第9話 冒険者 セルレインと、そのパーティー 2
セルレイン達のパーティーメンバーは、地下遺跡の狩りを終わらせ出口に向かおうとしていた。
遺跡の出口が見えてくるとメンバーの中で探索の得意なアジュレンに、セルレインは出口付近の探索の指示した。
アジュレンは、1人で入り口付近に警戒しながら向かうと内側からは見えない部分を確認した。
それは、近くに有る魔物の渦を確認する事になっている。
この地下遺跡の前にある岩の先に魔物の渦がありサソリの魔物が発生してくるが、それは、今朝この地下遺跡に入る前に倒しているが、イレギュラー的に現れる事もあるので、万一の事が無いか確認のため地下遺跡の外に出る前に探索を行う。
いつもの通り、何も無い事を確認するだけの作業なのだが、ここの魔物の渦はイレギュラーが有ると知られている。
そして、そのイレギュラーは、ここ7年間起こってない。
だが、イレギュラーが起こってないからといって、これを怠ってサソリ型の魔物に襲われて命を落とした者、大怪我をして一命は取り留めたが、冒険者としてやっていけないくなってしまった者の話はギルドの職員から何度も聞いている。
しかし、その話は、ギルドを使っている冒険者からは聞いた事は無いので古い話なのかもしれないとも思うのだが、セルレインは、過去にそんな話が有ったのならリスクを背負う事は無いと考えているのだ。
確認を怠ってメンバーを失ってしまってから後悔するより僅かな確認を行う。
その積み重ねが、成功率の高さを誇っているのだとセルレインは考えているのだ。
アジュレンも、いつもの確認程度と考えて入口に向かったようだが油断は無さそうだ。
毎回、同じ事を繰り返すと油断が出てしまうのだがアジュレンには無い。
自分が、いい加減な探索を行って、メンバーにリスクを負わせないという自負があるようだ。
アジュレンの行動から、それは、ハッキリと分かる。
アジュレンとセルレインはサインを決めている。
魔物が居れば背中に背負った剣に右腕を掛け、居なければそのまま出ていくようになっているのだが今日は様子が違った。
アジュレンは、待てのサインを送ると少し外に出た。
その姿を、セルレインと残った4人が怪訝そうな顔で見送っていた。
(何かあったな。それもアジュレンが、経験した事のないことが、地下遺跡の外に起こっている)
セルレインは、アジュレンの行動を見て何かイレギュラーが発生したのだと考えたのだ。
地下遺跡の中に残った5人に緊張が走っている。
それが、周りにピリピリと感じ残った5人は、お互いの緊張によって、それは、さらに高まったようだ。
探索に向かったアジュレンは、外を警戒しながらこちらに向かって、右手の人差し指を一本立てると、直ぐに全部の指を立ててこちらに来るように手招きをする。
それは、リーダーであるセルレインを呼ぶ時に使うサインだった。
セルレインは、残りの4人に待機するように合図を送ると入り口に居るアジュレンのもとに向かった。
外を探索しているアジュレンの後ろに来ると小声で外の様子を話してきた。
「魔物だ。それと、岩の上に子供が居る。何も身につけてないから、多分、転移者だ。魔物は、その子供を狙って岩の周りを回っているが、それ以外の魔物は居ない」
地下遺跡に入る前に、魔物の渦のところにいたサソリの魔物は、この地下遺跡に入る前に倒している。
通常であれば、翌日以降でなければ次のサソリは現れないが、アジュレンは魔物が居ると言った。
イレギュラーが発生したのだ。
そして、子供も居ると言うのでセルレイン自身も確認する必要があると判断したようだ。
「分かった、俺にも見せてくれ」
サソリの魔物は、あの岩を登ることが出来ないのは、メンバーの誰もが知っている。
(子供が、岩に居るなら、それでいい。岩から降りる事が無ければ、魔物に殺される事はない)
セルレインは、ゆっくりと地下遺跡の入口から顔を出して手前の砂丘の先にある岩を見た。
アジュレンの言った通り岩の上に全裸の少年が1人おり、その下でサソリの魔物が一対のハサミを鳴らしながら岩の上の子供を威嚇していた。
通常では有り得ない魔物の出現と、岩の上に居る全裸の子供となれば考えられることは一つになる。
セルレインは、自分自身も入り口周辺を確認する。
アジュレンが、確認しているのだが念のため自分自身も確認するのだ。
入口付近に他の魔物は居ない事を確認すると、残りのメンバー4人を入口まで呼び状況説明を始めた。
「岩の上に子供が1人取り残されて、その下に、いつものサソリが子供を狙っている。あの岩の近くの、魔物の渦から現れたサソリだろう。それと子供は転移者と思われる」
後から来たメンバーの顔色が変わった。
セルレイン達が、この地下遺跡を狩場に使うようになってから、転移者が現れた所に遭遇した事は一度も無い。
それに、セルレインが冒険者となって活動をしてから、転移者が現れた話は一度も聞いてない事から、転移者が、本当に現れるのか、セルレイン達は疑問に思い始めていた。
(噂にあった、転移者とサソリの魔物の出現は、同時に起こるというのは、本当らしいな)
そんな事を考えていると、剣の使い手であるスレイライザーがニヤついた表情をした。
「ほーっ、転移者が現れる時、魔物も現れるって話は、本当のようだな」
「この時間に魔物が現れるなんて事は無いはずだから、きっとそうなのでしょうね」
ストレイライザーの話を聞いて魔法職のウィルザイアも、その意見に同意した。
セルレインは、2人の話を聞いて、自分と考えている事は同じだと思ったように少しホッとした表情を見せた。
そんなセルレインの様子を気にする事もなくアイカペオラも話に参加してきた。
「あの魔物の渦のサソリは、今朝、この地下遺跡に入る前に倒しているから、この時間に現れる事は無いはずよね。転移者と魔物は同時に現れるって話は本当のようね」
「こんな場所に子供1人で来るなんて事はあり得ないわ。それは始まりの村の常識よね。来るにしても、こんな所まで、来れる子供なんて居ないわ」
普段は弓を使うが、近接戦闘時はレイビアを使うアイカペオラの意見に、子供好きで暇な時は、近所の子供とよく遊んでいるメイノーマも同じ意見を言った。
「転移者に間違いはないだろうな」
最初に探索に出て子供と魔物を確認したアジュレンも同意見を述べた。
そして、その目は獲物を狙うハンターのようだ。
それは、魔物を倒して転移者の少年を助けることに全員の考えがまとまったとセルレインは認識した。
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