第15話 王太子の覚悟
「弟君たちの学年についてなのですが。
勇者の姉君を、弟君たちと同学年として入学させるとなりますと、僕と姉君の学年が離れてしまうことになります。」
「それはそうだな。」
「なれば、弟君たちの入学を早めるか。
──または、この僕の学年を、弟君たちと同じには出来ないでしょうか。」
「なんだと?」
アラン国王が驚愕の目でデイビッド王太子を見ている。私もびっくりだ。弟たちと同学年になる私と、同じ学年になりたいだとか。
デイビッド王太子は、私を守ってくれようとでもしているのかな?
他に理由が考えられない。王太子が留年だなんて、デメリットしかないもの。
私はそうはならないと思っているけど、もしも“魔王”の弟が裏切ったとしたら、1番危険なのは──私だもんね。
「そんなことは出来ない。王太子たるお前を留年させて入学させるなどと。何より留学してくることになっている、他国の王子たちをどうするのだ。お前と共に学ぶ為に、留学してくることになっておるのだぞ。」
へえ、リーレンさまたちって、こんな頃からもう留学が決まってたんだ。
まあ、そもそも政治的な目的で留学してくるんだから、それでもおかしくはないか。
「それが建前であることは、お父さまもご存知の筈です。彼らは勇者がこの国にばかり生まれる理由を調べに来るのが目的の筈。」
「気付いていたのか……。」
聡明な我が子を見て、目を細めるアラン国王。ていうか、留学の理由、そうなんだ!
「その方法が分かれば、次世代の勇者と守護聖を自国に取り込みたいという考えのもと、この国に来るのですよね。彼らには残念ながら、既に勇者は誕生してしまいましたが。」
「……確かに、それが目的な時点で、お前と同学年であることに、彼らがこだわることはないだろうな。だがしかし、なぜお前は勇者と同学年であることにこだわるのだ?」
「勇者さまと、ではありません。──もう1人の弟君と、です。僕はこの国を継ぐ者として、責任を持って弟君が人の中で生きられるよう、配慮すべき立場の人間です。」
「……それをテオには任せられないと、そういうわけか。」
アラン国王はため息をついた。デイビッド王太子がそれを聞いてこっくりとうなずく。
「はい。確かにセイランに安全であるという保証はされましたが、この先のことは分かりません。留学してくる王子たちがいる限り、このことが漏れる可能性もあります。」
「……確かに、勇者とこの国について調べる過程で、弟君たちの秘密にたどり着くやもしれんな。それは私も懸念している。」
そうか。他国がこの国に入り込んで、本気で王家と勇者について調べるつもりなのであれば、弟たちのうちの1人が“魔王”だなんてこと、簡単に調べちゃうかも知れないな。
勇者と守護聖を手にしようとしている国からしたら、“魔王”を庇護してる国だなんて怪しさ満点。それこそマッチポンプみたく思われるかも知れないってことだよね。
「わざと国民にそのことを触れ回る可能性もあるでしょう。それを後から知った場合、国民の信頼を損なう可能性は高いです。」
……確かに。知らない間に魔族と生活させられていたと知ったら、貴族を中心とした生徒たちやその親たちから、王家が糾弾されてしまうよね。そこは確かにさけたい話だわ。
1度感情に火がついたら、言葉でいさめるのは難しいものね。“魔王”の弟を排除する動きが高まったら、アラン国王にも、きっとどうにも出来なくなってしまうだろう。
「一般生徒たちの間に弟君を放り込むのであれば、僕は王族として、また次代の国王として、その安全を保証する義務があります。
僕に1番近くで守らせて欲しいのです。」
「──我が国の王太子を最も危険な場所に置くことで、国が責任を取るつもりであると、自ら示そうというのだな。」
「はい。」
デイビッド王太子が強い眼差しで、こっくりとうなずいた。
つまり、私と学年が離れる──私が責任を持って弟たちを監視するのではなく、自分がそうすべきだと、そういうことなのね。
私がいたほうがいいから、私は弟たちと同学年にすべきだけど、そこに自分が含まれないのであれば、王家として無責任だと。
確かに私だけ学年を合わせるのであれば、庶民におんぶにだっこ状態だよね。
護衛はつくだろうけど、不測の事態があった時に、とっさの判断は出来ないはず。
アラン国王や宰相に、判断を仰ぐことになるだろう。でもそこにデイビッド王太子がいたなら話は別だ。国王代理として、最適な判断を下して動いてくれることだろうから。
……デイビッド王太子って凄い。
いくらメイン攻略対象者とはいえ、今の私と同い年で、こんなことを考えてるなんて。
王太子という自分の役割を、こんなにも小さな頃から担って、そしてこの国の未来について、日頃から考えて生きているのね。
私はアラン国王を見つめる、デイビッド王太子の横顔をマジマジと見つめると、この人たちは生きているんだ、と改めて思った。
カードのキャラクターなんかじゃない、この世界に生きる、血の通った人間。私はデイビッド王太子にそれを実感させられていた。
「……だが、極力お前を留年させるようなことは避けたいと思っている。
──姉君。」
「は、はい!!」
突然アラン国王にこちらを向かれてビクッとしてしまう。
「聞いての通りだ。私としてはデイビッドを弟君たちの学年に合わせずに済むようにしたいと思っている。そこで……だ。こちらからそなたの家に、家庭教師を送ろうと思う。」
「──家庭教師?」
「弟君たちに、出来るだけデイビッドと同じ学年になれるよう、頑張って欲しいのだ。」
「弟たちを、飛び級させるってことですか?
え、あの、でも、それは……。」
ヒロインと学年が変わっちゃうよ!
“勇者”の弟は、入学式でヒロインと出会うストーリーなのだ。その大事な最初の出会いイベントが発生しなくなっちゃう!
いや、でも、そもそも、デイビッド王太子と弟たちが同学年になるという時点で、かなりのイレギュラーなんだもの。そこは関係ないのかな?どうなんだろ?うーん。
「難しいことだと思う。だが、弟君たちは姉君のことが大好きなのだろう?
なれば、一緒の学年で通えるともなれば、そうなれるよう張り切るのではないかな。」
……それは確かにそうかもしんない。
このまま弟たちに、あの、おねーちゃん大好き、が続く前提として、だけど。
「どうしてもそれが難しければ、デイビッドを弟君たちと、同学年として通わせることとしよう。出来るだけ、そうならないよう、弟君たちには努力して欲しいと思っている。」
まあ、万が一デイビッド王太子が、テオ王子と一緒の学年になったりなんかしたら、かなりみっともないもんね……。
私もデイビッド王太子がクスクスされるより、うちの弟たちが飛び級で入学出来る、凄い子たちだってなったほうがいい。
いくら弟たちを守る為とはいえ、メイン攻略対象者かつ、この国の王太子に、そんな恥ずかしい真似はさせらんないもんね。
もしも万が一、“魔王”の弟のことがバレたとしても、そんな努力家の弟に対する好感度は高い筈だしね!日頃の努力が大切!うん!
「分かりました。お約束は出来ませんが、私も出来る限り弟たちを誘導してみます。」
「そう言って貰えると、こちらとしてもありがたい。」
アラン国王がホッとしたような表情を浮かべた。デイビッド王太子が私を見て、一緒に通える日が楽しみだね、と言って笑った。
うーん、そのスマイルは、むやみやたらに連発しないほうがいいと思うの。
私じゃなかったら勘違いされちゃうよ?
実際学園で、デイビッド王太子は、その優しさに勘違いをおこした女の子たちに囲まれて、それはもう大変なことになるんだから。
まあ、それで唯一しつこくしなかった、ヒロインと仲良くなるんだけどね。
実際将来この国を担う貴族の若者の割に、パルディア学園の子女たちは品がない。
なんていうかな……、欲望に忠実?
追加の攻略対象者に、目の見えない教師がいるんだけど、彼の目が見えないのをいいことに、触りまくる子たちが大勢いるらしい。
大人しい大型犬のような見た目に、長いストレートの水色の髪、茶色の目を持つその彼は、やたらとビクビクと怯えるところが、ファン的にも嗜虐心をそそるのだそうで。
いや、イケメンに触りたいのは分かるけどね、それは駄目でしょ!
現実でも目の見えない人相手に、痴漢する人ってたくさんいるらしい。
女の子側からならセクハラにならないとでも思っているのなら、勘違いもほどほどにって感じだ。正直このエピソードには引いた。
すっかり女性恐怖症になってしまったその攻略対象者は、唯一それをしてこないヒロインと……って、まあこれはいいか。
だけどよく分かんないわ、その感覚。髪を切らないのも、人に触れられるのが怖いからって設定で、好感度が高くなると、ヒロインに髪を切って貰うシーンがあるのよね。
そのシーンは確かにちょっと好きなんだけどね。髪を切ったり切られたりって、ハサミを持っているから、プロ以外だと、確かに信頼してる相手じゃないと怖いもの。
彫刻に才能があって、ヒロインの姿を正確にイメージした彫刻を作りたいと、ヒロインに触れる、好感度マックスのシーンも好きかな。そして実際再現度の高い彫刻を作るの。
人に触れることを恐れていた彼が、ヒロインに触れることを自ら望んで、私にもあなたの顔が見えましたと言うのよ。心の目で見えているんだなって感動したのよね。
そんな彼の名前はマーシャル・ホワイト。
影の薄いバスケ選手とか、幼少期から演じている実写魔法使い映画の主役をつとめてることで有名な声優さんが声を担当している。
ともかく私は弟たちを飛び級で入学させることをアラン国王に誓い、12守護聖のとりなしと、セイランの保証もあって、無事に弟たちと家に帰ることが出来たのだった。
「ふふん、ふーん♪」
次の日、私はエタラブの主題歌を口ずさみながら、分厚い冊子をめくっていた。
「楽しそうっすね?何見てるんすか?」
そこにアルマンがやって来て、床に置いたクッションの上に座って冊子をめくる私の目線の高さにしゃがみこんだ。
「今日はアルマンがご飯の担当なの?」
「そっす!自分が食料担当っすね!」
アルマンは無邪気に微笑んだ。
「そっか。これはね、カタログなの。」
「──カタログ?」
「そう。パルディア学園に入学したら貰える補助魔道具に着せるアイテムのカタログ。」
アラン国王から早速カタログが我が家に届いたのだ。入学なんてまだ当分先だし、その頃にはまた新しいデザインや能力のものが出るから、ここからは選ばないとは思うけど。
それでも眺めているだけでテンションがあがるというもの。私の気持ちを高ぶらせることで、弟たちを飛び級入学させる意志を強くさせようってことだと思うの。
さすが、わかっていらっしゃるわ。
私がご機嫌な姿を見て、弟たちもベッドの上で、嬉しそうに、あっあー、と手と体を揺さぶっているのだった。
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久々の更新です汗
時間ができ、次第また、ゆっくりとですが更新していきますので、ブックマークよろしくお願いいたします。
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