第21話「ガーゴイルと僕」
「とにかく走りましょう!」
逃げるが勝ちと言う言葉もある。ユキさんの提案で僕らは廊下の先を目指すことにした。幸いガーゴイルの脚はそこまで速くは無い。……これで速かったら、怖いなんてもんじゃないだろう。
自分一人が逃げるだけなら訳も無かった。だけど今はユキさんやペケペーケ様がいる。ユキさんはいわゆる女の子走りでお世辞にも速いとは言えなかった。ましてやペケペーケ様に至っては例の裾の長い着物を着ているのだ。今にも裾を踏んで転びそうで見るからに危なっかしい。
自然僕はスピードを落として、二人に伴走するような形になった。しかしガーゴイルはしつこい。逃げても逃げても追いかけて来る。
「あっ!」
ユキさんが転倒してしまった。僕はすぐに駆け寄った。
「ユキさん立てる?」
「脚がつってしまって……」
さっきみたいに抱えて走れるか? そんなことを考えている内に、ガーゴイルがどんどん迫って来る。まずい、万事休す!?
「よくも、よくも……」
地の底から響くような声が聞こえた。きっとガーゴイルの怨念の声なのだろう。僕はユキさんを庇う様に、ガーゴイルの前へ立ち塞がった。そうだ、僕が彼女を護らなきゃ!
「さあ、来い。ガーゴイル!」
だが僕の声に反応は無い。石像の作り主の意思にしか従わないのだろうか。そして再びガーゴイルは口を開き、僕らに言ったのだ。
「よくもさっきから、下っ端だの、怖い顔だの、でくの坊だの、それから石っころだの言ってくれたな!」
それはガーゴイルの魂の叫びであった。……結構気にしてたのか。悪いことをしたのかな?
「大体あの部屋を通る冒険者、どいつもこいつもそんなことを言いやがる。人が反撃できないのを良いことに言い放題じゃないか。罠が作動して動けるようになっても俺は足が遅い。結局いつも逃げられちまうんだ!」
なるほど。かなりストレスの溜まる大変な立場だったのか。……って敵に同情している場合じゃないな。
「特にそこのちびっ子! 石っころ呼ばわりはさすがに俺も傷付いたぞ!」
うん、あれは僕もひどいと思った。だけどペケペーケ様はそれどころではなかった。
「またちびっ子呼ばわりか! 許せんぞ。ワイト、そいつをやっつけてしまえ!」
もう売り言葉に買い言葉だな。そんなこと言ったって、相手は結構な強敵のガーゴイルだよ。防御はともかく攻撃が駄目な僕でどうにかなるのかな。
「ワイトさん、ここは私が」
ユキさんが何とか立ち上がった。だけど無理はさせられない。でも僕の攻撃がガーゴイルに通用するのかな?
何て思っていると、ガーゴイルが一撃を繰り出して来た。さすがに攻撃が速い。思わず身構えてしまう。
あれ……? 何とも無かった。僕は条件反射でつぶってしまった目を恐る恐る開いてみた。
「な、なんだこれは!?」
ガーゴイルが慌てている。僕とユキさんの周りを白い光の壁がすっぽり覆っていた。その壁が鋭いガーゴイルの一撃を防いでしまったようだ。それが証拠に、何度もガーゴイルが僕を攻撃しようとするが、その度光の壁に弾かれて手も足も出ないようだった。
「ワイトさん、これ。ひょっとしてペケペーケ様の力では?」
「そう……なのかもしれない」
そうだ。ペケペーケ様は僕にバリアを張っていると言っていた。それがここに来て発動したということなのだろうか。
「どうじゃ、ワイト。わしの『無病息災』の力は。悪魔の存在は災いそのものじゃ。そんなものをわしがみすみす見逃す訳がなかろう」
すっかり自慢げに胸を張るペケペーケ様。ガーゴイルの力を圧倒できるなんて、さすがは神様。そう言って彼女を褒めたくなったが、大きな問題があった。
「ペケペーケ様、凄いのはわかりました。でもこれ、こっちからも攻撃できませんよ」
僕は言った。そうなのだ。神の力で作られた防壁はこちらからの攻撃も遮断してしまう。つまり僕とユキさんはバリアに護られつつも、閉じ込められてしまっているのだ。
「ならワイト、バリアを閉じろと念じるのじゃ。もっともそれをしたら、あっというまにガーゴイルにやられてしまうぞ」
これは困ったぞ。完全に詰んでしまったような気がした。とにかくガーゴイルが諦めてくれればいいのだが、当の本人すっかり怒ってしまっていて帰ってくれそうになった。
「どうしましょう、ワイトさん」
「どうしよう。しばらくこのままでいる?」
ユキさんの側にずっといられるのは悪くは無い。もっともすぐ傍ではガーゴイルがカンカンになって殴って来るのだ。
「ワイト―、何しとるか。これでもちょっとずつわしの力を消費しとるんじゃぞ。ケリを付けんか!」
ペケペーケ様が急かして来た。でもどうすりゃいいんだ。そうこうしている内に、バリアの光が弱くなって来た。ペケペーケ様のパワーが削られているのだろう……。
よし決めた!
「ペケペーケ様、残っている団子全部上げますからもう一回フルパワー使わせてもらいますよ」
「何をする気じゃ!」
どの道このままじゃジリ貧だ。僕は賭けに出てみることにした。念じてバリアを消せるなら、逆もまた出来るはず!
「ハハハ、これでどうだ!」
ガーゴイルのパンチでついにバリアの光が消えてしまった。それを確認するとガーゴイルは助走をつけて渾身の一撃を繰り出してきた。万事休す!
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