第4話 人質



 人気のない区画


 ミスティアを放っておくことはできない。


 あやしげな連中の後をつけてしばらく。

 たどりついたのは、人影のない区画に立つ建物だ。


 長年人が住んでいないのだろう。

 ひどく劣化が進んだ、さびれた建物だった。


 建物の周囲を歩き回っているうちに、、ひびの入った窓を見つけた。

 その窓をのぞきこんで、内部をうかがう。


 部屋の中では、両手をしばられている様子のミスティアがいた。

 その周囲には、誘拐犯であるらしい男性が三人。


 誘拐された事自体は不思議ではない。

 ミスティアは王族の血を引いている。

 だから彼女は、現国王を脅かす者を始末するために、よくこういった事に巻き込まれるのだ。


 おそらく、現王に味方する者達が彼女の命を狙ったのだろう。


 けれど、彼女達に王位を狙う意思はない。

 穏やかに平和に暮らしたいと思っているはずだ。


 こんな事に巻き込まれて怖い思いをしなければならない理由はないはずだった。


 何とかして彼女を助け出したい。

 そう思うが、何もできない自分には、できる事が限られている。


 何か方法がないかと探していると、近くにそれがあった。


 これは使えるかもしれない。






 ミスティアから教えてもらった知識が、彼女を救うのだ。


 自分の知識が役立ったことを知れば、彼女も嬉しいだろう。


 私は、音を立てないように慎重に、土を掘る。

 伝言草を根本から掘り返して、別の場所に植えた。

 そして、言葉を吹き込んでいく。


 後は、窓があった場所に戻ってい大人しく待機。


 ほどなくして、伝言草が声(音?)を発した。


「きゃー、人さらいがいるわー! 誰か助けにきてー!」


 棒読みなセリフが音量を大にして、何度も放たれる。

 ずさんすぎる芝居に冷や汗が出てくるが、窓の向こう……室内にいた者達は引っかかったようだ。


「目撃者か!」

「どこにいるんだ!」

「捕まえろ!」


 どたばたと慌てた様子で、建物から出ていった。

 今の内に窓から侵入……、しようとしたけど鍵が開いてない。


 仕方なしにできるだけ音を立てないようにしながら小石で窓を割って、腕を差し入れる。

 カギの部分をいじって、カチャカチャ。


 数秒かけて窓をあけて、人質がとらわれている室内へ侵入した。


 私の姿を見たミスティアが何かを言おうとする。


「しーっ」


 しかし、それは後で。

 ここで、彼女に喋られると困る。

 大人しくしているようジェスチャーで示すと、彼女は頷いてくれた。


 ミスティアの両手を拘束している縄をとこうとしたが、うまくいかない。

 固く結ばれているようだった。


 女性の力では無理かもしれない。


 幸いにも結ばれているのは、ミスティアの両手だけだ。

 ここから逃げるのには支障がない。


「ごめんなさい解けないわ。早く、ここから逃げましょう」

「いいえ、助けに来てくださってありがとうございます」


 入ってきた窓から慌てて外にでる事に。

 両手が使えないミスティアをフォローしながら先に行かせて、私も……と思ったのだが、彼らが戻ってきてしまったようだ。


「なんだお前! いつの間に入り込んだ!」


 まずい。

 私はミスティアに向かって叫んだ。


「逃げて!」

「でも……っ」

「私達二人じゃ太刀打ちできないわ。助けを呼んできて!」

「……っ、分かりました!」


 ためらう彼女の背中を押してやると、ミスティアは決意の表情で頷きその場から走り去った。


 私のするべきことは、ここにいる奴らがミスティアを追いかけないようにする事だ。


「おい、人質が逃げるぞ!」

「追いかけねぇ……ぐわっ」


 部屋から出ていこうとする男に石を投げる。

 男は、痛そうにのけぞった。


 投てき技術に自信はなかったのだが、幸運にはめぐまれたようだ。


「このアマっ」

「覚悟してくださいね。私が持っている石はまだまだありますよ。力いっぱいぶつけさせてもらいますから。痛い目見たい人はどうぞ前に出てきてはどうです?」


 さて、助けが来るまでにどれだけの時間を稼げるだろうか。


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