第11話 聖獣の背中でデート?

 私の出した声に、全員の視線が再び一気に集まる。あ……あれ、ちょっとはしたなかったかな。えへ。


 王族の許可もなく大声で発言してしまったことで、お父さんとお母さんが驚愕の表情で娘の今後を心配し、恐れの入り混じった目で私を見てくる。


 不敬が原因で投獄だってあるのだ。それはもちろん子どもとて例外ではない。お父さんとお母さんはそのことを心配しているのだ。


 もちろん優しい攻略対象者たちは、無邪気な子どもの発言に、目くじらを立てるような人たちではないけど。


「ふむ……。勇者の姉君もずいぶんと乗り気のようだな。少なくとも、姉君には害意はない。魔王にくみするのであれば、聖獣の判断を恐れるだろうからな。」


 アラン国王は玉座に右肘をついて、そこに顎を乗せて少し体重を預けながら、私を見て言った。


「──いいだろう。

 これより聖獣の儀をとりおこなう。

 みなの者、準備をせよ。」


 ──やった!!聖獣に乗れる!!

 ……いや、もちろん、“魔王”の弟が、この国に害をなす存在でなかった場合だけどね?


「お父さま、いえ、アラン国王、僕も王太子として、聖獣の儀に加わりたく存じます。」

 今まで護衛の影に隠れていたデイビッド王太子が、サッと前に出てひざまずいた。


「ああ〜。ダッダッダア。」

 テオ王子まで何か言ってる。

 テオ王子も加わりたいのかな?

 まさかね。まだ赤ちゃんなんだし。


 それにしても……。デイビッド王太子はさすがに幼少期の声は別の人が当ててるけど。

 テオ王子は元の声優さんがやっているんだよね。それにしても……きゃんわいぃい!!


 大きくなったら、やんちゃ王子と呼ばれるテオ王子の中の人は、デビューの翌年にいきなり主役に抜擢されて人気が出てから、ずーっとその人気が続いているベテラン声優だ。


 本人がかなりの甘えん坊だからか、どこか憎めない、母性本能をくすぐるキャラクターがうまい。お子さんも別事務所で、声優さんと俳優さんをやっている。


 長く続いてる某探偵アニメの高校生役をやっているから、子ども時代は小学生役の声優さんが来るんじゃ?と予想されてたけど、本人のままで正解だったと思う。


「デイビッド、それはなぜだ?」

 アラン国王がデイビッド王太子を見て尋ねる。デイビッド王太子は顔を上げて、キリッとした表情でアラン国王を見た。


「魔王を人間の世界で暮らさせるということは、やがては魔王を勇者とともに、パルディア学園に入学させる可能性をお考えではありませんか?」


 デイビッド王太子の言葉に、

「……その可能性は否定できんな。」

 と、アラン国王が言った。


 え!?“魔王”の弟と、“勇者”の弟が、一緒にパルディア学園に通える可能性があるの?

 王族がそう言うからには、入れろと一言、そう言えば、それは確定事項になる。


「勇者の姉君は僕と同い年です。

 やがて勇者と魔王がパルディア学園に入学する際には、姉君と僕のサポートが必要になることもあるかと。」


 ……確かに。今のところ“魔王”の弟を止められるのは、私だけだもんね。

「なれば今のうちに、勇者の姉君と親交を深めておく必要があると思います。」


「ふむ……。姉君に問う。

 パルディア学園に入学の意思はあるか?」

「はい!入りたくて勉強してます!」

 私は元気いっぱいに答えた。


「……いいだろう。デイビッド、お前も参加するがよい。では、勇者の姉君とデイビッドを、聖獣の泉まで案内するように。」


 ……アラン国王と、幼少期のデイビッド王太子と聖獣に乗れるの!?これは熱い!!

 そうよ、ヒロインだって、2人と同時になんて乗ったことはないもの。


 あくまでも攻略対象者。他攻略対象者に向かうルート分岐はないゲームだから、同時に乗るシーンがあってもいいとは思うけど、別キャラが出るときはあくまでもモブ扱い。


 エピソードに絡むことはあっても、攻略対象者2人と同時にイチャイチャするようなシーンはなし。1人の攻略対象者に対し1人のヒロイン。別世界線でありビ●チにあらず。


 そこがいいんだよね、私としては。

 大勢のイケメンに取り合いされたり、ハーレムルートが欲しい人には、エターナル・ラブ・クロニクルは向いてないのだ。


 別キャラと絡んでるエピソードシーンが見たくて、推しじゃないキャラクターを攻略する人や、その結果、別キャラにハマる人は大勢いるんだけどね。


 なんせキャラクターごとのエピソードが濃いから、サブとのエピソードが、そのサブキャラの攻略時のエピソードと連動してることも多いのが、このゲームの特徴だから。


 推し変革命のエタラブと言われる中で、生涯推しを変えない宣言をする人は、推しを崇推し(アガメオシ)と呼び、また本人も尊敬の念をもって崇推仏(スウスイブツ)と呼ばれている。ちなみに私はその崇推仏だ。


 即身仏からきた言葉で、生涯をもってして宗教を極めるが如く、あまたの誘惑(他攻略対象者によるアピール)をたちきり、推しを推し続けるという誓いをたてるのだ。


 だから私、カトミエルが恋愛対象じゃないんだよね。だって信じてる宗教の神様に、恋はしないじゃない?ただひたすら尊い存在。

 それが私にとってのカトミエルである。


 私とデイビッド王太子は、従者に付き添われて、聖獣の儀に向けた準備をしていた。従者がくんできた聖獣の泉の水で体を清めたあと、金糸を編み込んだ服に着替えるのだ。


 俗世の悪意の念が服や体にまとわりついたままだと、聖獣がその人自身を見ることが出来ないからだとかなんとかで、ヒロインも攻略対象者とペアルックで聖獣に乗る。


「……これを着るんですか?」

「申し訳ごさいません。

 この年齢の方の服は、デイビッド王太子のものしか、ご用意がありませんので……。」


 従者の方が申し訳なさそうに私に告げる。

 私はガッカリして大きなため息をついた。

 ヒロインが着ていたのは、可愛らしいフレアのスカートのワンピース。私が着ているのは、デイビッド王太子の予備の服だ。


 つまりは男の子の服なのである。

 まあ、しょうがないよね。この国の王家には代々男の子しか生まれないという、ご都合主義設定。ヒロインが出てくるのはパルディア学園高等部入学からなんだもん。


 可愛らしいワンピースのペアルックで、アラン国王とデイビッド王太子と聖獣に乗れると盛り上がっていた私のテンションは、一気にだだ下がりになってしまったのだった。


 だけどすぐにそれは回復することとなる。

 王宮の隠し通路──隠し通路ですよ、みなさん!!──を通って、聖獣の泉へと向かうことになった、私とデイビッド王太子。


 従者に抱き上げられたまま、デイビッド王太子が壁に付けられた王家の紋章に手をかざすと、王家の紋章が黄緑色の光を放ち、スッと壁が消えて通路があらわれる。


 私は思わず祈りのポーズで両手をあわせて目を輝かせた。

 アラン国王のカードを手に入れて攻略した時に見たやつ!!それが今、目の前で!!


 ここは王家の血を引く人間にしか開くことの出来ない隠し通路だ。聖獣の泉は別空間に存在しており、とある森の中にある泉のように見えて、その実王家の隠し通路からしか、聖獣の泉にはたどり着くことが出来ない。


 過去の王族が、聖獣に絶対安全な場所を用意する約束と引き換えに、王家の守護を約束させたとアラン国王が言っていたっけ。

 私は今まさに、その場所に向かうのだ。


 隠し通路そのものは、王族攻略の時にしか見られないけど、聖獣の泉は本編のエピソードにも出てくる場所だから、これでテンション上がらなかったら、エタラブファンを名乗ってはいけない。そんな聖地なのである。


 ちなみに英文にするなら、クロニクル・オブ・エターナル・ラブが正しいだろ、とも言ってはいけない。だって語呂が悪いからね。


 ちゃんと公式もそこを明確にする為に、ロゴの部分を、エターナル・ラブ、とクロニクルの間にマークを入れているのだ。


 アプリのダウンロード表記こそ、エターナル・ラブ・クロニクルだけれど、テストプレイ時はエターナル・ラブ表記だったのだ。


 もともとタイトルのあるゲームの、リメイク版とか、続編とか、進化版にタイトルをくっつけるようなものだと思えばいいのよ。


 隠し通路が開くのに見とれていると、隠し通路に入るのを恐れていると思ったのか、デイビッド王太子がニッコリと微笑んで、私に手を差し出してくる。


 こんな年齢から既に紳士なのね……!!

 さすがメイン攻略対象者。

 出来たらこんな格好じゃなく、キレイなドレスを着て、お城の舞踏会でされたかった。


 私はオズオズとデイビッド王太子の手を取ると、王太子にエスコートされながら、歩くたびに、ポッ、ポッ、と魔法で松明の明かりのつく通路の中を、ゆっくりとすすんだ。


 従者と護衛に付き添われて、デイビッド王太子と聖獣の泉へと歩いて向かうと、既にアラン国王が儀式の為の服装へと着替えて、泉のほとりで従者と護衛とともに待っていた。


「わあ……!!」

 森を抜けると開けた大きな泉があって、その中央には、金色の王冠をかぶっているかのような白鳥が浮かんで泳いでいた。


「さあ、勇者の姉君よ、どうぞこちらへ。」

 アラン国王が、泉のふちに寄ってきた聖獣の背中に乗ると、まずはデイビッド王太子を聖獣の背中に乗せて、私に手を差し出した。


 アラン国王のスチル……!!

 私が手に入れて攻略したカードの中でも見た、ヒロインと一緒に聖獣の背中に乗るために、手を差し出すアラン国王の姿。


 まさか現実で見られるなんて……!!

 私はドキドキしながらアラン国王の手を取った。すると、私が片足を聖獣の背中に乗せた途端、ひょいっと両脇を抱えられた。


 ──ストン。そのまま聖獣の背中に座らされる。……もっと色っぽくやって欲しかったのにぃ〜!私が子どもだから、そのほうが安全なのは分かるんだけどさ……。チェッ。


「──聖獣が勇者の姉君を受け入れたぞ!」

 従者や護衛たちから声が上がる。良かった……!これで“魔王”の弟は、安全だと思って貰えるってことよね!


 アラン国王、デイビッド王太子、私を背中に乗せて、聖獣が泉の中央へとすすんで泳ぎだした。ひんやりとして気持ちがいい。

 透明な泉の上は、まるで水底が近いかのように錯覚させられるほどだった。


 私今白鳥に乗ってる!というか、エタラブの聖獣に乗ってるのよ!やった!やったよ!

「どうやら聖獣は、魔王を安全だと判断したようだな。姉君よ、よくやってくれた。」


 アラン国王が褒めてくれる。

「──受け入れてくれてありがとう。」

 私が背中の上からお礼を言うと、聖獣が振り返って、私に額をスリスリしてくれた。


 なにこれ!可愛い!あと気持ちがいい!

 「うふふ。わたしも大好きよ。」

 私は聖獣の首を抱きしめて、おでこをつけかえした。聖獣とイチャイチャする私。


 それを見たアラン国王とデイビッド王太子が驚愕の視線を私に向けてくる。

 ん?なに?どうかした?

「お父さま、これはひょっとして……。」


「ああ。王国始まって以来のことだ。聖獣が人に懐くなどと。王家の人間にもありえなかったことだ。まさか勇者の姉君は……。

 いや、まだそう考えるのは早計だ。」


 アラン国王とデイビッド王太子が深刻そうな顔をしている。何かまずかったかしら?

 聖獣がチラリと目線で前を見ると、私を再び見たあとで、クチバシで先を示すかのように、クイッとアゴをあげた。


「ん?前に進むってこと?

 あ、早く進むってことね!」

 私が笑顔でそう言うと、聖獣はコックリとうなずき、急にスピードをあげた。


「キャー!早い!早い!気持ちいい!!」

 泉の上を素早く泳ぐ聖獣。私と遊んでくれるなんて!ほんとなら一緒に泳ぎたいのに!

「いつか一緒に泳ぎたいねえ。」


『──いいよ。一緒に泳ごう。』

「え?誰?」

 私はアラン国王とデイビッド王太子を振り返ったが、2人は不思議そうに私を見てる。


『僕だよ。僕の名前はセイラン。

 君の名前は?』

「私の名前はノエルだよ!よろしくね!

 セイラン!──え?」

 セイランの体が突如光に包まれだす。


「せ、聖獣の名前を当てただと……!?」

「お父さま!勇者の姉君は、まさか聖獣と話しが出来るのでは……!」

 セイランの体が黄緑色の光に包まれる中、アラン国王とデイビッド王太子の声がする。


 私たちの体は黄緑色の光に包まれ、飲み込まれてしまった。光は一本の柱となり、私たちは泉のふちへとおろされた。

 目の前の黄緑色の光が人型へと変わる。


 そしてそれは、長い白髪に金色の房がひとすじ混ざった美しい青年の姿へと変わった。

「僕の名前を呼んでくれた乙女よ。

 ──僕は君を守る守護獣になるよ。」


 泉の色をうつしたような、青い瞳が私を見つめて微笑んでいる。

 え、えと、まさかこれって……。

 ──追加の隠し攻略対象者!?

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