第14話 デイビッド王太子の提案
「私、ペットが欲しいんです。」
「──ペット?
ペットというと、猫とか犬とか小鳥であるだとか、その、ペットか?」
アラン国王が背もたれから少し体を起こして、私の方を不思議そうにじっと見てくる。
予想外だ、とでも言いたげな表情だ。
「いえ、そうではありません。私の言っているのは、補助魔道具のことです。パルディア学園では、学生たちの間で、ペットと呼ばれていると伺っているものです。」
「ああ、なるほどな。確かにそう呼ばれているとは聞いている。それなら問題はない。デイビッドたちにも与えるつもりであったし、姉君と弟たちにも貸与することにしよう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
やった!これで私もペット持ちになれる!
憧れの課金アイテムがついにこの手に!
ペットと呼ばれる補助魔道具は、見た目こそ可愛らしい動物なんだけど、戦闘時においてお助けしてくれる便利アイテムだ。
精霊や妖精は、魔法の力を増大させるもので、ペットはポーションなんかの回復アイテムを使ってくれたり、魔物がドロップしたアイテムを勝手に拾ってくれたりするのだ。
特に全体攻撃が使えるようになると、そのドロップアイテム数も凄まじいものだ。それをいちいちチマチマと自ら拾っている人は、ああ、非課金勢なのね、とすぐにバレる。
上位イベントボス狩りに行く時なんか、ペットいない人はパーティNGなんてこともよくあるくらいだ。回復自動は大きいからね。
近接職ともなると、パーティーに回復スキルもちがいたとしても、ボスの攻撃が連続だったりした時に、死亡する率が下がる。
それは遠距離も回復職も同じことで、防御が弱い分、回復アイテムをいかに効率よく使えるかが、生死の分かれ目なんだよね。
回復職だからって、MPポーションを使ってる間に、攻撃をくらったらアウトだから。
それを自動でやってくれる、ペットの存在は、ボスのレベルが上がるほどに高くなる。
復活のスキル持ちもいるけど、使用回数制限と、再度使えるようになる為のリキャストタイムが長いから、パーティーメンバーが死なないにこしたことはないんだ。
キャラクターカードや、ヒロインが装備する服なんかは、イベントやデイリー、詫び石と呼ばれる運営の配布石で、ガチャやショップで手に入れられるものなのだけど。
ペットは月額課金の1つなんだよねえ〜。
確かになくても狩りは出来るけどさ……。
毎月税抜き1000円と、そこまでお高いものでもないんだけど。
自分の病気にたくさんお金を使わせている身で、そんなことにお金を使いたいとは、親に言い出せなかったんだ。
可愛らしい課金装備を身に着けたペットを連れ歩く人を見るたびに、羨ましくて仕方がなかったの。石でいいなら買えるのにって。
バトルフィールドに入る前の、パーティーメンバーの待機部屋があるんだけど、そこでチョコマカと動いたり、手動でエフェクトを出すペットを見ることが出来るんだよね。
出せるエフェクトはペットの装備ごとに違ってて、それがまた、まあ〜可愛らしいの!
ちなみにアイテムを拾う時に本来出るもので、そっちは自動でエフェクトが出るよ。
なのに、たまにガチャでペット装備が出たりするもんだから、使えないのに無駄なものよこして!って思ってた。
なんせ他の人に譲れるシステムじゃないから、ダブりがあっても、NPC買い取りか、素材交換くらいしか、使い道ないんだよね。
譲渡を始めちゃうと、RMT、つまりリアルマネートレードの業者の温床になってしまうから。だから自力で手に入れるしかないわけで。だからガチャ石もまた売れるわけで。
ゲームマネーを稼ぐ業者のボットに狩り場を邪魔されるなんて、よく聞く話だからね。
それがないほうが健全でいいけどさ。
「ちなみに、どのタイプの物が欲しいんだ?
既に決めているのかな。」
アラン国王が聞いてくれる。
ちなみにペットは、犬、猫、鳥、リス、ウサギ、サル、モモンガ、ハリネズミ、フクロウ、豚、変わったところだと、蛇やトカゲ、亀にカエルにタランチュラなんてのもいる。
私は既に決めてあった。
ペットを飼うならこれだって。
「モモンガでお願いします……!!」
ハリネズミもフクロウも憧れるけど、やっぱり私はこれ!ヒロインがエピソードバトルで使っていたペットだ。
本編のエピソードムービーでは、ペットとともに駆け回るヒロインを見ることが出来るのだけど、空を飛んだりチョコチョコとついて回るモモンガの姿に、いたく憧れたのだ。
まあ、そうやって便利さと可愛さを植え付けて、ユーザーに課金させようって魂胆なのは、分かっていたけどね。実際みんなやられまくったし、課金してたし。
ちなみにカードバトルなのに、アイテムを拾ったり、回復してくれるペットが必要ってなんでなのかって?
それがこのゲームの特殊なところだ。
ボス敵に攻撃できるターン、こちらには時間制限が存在するの。その間に倒さないと、ボスがすぐに新しいカードを用意する。オマケにあちらのスキル貯めまでの時間が短い。
ある程度まで削ったのに、新しいカードに切り替えられると、まあ萎える。カードのレベルが倒すごとに上がるから、早く倒さないと、こちらの消耗品の数も上がる。
火力の高い全体攻撃出来るカードばかりをいれて、回復職無視して力でゴリ押しでイベント周回してる人たちも少なくない。
ただ、それはアイテム使用数に制限のないイベントの場合で、レベルが上がるほど制限のあるタイプのイベントだと、逆にペットにアイテム使用をセットしないこともある。
その時は戦略必須で、このスキル持ちのカードは絶対、とか、この組み合わせで攻略出来ました!なんて動画が、最新イベントが出るたびに、動画サイトを賑わすことになる。
カードが消えると同時にアイテムがドロップするから、次のカードが出るまでに、素早くそれを拾うんだけど、拾いますか?捨てますか?といちいち出てくる仕様なんだよ。
例えば近接職はMPポーションほぼいらないから、拾う拾わないを選べるようにしたんだと思うけど……。はっきり言って、邪魔。
あえて面倒にしてるのかもだけど。
1度に拾える同アイテム数は、イベントリのボックスの1枠上限である99個まで。
それ以上ドロップした場合は、一度残りを捨ててから再度拾わなくちゃならない。
そこをペットがいると、なにを何個拾う、拾わない、を、予めセットしておけるのね。
だから魔法職が優先的に、MPポーションを拾えたりもするってわけ。
全体攻撃のオーバーキル特典でドロップ率がアップするのに、せっかく大量にアイテムがドロップしても、たとえば全員がペットなしだと、どうなってしまうのか?
いちいち拾わないのを選択してると、時間がかかって、次のカードが出てくるまでに、全部拾えない、なんてことも……。
回復アイテムやスクロールなんかの消耗品や、装備なんかは宝箱の形で出てくるから、開けてみるまで中身が分からないのだ。
魔物の素材は分かるけどね。
あとで分配出来ない仕様だから、どうしてもその場で拾えるペットは、必須ってことになるのよね。持ってなかったけど。
倒されたカードが、ピョン、と1度はねて消えると、消えたカードの場所に、宝箱と魔物の素材が、ピョン、とはねて出てくる。
初期の頃なら、宝箱をタップして開けて、出てきたものをまたタップするだけでいい。
拾いますか?が初期選択されてるから。
1度で拾いきれる数しか出ないしね。
そこを宝箱を開けながら、サーッと右から左に(左から右のこともあるけど)駆け抜けて、エフェクトを出しながらキレイに拾うペットたちの姿は、なかなかに壮観だ。
ペットが複数体いると、他の人のペットと仲良くしてるところを最後に見れたりもするのが、また可愛らしいんだよね。
私はホクホクしながらペットが走り回る姿を想像してニヤケていた。でも、ペットの装備ってどこで手に入るんだろう?ゲームだとガチャでしか手に入らなかったけど……。
そんな風に考えていると、アラン国王が手を上げて、近くにいた侍従の1人がメモを取り出した。後で注文する為かな。
「いいだろう。ペットの装備を何にするのかについては、後でカタログを自宅に届けさせるから、時間のある時にゆっくりと選んでくれ。なんでも希望のものを届けさせよう。」
私はそれを聞いて目を丸くした。
「ペットの装備だ。ああ、知らないか?使用者のステータスを引き上げるものだ。」
アラン国王は、私がペットの存在は知っていても、ペットに対する装備品があることを知らないと思ったみたいだ。
「い、いえ、知ってます。
知ってます、けど……。
……装備を買えるんですか?」
それもカタログで指定して!?
ペットの装備品の中には、ユーザーのステータスを上げられる物が存在するんだけど、当然かなりのレアなんだよね。
最低0%から、最高で10%まで存在することが確認されてるけど、ついてたとしても大半が3%だし、よくて5%なんだ。
それもガチャだから、当然自分の職業で上げたいステータスが上がるとは限らない。
でも、王家御用達のカタログだよ!?
当然10%のものだって……。ゴクリ。
「その様子だと、どうやら姉君は、補助魔道具の装備効果を知っているようだな。
何を選んでくれても構わないぞ。」
とアラン国王が笑う。
やった!10%のものにしようっと!
欲しいやつがあったんだよね!
私は可愛らしいペット用の装備を思い浮かべながら、すっかりホクホクだった。
「──お父さま、僕から1つ提案があるのですが、聞いていただけませんでしょうか?」
そこにデイビッド王太子が声を上げた。
「……提案?ペットの装備についてか?」
「いえ、勇者とまお……弟君たちの、パルディア学園入学の件についてです。」
“魔王の弟”を魔王と呼ぶことを、一瞬ためらったデイビッド王太子。魔王は忌み名だ。
いずれ学友になる相手を、そう呼ぶのをためらうくらい、デイビッド王太子は優しい。
「彼らがパルディア学園に通うかも知れないことは、お前も想定していたことだろう?
そこにどんな提案があると言うのだね。」
アラン国王は不思議そうに首をかしげた。
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