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発車するまでの間、キミと過ごした日々に思いを馳せながら、ぼんやりとあの桜並木を眺めていた。
そこに、キミの姿を見つけた。
その僕に気付いて、キミは手を振った。おずおずと、小さく。
笑顔を見せるキミのその目は、潤んでいた。
手を振り返そうとした瞬間、電車が走り出した。僕はその場から動けなかった。だんだんと遠くなるキミの姿が歪む。
僕は泣いていた。勝手なことをした僕には泣く資格なんて無いと思っていたのに。我慢しようと決めていたのに。それができなかった。
『行かないよ』
と言っていたキミ。それなのに、来てくれた。
言いたいことも飲み込んで。たくさんの思い出があるあの場所から、笑顔で僕を見送ってくれた。
『さようなら』を言えなかったのは、僕の弱さだ。
笑顔をくれたのは、キミの強さだ。優しさだ。そう思う。
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