第7話

 一足先に駅へ着き、影の濃い中を歩き、住民にとっての退屈な住宅地を歩き、海へ注がれる整備された小川を見て、無理に感興を呼び起こし、メールが鳴り、再び駅へ戻り、女性達と合流して、早足で仮面を付け替えて、冷静でいられない雑談に煮え返り、予定よりもずっと少ない今日の花火大会見物に、機会の少なさを残念に思い、一番の期待はこれだったのに、もう目玉は終わってしまった、何を楽しもう、旦那さんはバーベキューの用意を豪勢にしている、奥さんは随意に話すことに徹している、太い海老が物悲しく集いの足りない場で睨みを利かしていて、過剰に用意されたダンボール中のビールは弾薬に待ち構えていて、もう終わればいいのに、誰もが余分な肉とスペースに、狭くない草いきれに蒸す庭の一角に、木立で江ノ島方面の見にくい場で、無理強いの宴はやはり開始された直後に、避けようとする背の低いゲイの知人が遅れて駅に到着したらしく、何一つ期待とは違った場を逃れるごとく、彼は進んで苦手とする服飾関係の仕事をする知人を迎えに、色の濃くなってきた空気の下、茂みを抜けて駆け下り、不満の気持ちを多弁に変えて、苦手とするゲイの知人も今は救いのひとこまとして扱い、戻り、夜は進み、網の上で肉と野菜は焼け、海産物は頃合いを失い、酒と仲間と雰囲気による味付けのみ、味わいは空腹と塩胡椒に、黒く塗り潰した濃さで満足させる焼き肉のタレに、人が一人いれば、いくらでも話は盛り上がり、三人いれば意見も多く述べられ、活発に、五人になれば、分裂も始まり、期待外れは蚊帳の外へ、ビールの空き缶は不満と偏見を吸いとって卒塔婆にテーブルを飾りつけていき、腹は満たされ、江ノ島に花火が打ち上げられ、あまりに小さく、夜の広大ばかりを感じさせ、花火は見にくく、ブレストで見た戦勝記念日の花火が突然打ち上げられ、見晴らし探して木木に茂る坂の道を歩き回るように、遠く離れた隣家へ続く虫の音の道を通り、花火は夜空に大きな隙間を作って広がり、近隣の住民も闇からすっと生まれて、奇麗だねと世間話をして、瑕瑾のない大玉と、オルガズムへ驀進する滅茶苦茶なピストンによるフィナーレの乱射が終わると、熾火は静まり、肉は端に炭化して、空き缶はどれが空き缶かと林立して謎をかけ、見境はなくなり、ゲイの知人が帰り、内気な誰かが帰り、誘ってくれた大きな女性も帰り、旦那さんは後片付けを始め、キャンプチェアに対面に坐って話しているのは、東南アジアの血でも混じっているかのようなスナックのママと同じ、何も理解していない相槌と、本当はわかっている間の良い湿った同情の生返事と、やはり女らしい豊富な体験に基づいた機知の話と、若い異性と話す喜びを確実に感じている婀娜っぽい手つきと、何もかもが宙ぶらりにしまう終電の合図で、何一つ変わらず、満たされず、何も美しさも感慨も残さない、江ノ島上空に浮かんだ大玉を、発車を待つ開けっぴろげな最終の車両の中で、何となく見た気で、目の回る酔いに映していた。

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