第37話 ヒロイン力
うん。ダメでした~。ここの司祭様もお腹に一物も二物も抱える人でした~。
なんなの? 司祭ってこういう人ばかりなの? 企まないと生きていけない立場なの? なら、神は無能と言ってるようなものじゃない! ふぁっくゆー!
なんて心の乱れは顔には出さない。ワタシ、ナニモシラナーイ、って顔でミドーの町の司祭様と向き合った。
「あなたがミリアね。メルア司祭からよく聞いてるわ」
教会の情報伝達力の凄まじさは前から知っていたけど、まさかわたしのことまで伝わってるとは思わなかった。わたし、教会に敵対したことないですよね? 寄付だってしてますよ。
「それはお耳苦しいことだったでしょう。話半分に思っていただければ幸いです」
「ふふ。メルア司祭の言う通りね。とても賢い方だわ」
臆病でことなかれ主義な小娘です。
「シスターラミニエラは無事でしょうか?」
ダリオ様が負傷してたらラミニエラが回復するでしょうから尋ねません。
「ええ。あなたの判断が早かったから助かったと言ってましたよ」
変なことをいわなくていいのに。まあ、聞き出されたのでしょうけどね。教会は知りたがり、だから。
「無事でよかったです。シスターラミニエラになにかあればメルア司祭に顔向けできなくなりますから」
わたしになんら責任はないけど、なにかあればイルアの失態になり、教会から睨まれてしまう。今後の平穏を考えたらラミニエラは五体満足で王都に届けないとならないのよ。
「ミリア!」
と、ラミニエラがやってきた。
教会に逃げ込んだだけに疲労は見て取れない。ぐっすり眠れたようで羨ましいわ。
「無事でなによりです」
「あなたは大丈夫だったの?」
「安全な場所に逃げ込んだので大丈夫です。もちろん、お嬢様もです。ただ、タオリ様が怪我を負ってしまったのでシスターに治してもらいたくて」
わたしたちは迎えにきただけ。教会の事情に首は突っ込まないし、突っ込みたくもない。と言うか、面倒なことに巻き込まないで。さっさと帰らしてもらいます!
「わかりました。すぐに戻ります。ライネ司祭、ありがとうございました。このご恩はいずれ返させていただきます」
「気にしなくてよいのですよ。あなたはあなたの役目を果たしなさい」
と、あっさりとラミニエラを開放する司祭様。もしかして、ミドーの司祭様とムローゲンの司祭様は、同じ派閥の人なの?
教会には派閥があり、争いがある。そう言えば以前、四人いる枢機卿の一人が病気で亡くなったと聞いたことがある。その枢機卿は聖女を管理するとかなんとか。まさか、政争が起こってる?
思わず司祭様を見ると、司祭様もわたしを見た。
これは確実に教会内で政争が起きてる。そして、ラミニエラは聖女候補だ。わたしたちはラミニエラを王都に送るために利用されたんだわ。
「本当にあなたは聡いのね」
その言葉にわたしは答えない。答えたら巻き込まれる。いや、もう巻き込まれてはいるんだけど、藪蛇なことをしたらダメだ。知らぬ存ぜぬで突き進むだけだ。
司祭様は追及してこなかったけど、ただ、穏やかに笑っていた。
……根回しはできている、って笑いね。これだから組織は怖いわ……。
ってまあ、わたしもムローゲンで子供たちを組織化して身を守ってるんだけどね。人のことは言えないか。
「気をつけてくださいね」
なにに? と問い返す勇気はわたしにはない。ただ軽く頭を下げて教会をあとにした。
「……ミリアはよくあの司祭の視線を真っ正面から受けられるよな。オレは怖くてなにも言えなかったよ……」
イルアは人の域から出るほど強いけど、精神的な戦いはからっきしだ。まあ、あの司祭様やムローゲンの司祭様が相手では並大抵の人は勝てないでしょうけどね。あの人たちは確実にヤバい人たちだわ……。
「ああいう人たちは裏で動くから表に出ている間は怖くはないわ」
まあ、厄介な相手であることには違いないけどね。
「それより教会内で政争が起きてるわ。王都にいる聖女派の枢機卿が亡くなったってウワサもある。お嬢様を狙う者の他にもラミニエラを狙う者もいるかもしれないわ」
「時々、ミリアが怖くなるよ」
「わたし、最弱の町娘なんだけど」
「ミリアが最弱ならオレなんて惰弱だよ」
「イルアは強いよ。だからわたしも負けないでいられるもの」
そっとイルアのベルトをつかんだ。
わたしがこうして生きられてるのはイルアがいてくるから。イルアがいてくれるからがんばれていられる。
「……う、うん、まあ、オレもだよ……」
照れ臭そうにソッポを向くけど、ちゃんと意思を示してくれる。
大丈夫よ、イルア。精神的なことはわたしが支えるから。あなたはあなたが思うままに生きてくれたらいいわ。
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