第4話

 海岸沿いを稲村ヶ崎へ向かって歩き、人と喧騒の由比ヶ浜の全貌が後方に見えてくると、淫らな肉体の揺れと、家畜と同じ安穏なあくびと、あけっぴろげの印象もわずかに整理されて記憶に付着していくのを感じ、旅行先で撮った写真を見返してどれもが素晴らしい場面にあったことを悟らせる為の作業工程がすでに進められていて、海岸という語を聞けば真っ先に思い浮かべる夏は無機質に熱く、冬は無慈悲に冷たいコンクリートの防波堤を額縁として、海を眺めながら歩き考えていると、サーフボードの上に立ち、オールを使って漕ぎ進める見慣れぬ人を見つけて、おかしな一寸法師だと彼は思った。(何ダアレハ、何ノ真似ダ、何ガシタイノダ)水上オートバイに引かれて滑る水上スキーならまだしも、大量の水を放出させて空中へ不格好に飛ぶフライボードは彼にとって気に入らないマリンスポーツだった。ジェットスキーはバイクと同じで許せるが、他人の動力を借りて行わなければならない。金と手間のかかる類の行いは、煩わしいだけで、どうしてこんなスポーツに熱中するのかと理解を示さなかった。一人で波とぶつかり合うサーフィンをしていた彼は、風とぶつかり合うウィンドサーフィンだけを唯一の仲間と呼べるマリンスポーツだと認識していた(一人デ立チ向カッテコソすぽぉぉつダロウ)。確証を持たない頑迷な論理を頭に展開させていると、腿くらいの形の整った波がやってきて、スタンドアップパドルボードの男はそれに乗り、ロングボードよりも鷹揚というより、単に動きの幅を制限された鈍重な動作で、ジェットコースターというより、傾斜角度のゆるい滑り台を降りるように海面を移動して、転げて海中へ倒れた。昼下がりの暑さがいや増すゆったりした一連の動きは、海水浴客の渋滞する百三十四号線の車の停滞がもたらす空気の悪い暑さに似たすっきりしないものだと彼は鼻で笑った。

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