第13話 アラン国王からのお願いごとと、アラン国王へのお願いごと。

「僕の乙女を、デイビッドかテオのお嫁さんにだって!?そんなの駄目だよ!デイビッドもテオも、どんな人だってお嫁さんに選べるじゃないか!僕には乙女しかいないのに!」


 セイランが悲しげに目を揺らして、アラン国王に食ってかかる。

「分かっている。だから、仕方がないな、と言っただろう?」


 ふふ、と微笑むアラン国王。この人、一体何を考えてるんだろうか?“勇者の弟”の姉である私を取り込めば、確かに政治的な意味では安泰なのかも知れないけど。


 それは同時に未来の国王が、魔王と縁戚になるってことを意味している。

 魔王と縁戚だ。ただごとではない。


 そりゃ、そのほうが、“魔王の弟”にとってもいいことなのは分かる。

 むしろこちらとしてはありがたいくらいだけど、それは国内だけの話だよね?


 今までだって、この国が魔王に狙われ続けたことで、本来すべての国に平等な筈の12守護聖を、半ば独り占めしてきたのだ。


 そこにきて、魔王の安全性を示す為にも、魔王と縁戚になったとしよう。国民はそりゃあ安心でしょうね。──けど、諸外国は?


 もちろんアラン国王のことだから、それも考えがあってのことだと思うけど、どうやってそれらをクリアするつもりなんだろうか。


 魔王の力を手にしたこの国を、脅威に思わないなんてこと、あるだろうか。

 いいや、ありえない。


 今までは可哀想な国として、魔王という共通の敵がいることで、他の国と一枚岩だったのが、一気にこの国を脅威と感じるだろう。


 この世界の王国は1つじゃない。

 他に7つの国が存在する。

 守護聖は本来、そのすべてを平等に守護している、世界の守り神的立ち位置なのだ。


 あくまで伝説の勇者の味方という存在。世界の国々のどこか1つを特別に扱うことは本来ないんだけど、この国にばかり勇者が誕生するから、結果としてこの国にいるだけ。


 本編のエピソードにキャラスチルこそ出ないものの、イベントエピソードでは、既に4人の王子が実装されて、登場もしている。


 セカンドシーズンのエピソードは、恐らくその王子たちと絡むことになるだろうと、おおいに期待されていたのだ。


 私も東洋系のリーレンさまは、だいぶ好みだなあ……なんて思って眺めていたものだ。

 イベントガチャでゲット出来なくて、悲しみにくれた日を思い出すなあ。


 魔王と縁故になるということは、この国が魔王の力を手に入れたにも等しい話だ。つまり、世界が1つになって立ち向かわなくてはいけない相手が、この国になってしまう。


 そうなれば、他国との戦争が始まる。12守護聖は人間同士の争いには口を出さない。あくまでも魔のものから守るというだけ。


 聖獣であるセイランだってそうだ。守る力はあっても、攻撃しに行くことはしない。

 それに人間を攻撃してはいけない立場だから、戦える力があっても戦えないだろうし。


 魔王との戦いの時だって、一緒に戦うことはしなかったもの。戦争にくわわったりなんて、当然しないと思うのよね。


 いつも12守護聖に頼るくらい、この国の戦力は弱い。普通に戦争になったら、たぶん勝てないだろうと思う。


 なぜなら騎士団はいるけど、魔法師団がいないから。王家が聖獣の加護を得たり、定期的に勇者が生まれたりと、特別な存在がいる代わりに、他の人の魔力が弱いからだ。


 つまりは、凄く極端ってことなんだよね。

 他の国は魔王に対抗出来る勇者が誕生しない代わりに、平民がそれなりに強いんだ。


 ★3のモブカードに出てくるキャラクターたちは、その殆どが他国からの傭兵や冒険者って設定になってる。


 勇者も魔をうちはらうことに特化してるから、人間との戦いでは、そんなに強いとは思えない。それに極端に強い人が1人いたところで、戦争には勝てないと思うのよね。


 まさかそれが、セカンドシーズンのアップデートの内容ってことなの?

 他の国から狙われるこの国を、その脅威から守るっていう。


 ハードモードで魔王を味方にするエピソードは、初期からあったもの。

 ──でもその先のエピソードは?


 敵がいなくなったら、エピソードを進める為の理由付けがなくなってしまう。だけど、セカンドシーズンの告知はされていた。


 ああ……、私、やれそうにないなあ……って思いながら死んだことを、今思い出した。

 ──もしもそうなるのだとしたら。


 この先留学に来ることになっている王子たちとも、うちの弟たちに仲良くして貰わないとマズイんじゃないだろうか。

 特に“魔王の弟”に。


 他国にとっても魔王が脅威にならないってことを、学生時代から示しておいたほうがいい気がするよね。


 縁故だろうが、“魔王の弟”が、そもそも魔王にならなかろうが、強大な力を持つ人物というのは、それだけで危険な存在だもの。


 この国の中でだけ、それを示せれば問題なくなるって思ってたけど、どうやらそうもいかないみたい。


 それにこの国が、魔王の力を使って他国をどうこうする意志がないってことも、理解して貰わないとだよね。


 そこはアラン国王や、デイビッド王太子に頑張って貰うしかないけど……。

 国の問題は、私や弟たちには、どうにも出来ないことだしね。

 

 留学に来る予定の王子は4人。

 8つの国のうち、この国をのぞく4つの国が、こちら側についてくれさえすれば。


 多数決で、この国を攻めることを、やめてくれるんじゃないだろうか。

 留学に来るというのも、そもそも内側からこの国を探るのが目的なのかも知れないな。


 うん、きっとそう!

 本編じゃなく、イベントクエストのエピソードでそれが語られるっていうのが、セカンドシーズンの予告みたいなものだったんだ。


 ということは、聖獣の乙女という存在も、セカンドシーズンになって現れるものなのかも知れない。


 精霊よりも妖精よりも上位の存在、聖獣の力を借りられる乙女が、世界を1つにする。

 ……うん、エタラブならありそうだね。


 ──だからそれが私だっていうのが、まったくもっておかしいんだけど!!

 私がうんうんと唸っていると、アラン国王が紅茶のお代わりがいるか聞いてくれる。


 すっかり考え込んでしまったせいで、目の前の紅茶は冷めてしまっていたので、ありがたくお代わりをお願いすることにした。


「さて。聖獣の乙女たる、勇者と魔王の姉君よ、そなたに1つお願いがあるのだ。」

 新しく運ばれて来た紅茶に口をつけたところで、アラン国王が嫣然と微笑んだ。


 ……心臓に悪い顔だわ。

 肘置きに肘をついて顎を拳に乗せて、こちらを覗き込んでいる姿もキマってる。

 幼女を誘惑しないで下さい!


「はい、なんでしょうか?」

 私は出来るだけ平静を装いながら答えた。

 我ながら落ち着いて見えると思うの。


「勇者と魔王には、将来パルディア学園に入学して、寮で生活して欲しいと思っている。

 あそこは聖なるものの力が最も強い場所。

 魔王が人間に混ざって暮らせるかを試すには、これ以上ない場所だろうからな。」


「本当ですか!?」

 “魔王の弟”はさすがに無理だと思ってた。

 なのに、アラン国王の方から、入学しないかと提案してくれるなんて!


 ここはうなずく以外の選択肢はない。

 聖獣の守りを除けば、王宮以上の加護があるともされているパルディア学園。


 魔王とは、相反するものだ。

 だけどそこで暮らせるくらいじゃなきゃ、国民を納得させるなんて無理だと思うの。


 真逆の存在だから、恐らく魔王の力は多少はおさえられる筈。感情が高ぶったとしても魔力の暴走まではしないだろう。


 ひょっとしたら、“魔王の弟”には、少し辛いかも知れない。

 自分の力と反発して、おさえつけてくるんだものね。


 でも、そこで暮らせるということは、聖なる力が多少なりとも、魔王を受け入れているということの証明でもある。


 聖なる力は、悪しきもの以外には、体を健康にし、病を癒やし、とにかくあるだけで人々を幸せに出来るとされる力だ。


 ヒロインにも当然その力があって、魔王はヒロインの愛を受け入れることで、聖なる力に反発しない存在へと姿を変えるんだ。


 エタラブのトゥルーエンドは、魔王を倒すことじゃない。魔王を愛の力で変えて、仲間にすることこそが真のエンディングだ。


 愛はヒロインの愛だけじゃない。

 家族愛だって、友情だって、愛なのよ。

 お姉ちゃん、家族と仲間たちとともに、きっとあなたを変えてみせる!


 私は“魔王の弟”の未来を思い、グッと小さく両手で握りこぶしを作った。

「そんなに喜んで貰えてなによりだ。」

 アラン国王が私を見て、クッと笑う。


 見られてた……。恥ずかしい。

 というか、さすがセクシー担当アダルティーズの1人。そんな姿すらも悩ましい。


「そこで、だ。勇者と魔王の姉君にも、ぜひパルディア学園に入学していただこうと思っているのだが、どうだろうか?」


「──!!私もですか!?」

 そんなの、もちろん、答えはイエスだ!!

「ぜひ!ぜひお願いします!私、パルディア学園に入学したくて勉強してるんです!」


「そうか。そう言って貰えてなによりだ。

 だが、1つだけ問題があるのだが、それを了承して貰えないだろうか?」


 問題?はて?

「それは……いったいなんでしょうか?」

 私はアラン国王の顔を覗き込んだ。


「姉君にパルディア学園に入学して欲しい理由は、魔王の暴走を止める為に他ならない。

 姉君がいれば、魔王は暴走しない。

 ──そうであったな。」


「はい……。その通りです。」

「なれば、姉君には、勇者と魔王と同学年として生活して欲しいと思っている。

 姉君は弟たちとはいくつ離れている?」


「……2歳です。」

「なれば、本来であればデイビッドと同学年だと思うが、2つ年下の子たちに混ざって、勉強をすることになるが、問題はないか?」


 そうきたかあぁ!!

 ……確かに弟たちと同学年の同じクラスとかで、近くにいれたほうが、万が一のことがあった時に、止めにも行きやすいけど……。

 

 せっかくパルディア学園に入学出来るっていうのに、私は同学年の友だちが作れないってことなのね……。ううっ。


 欲しかったなあ、同い年の友だち……。

 でも、仕方がないよね。弟たちの為に、私をパルディア学園に入れたいんだもの。


「わかりました。仕方がないです。」

「そうか。そう言って貰えると助かる。」

 アラン国王がそう言って微笑む。


「その代わりと言ってはなんですが、私からも1つ国王さまにお願いしたいことがあります。ぜひ、聞き届けていただけないでしょうか。それほど難しいことではありません。」


「……ほう?そなたが私に願い事とな。」

 キリッと背筋を伸ばして、堂々と自分を見てくる幼い少女の姿に、アラン国王は面白そうに目を細めたのだった。

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