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春になって桜が咲くと、駅の裏の小さな桜並木を歩く。僕らの恒例行事だ。
たくさんの桜が見られる大きな公園もあるけれど、ちょっとした観光スポットになっているからこの時期は大勢の人がいる。だから駅裏の小さな桜並木は“隠れた名所”のようなかんじで。ゆっくり桜を眺めながら歩くには最適だった。
でもキミはいつも桜を見上げるよりも、下を見ることに一生懸命だった。
何見てるの?
僕が言うと、顔を上げて真っ直ぐな目で言った。
「ハルジオン。好きなんだ」
僕は気付かなかったけれど、桜の木の根本にはたくさんのハルジオンが咲いていた。
普通、ここは桜を見るんじゃないの? 珍しいよね、キミってやつは。
僕が言うと、キミはいたずらっぽい笑みを浮かべて答えた。
「いいの! 好きなんだから」
その笑顔が愛おしいと、僕は思う。思いながらなんだか胸の奥がむずむずしている僕にキミは続けた。
「だって、どんな場所でもまっすぐに伸びて、花を咲かせるんだよ? 素敵じゃない?」
わからなかった。その時は。
でも、今は少し、わかる気もする。
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