら次に起こす行動は決まっている。
セルレインは、メンバー達の表情を一人一人確認した。
自分達は、目標を達成したから帰ることになっていた。
そんな状況からの戦闘は気を付けないと大怪我を負う事がある。
それは、戦闘を終了して始まりの村に帰ると決めたことで、一旦、切れてしまった緊張の糸が元に戻るかどうかなのである。
気持ちでは、もう一度、戦闘になると分かっていても、体がついてこなかったり、また、その逆もある。
地下遺跡での戦いも終わり戻る時に戦闘は無かった。
そんな状況の中、サソリの魔物と戦った時に被害が出ないかをメンバー達の状況を見て、セルレインは、リーダーとしてメンバーの様子を戦闘に耐えられるかを確認する。
体の動きは、精神的な影響で大きく影響する事を、セルレインは、よく知っており5人の表情を一人一人確認していく。
その表情には、帰るついでの簡単な仕事だと緊張感のない表情も面倒事に巻き込まれたような表情も無く、これから倒そうとしている魔物に集中している様子が窺えたので、その様子を見てセルレインは安心したようだ。
「それじゃあ、岩の上の少年を、さっさと助けて、ギルドに連れて行こう。そして、保護をお願いするぞ」
セルレインの決定を聞いて、5人はニヤリとした。
全員が、セルレインの話を聞いて、やる気を出したようだ。
「そうしよう」
アジュレンが同意すると、その発言に残り4人もうなずいている。
6人全員の話はまとまった。
全員サソリの魔物を倒して子供を助ける。
そして、ギルドに子供の保護を求め、生きた転移者を助けた報酬をもらう。
全員の意見が一致した。
ギルドは冒険者への依頼の仲介と、冒険者が集めた魔物のコアの購入をしている組織で、国とは別の組織である。
国を超えてギルドは組織としてつながっている。
言わば、全世界に支店を持つ巨大企業のようなもので、そこの下請け業者が冒険者となる。
そんな中で自分たちが所属している、始まりの村のギルド支部だけには、一つだけ変わった仕事があった。
それが、転移者の保護に対する冒険者への報酬になる。
ギルドは、転移者の保護を行なっている。
冒険者が、時々、現れる転移者を保護してギルドに連れてきた時は、その冒険者に報奨金を支払うことになっている。
その金額は、いつも行っているギルドからの依頼の金額を、遥かに超える金額が支払われる。
報奨金の金額を考え自分達はサソリの魔物を撃退可能だとなれば、とても美味しい仕事となる。
また、転移者が現れる場所は、いつも同じだが、現れる時間や次に現れるまでの期間は決まってない。
数週間後に現れることもあれば、次に現れるまで10年以上掛かる事もある。
ギルドの転移者保護の冒険者に対する報償金は高額だが、一度助けたところで、次に現れるまで10年も待つ事になったら、いくら高額な報償金と言っても、それだけで生活は不可能である。
その為、転移者を助ける報償金目当ての冒険者は存在せず、運が良ければ生きた転移者に出会うこともあると考えられている。
転移者の保護は、不定期的なボーナス程度のものだと考えられていた。
だが、不定期的と言っても支払われる金額は大きいので、転移者が見つかったらなんて話が酒の席に出れば、その報酬でどんな事をするかで話は盛り上がる。
ただ、ギルドのデータによると、転移者を見つけても魔物に食い散らかされた後に通りかかった冒険者が見つける事の方が、多く報告されているとギルドの職員は言っている。
考えてみれば、武器無し防具無しの丸裸で現れる少年少女達が、同時に現れるサソリの魔物の攻撃から身を守る事は不可能に近いので、助かる可能性はかなり低い。
転移者の少年少女が、助かるただ一つの方法とは、今回の少年のように近くの岩に登ってサソリをやり過ごし、セルレイン達のような、たまたま通りかかった冒険者に助けてもらうしか方法は無い。
もし、岩に登れなかったら、それは死を意味する。
また、岩に登れたとして、サソリをやり過ごしたとしても、砂漠の真ん中で裸で居たら干からびて死んでしまう事もある。
今回のように、セルレイン達が通りかかって見つけられる事は、かなりのレアケースと言って良い。
転移者が、助けられ保護される事は、様々な偶然が重ならないと起こらない。
また、転移者がサソリの魔物の餌食になり死亡後に見つけた場合も、何か証拠となる物と捕食者の魔物を討伐したコアを持ち替えれば、ギルドは、何らかの報酬を冒険者に与えているが、生きた転移者を連れ帰ったときに比べれば、報酬は微々たるもので、死んでしまった転移者を見つけても水を一杯飲んだら終わりの金額にしかならない。
そんな金額なら、魔物を倒したコアの方が遥かに高額な報酬になるので、いつ現れるか分からない転移者を待つことをする冒険者はいない。
セルレイン達は、転移者を助けて報酬をもらう。
そして、目的の少年は命をつなぐ事ができる。
サソリの魔物を倒すことで、お互いに損のない未来が待っている。
ただ、セルレイン達には、一つだけ気掛かりなことが残っている。
それは、転移者とのコミュニケーションが取れるかどうかなのだ。
突然、並行世界から飛ばされてきて、その並行世界の記憶も無く、覚えていることは無意識下の記憶のみとなれば、当然、言葉が通じる事はない。
しかし、セルレイン達は、そんな事を考えるよりギルドから支払われる報酬の方が重く感じる。
いずれにしてもサソリの魔物を倒した後の事なので、その時に考えれば良い事になる。
今はサソリの魔物を倒すこと、それも、パーティーメンバー全員に被害無く倒すことが先決なのだ。
終わった後の事を考えて命のやり取りを行う事は、思わぬ損害を被ることがある。
それを、全員が知っているので、6人からは真剣さがヒシヒシと伝わっていた。
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