第2話 侮蔑

 目が覚めると、僕は病院にいた。

「なんで、僕はここにいるんだっけ?」と、恍惚境となっていた。今は、何も考えたくもない、思い出したくない、しゃべりたくない、ただ、生きていたい。

――コンコン

 ドアがノックされる音が聞こえた。ここは、僕一人らしく、他は空になっていた。ふつう、空席があるのは珍しいが、今の僕にそこまで考える余裕はなかった。ノックに返答をしなかったが、勝手にドアが開いた。すると、そこには、愛がいた。彼女は、何も言わずに僕のベットの目の前にまで来ていた。ここで、僕はいろいろ考えてしまった。あの地震の仔細、そのあと、愛の今、他の人たちの無事。すると、愛は突然言った。

「なんで、あの時助けたの?」と。僕は呆気にとられた。なんで助けた?その言葉の意味が分からなかった。助けたのが悪いこと?身を呈して庇ったのが?僕の思考回路は限界を迎えた。そして、いつしか、彼女に対し冷め始めていた。しばらく無視していると、

「さよなら」と、彼女は言って、部屋を出て行った。それはまるで、涅槃の様に。ただただ、風によって、砂が飛ぶように。

 僕は考えた。じゃあ、どうしろってんだよ。守ったのがそんなに悪いことなのか?人を守ることが悪いことなのか?そしてなぜか、感じる必要もない罪悪感に襲われてしまった。

――コンコン

しばらくして、またノック音が聞こえた。今度は母だった。しかし、愛とは違い、母は、僕を侮蔑するような態度だった。一言も話さず、僕が何を言っても、無視していた。これが、本当に母なのかとも思っても仕方がなかった。そして、数分後、母は、席を立ち、ドアから出る前に僕に言った。

「なぜ、あの女を助けた。あの時に見捨てていれば、ああなることは無かった。今までも、危ない状況は会ったのに、あなたは無事に帰ってきていた。それでも、いつかは今回のようなことが起こると予想もしていた。今の私は、あなたを助けることはできない。どうか今までの様に、無事に帰ってきて」と、母は、僕に言った。

 どういうことだ?母の言ったことを反芻した。危ない状況?無事に帰ってくる?僕はどんなに考えても、その答えは返ってくることは無かった。愛と母で雰囲気は同じだった。心配してくれている。だが、しかし、母は、最後に涙を流してくれ、愛に関しては、一瞬のことだったが、笑っているようにも見えた。そこで僕は嫌な予感はした。彼女はメンヘラなのか。だが、それでもその要素は、今までの生活を見返しても、なかった。しかも、メンヘラなら、あのとき、なぜ助けたの?とかは言わないはずだ。考えれば考えるほど、思考回路がショートしそうだったので、今日のところは、考えるのをやめた。ただ、今日の僕から見て、今日の愛は僕を侮蔑しているだけのように見えた。




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