第10話 12守護聖と4将軍と8星からの提案
勇者に魔王、12守護聖、4将軍と8星、王太子、王子、魔塔の主、宰相、隠密、暗殺部隊、騎士団長、1.5期追加のアラン国王を加えた36名が、このゲームのオープニングムービーにもいる、初期からのメイン攻略対象者たちだ。
ここにやがては、教師、幼なじみ、学園の食堂の料理長だとか、王太子の乳兄弟だとかが加わるのだけれど、2期以降のメンバーはオープニングムービーに追加はされない。
まあ単純にお城にいるのが違和感あるからだと勝手に思っている。ただの教師や幼なじみが王様の前に立ってたらおかしいもんね。
そうじゃなきゃ、初期の時点ではモブの筈の、デイビッド王太子の乳兄弟や、教師や幼なじみに声までついてるのに、オープニングムービーに彼らを入れない理由がない。
人気投票で彼らがアラン国王よりも得票数を獲得しないであろうことを、あらかじめ運営が予測してのデザインとしか思えない。
実際人気声優さんたちを採用しているものの、初期で声ありモブだった他のキャラクターたちの外見が、ちょっと弱いんだよね。まあ、メインとの対比の為だとは思うけど。
デイビッド王太子の乳兄弟役の声優さんは、プライベートでもデイビッド王太子の中の人と、親交が深い声優さんがやってるんだけど、今回このキャラクターを指定されて、かなり困惑したらしい。
というのも、普段はガタイのいいキャラクターをやることが多いのに、ヒョロヒョロで金髪の長い前髪で目元を完全に隠したボブカット、オマケに声フェチで、最初はヒロインにもちょっと気持ち悪がられるという役柄。
なんか俺だけ当て書きされてない?声豚が声優になった人とか、思われてるんじゃないのかな、と声優イベントで言いつつも、しっかり変態っぷりを披露して笑いを誘ってた。
この声優イベントがまたカオスで、王太子の目の片方が青かったら、彼多分ストーカーになってましたからね、とか言い出して。
隠密のイーサン役の声優さんがノリノリで王太子役の人を「そーたぁん。」って呼んだかと思えば、乳兄弟役の声優さんが「よいぞよいぞ!」とか言って会場大盛り上がり。
シューヤは好きになったら、ヒロインを殺しに行きますからね。とか言い出して、シューヤの声優さんが、「お前を殺す!」とか言い出すし。イライジャ役の声優さんも「死神が地獄から舞い戻ってきたぜぇ!!」とか言い出すから、「セリフ……なんだっけ?」って、カトミエル役の声優さん困惑してたし。
ちなみに勇者と魔王が1番前にアップで映ってて、こちらに手を差し出している。魔王の爽やかで優しい笑顔は、魔王の攻略後スチル以外だと、オープニングムービー以外では見ることが出来ない仕様になっている。
そんなことを思い出していたら、ちょっと怖かった気持ちもどっかにいって、私は1人すっかり緊張がほどけていたのだった。
「12守護聖……?
ということは、お前たちは……。」
アラン国王は12守護聖のことが分かるらしい。ひょっとしたら王様だから、今までに会ったことがあるんだろうか?
驚愕した表情で4将軍と8星を睨み、思わず玉座から立ち上がって自らかばうように、デイビット王太子とテオ王子の前に立った。
テオ王子を抱きかかえている乳母もこわごわと身を引いて、その前に兵士たちが集まってきて、4将軍と8星に剣を向ける。
残りの兵士たちは直接4将軍と8星に近付いて剣を向けた。王宮にいきなり敵の侵入を許したんだから、焦るのも無理はない。
だけどアリュール様たちは涼し気な表情でアラン国王を見ていた。
「──お初にお目にかかる、アラン国王。
突然の訪問をお許しいただきたい。
我らは魔王様につかえる者。アラン国王、あなたにお話があって参上つかまつった。」
「話だと……?」
本来名乗りもせず、王族の許可も取らずに話しかけるなんて、とんでもない不敬なことだけど、対等の立場であるかのように、アリュール様はアラン国王に話しかけた。
「アラン国王よ、我ら12守護聖からもお願いしたい。この者たちの話に耳をかたむけてはいただけないでしょうか。」
ヒューゴ様が12守護聖を代表してアラン国王に恭しく頭を下げる。
「頭を上げて下さいヒューゴ様。あなたがた12守護聖は勇者を守護する者。我らが救い主だ。たとえ王とて、あなた方に頭を下げさせることなど出来ません。」
そうなんだよね。12守護聖は国の守りの要だけど、王家には属さない存在。あくまでも伝説の勇者だけの味方という立場だ。
王家といえども、12守護聖には頭が上がらない。対等以上の存在なのだ。彼らにそっぽを向かれたら国は終わりだから。
「なぜ12守護聖が彼らの味方を……?」
「味方というわけではないのですがね。」
ヒューゴ様はチラリとアリュール様を流し見ながら言う。アリュール様は涼しげな態度のままだ。
「彼らと話し合った結果、今はそれが最適解ではないかと思ったのです。」
「最適解……ですか。」
アラン国王は訝しげに眉をひそめた。
「そう言うわけだ。我らより、アラン国王、あなたに進言がある。」
アリュール様がアラン国王を見据えた。
「──申してみよ。」
アラン国王は王子たちの警護を護衛に任せることにしたのか、再び深く玉座に座り直すとアリュール様をにらんだ。
「我らは我が王を、我らの国に連れて行こうとした。だがそれはかなわなかった。王がそれを拒んだからだ。王はこの世界で生きることを望まれた。その理由がそこな娘だ。」
アリュール様がチラリと私に目線を向け、みんなの視線が一気に私へと集まった。
「勇者の姉君……か?」
「そうだ。我が王はこの娘とともに生きることを望んでおられる。我らは王を守り、その意志を尊重する者。王が人とともに生きることを望むのであれば、その意志は尊重されなければならない。──現時点では、だが。」
アラン国王はじっとアリュール様を見つめていた。そして時々チラリと私にも視線を向けて来るので、そのたびドキッとする。
「勇者は我らにあだなす者。我ら魔族の脅威となりうる者。だが、こたびの勇者は我らが王の縁戚であった。そして、勇者もまた、この娘のそばにあることを何より好んでいる。
なれば我らの取るべき道はひとつだ。」
アラン国王も、他の人たちも、じっとアリュール様の次の言葉を待っていた。
「我らが王を人の子として育てる。だが今はその強大な力を制御することはかなわない。人の子にも、──そして王自身にも。」
「──なればどうする?」
アラン国王がアリュール様の目の奥を、探るように覗き込みながら言った。
「我らが王の近くにいて守護しよう。その力が暴走せぬよう、見守り続ける。さすれば王も人の子の中で生きることも出来よう。」
「──魔族が人に混じって暮らすだと!?」
突然大声を上げたのは、攻略対象の騎士団長だった。ううん、現時点ではまだ騎士団長ではなく、のちの騎士団長になる人、今は少年の姿のエドモンド・ヴァッシュだった。
特性は挑発。他のカードに対する攻撃をすべて自分に集めることで、デッキのカードを守り、他のカードがスキルをチャージしやすくし、また、HPダウン等のデバフも集めてくれる為、ステータス異常を使う敵に、デッキのカードが一度にやられることを防ぐ。
髪の一部が赤いメッシュの金髪のツンツンヘアーに青い目。大人になるとかなりマッチョなんだけど、今は筋肉が出来上がってないみたいだ。声も同じ声優さんだけど、大人になった時と比べてかなり高い。
漫画原作もてがける、所属事務所の名誉会長をしてる、ベテラン声優さんが声を担当している。でも本人がかなりのセクハラキャラの為、愛を込めて、才能しかないクズ、歩く放送事故、なんて言われたりもしている。
けど、なんだかんだ人気な人で、それもひとつのキャラクターとして捉えられていて、最初はモブだった他の騎士団長が、彼と親しい2人の声優さんに決まった理由が、それなんじゃないかって言われてる。
──別名セクハラ三銃士。もちろん乙女ゲームの攻略キャラクターだから、女の子が完全に不快になるようなことは、さすがにしないんだけど、ちょっと下ネタ言うんだよね。
キャラクターを担当してる声優さんたちが交代でパーソナリティをつとめるラジオで、3人揃った時の下ネタは、まあ酷かった。
でもいざという時は熱くて、ギャップに惚れる声優本領発揮の、カッコいいバトルシーンを見せてくれるキャラクターでもある。
「そんなことが許されるとでも思うのか!
誰がお前たちを信用などするものか!」
「エドモンド。落ち着け。」
王族との会話に割り込んでしまった彼の不敬を、今の騎士団長がいさめている。
「そこは我らがいさめましょう。
こ奴らが裏切る様子を少しでも見せれば、迷わず我ら12守護聖が、魔王ごとこの世から消し去ることをお約束致しましょう。
これは前例のない賭けですが、うまくすれば争うことなく収まるかも知れぬのです。」
「お前たちごときが、我らを魔王様ごと消し去るだと?随分と笑わせるな。」
「あなたね!私が穏やかに話をまとめようとしているのに、横からチャチャ入れるのをやめていただけますか!?」
いつもの癖で、アリュール様とヒューゴ様が、大人気なくやりあっている。
そんな2人の様子に、先程まで緊迫していた空気はどこへやら。アラン国王も毒気を抜かれたような表情で2人を見ていた。
「オ……、オホン。
まあ、そういうわけです。
我々12守護聖としましては、魔族が仕掛けてこようとしない以上、争うことを望みません。勇者のお姉さまを、勇者と魔王双方が守ろうとする限り、魔王が人間の世界にいることは、脅威にならないと判断しました。」
「にわかには信じがたいな……。
たったひとりの人間の為に、魔王がこの国を攻め滅ぼすことを諦めると?魔王に人の子の感情があるとでも言うのか。」
アラン国王はまだ信じられないといった様子だった。何度も人の国に攻め入って来た魔王の復活だ。そう思うのも無理ないと思う。
私も魔王を攻略していないから、そもそもなんで人間の国に攻め入って来てるのかが分からないんだよね。だから、弟がそんなことするわけないと思う反面、でもやっぱりゲームの強制力が働いたりしないの?って思う。
私がそう思うくらいだから、この国の人たちには、4将軍と8星を前にした今、それをにわかには信用出来ないと思う。
「ではどうすれば信じると?
今は乳飲み子と言えども、魔王たる我らが王と、我らを簡単に倒せる筈もあるまい。
それに既に我ら1人ずつでは持て余す程の力。無理に2人を引き離せば国が滅びよう。
お前たちがこの条件を飲んだほうが、お前たちにとっても話が早いのではないか?」
アラン国王は決めかねているようだった。赤ちゃんといえども魔王。ましてや4将軍と8星が全員揃っているこの状況じゃ、戦ったとしても血を見ないのは不可能だろうから。
「──ならばこうしてみてはどうですか。
聖獣に判断を委ねるのです。
勇者のお姉さまを、王家を守護する聖獣が認めるのであれば、ものごとはすべてよい方向に転がることでしょう。」
そう言って姿を現したのは、攻略対象のひとりである、宰相、ジョージ・グラントだった。この人もかなり見た目が変わらなくて、青年期の今も同じ声優さんが声を当ててる。
特性は沈黙。レベルに応じて数ターン相手の特殊スキルを封印する。対人戦やイベント敵の組み合わせ次第では、自分のデッキにとってやっかいなスキルを延々封印して、反撃のチャンスをつかみやすくしてくれる。
癖のある少し襟足長めの紺色の髪に、切れ長の緑の目。いつもピッチリ第一ボタンまでしめている服装で、夏でも一切薄着をせず、水着イベントですら、1人だけ服を着てた。
その服の下に何か秘密があるのでは……?と言われながらも、特に公式にそれに関する描写がなくて、理由はなぞのままだ。
昔は強面な見た目を活かして俳優業をしていた人で、悪役も紳士役もこなす幅広い芸風の人。演じたキャラクターがきっかけで、好物が麻婆豆腐になったのは有名な逸話だ。
「──聖獣に?勇者の姉君を、聖獣に乗せてみようというのか?」
──聖獣!!まさか、乗れるの!?私!!
王族を守護する聖獣。アラン国王と、デイビッド王太子と、テオ王子の攻略過程でのみ出てくるイベントで、攻略対象の好感度が高いと、デートで聖獣の住む泉に向かうのだ。
聖獣は巨大な白鳥の姿をしている。3人のいずれかとのデートで、2人で聖獣の背中に乗って泉の上でくつろぐことが出来る。
聖獣に認められないと、皇后として奥さんを王家に迎え入れることは出来ない決まりがあるので、必ず対面させることになるのだ。
聖獣に拒まれてしまった場合、どれだけ愛し合っていたとしても、皇后にすることだけは出来ないんだ、と、彼らが語るエピソードが存在する。その場合、悪役令嬢が皇后になるエンドになっちゃうんだよね。
また、いずれ王家を裏切る人物であれば、聖獣に拒まれることになる為、政敵と手を取り合う際にも、聖獣と対面させ、脅威になることとがないかの判断を聖獣に委ねるのだ。
だからこの場合は後者。私の存在が脅威になるイコール、“魔王”の弟が、やがてはこの国の脅威になりうるということ。
宰相であるジョージは、私を聖獣と対面させ、聖獣にその可否を判断して貰おうというのだ。聖獣が受け入れれば白。拒めば黒。しごく単純な仕組みだ。
聖獣が白鳥だなんて、あんまり聞いたことないと思うけど、白鳥の背中になんて乗れるのであればもちろん乗りたいに決まってる。
それもヒロインしか乗れない筈の聖獣ともなれば、このチャンスを逃す手はなかった。
「私、……乗りたいです!」
私は思わず声高に宣言したのだった。
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