第38話 傘下

 隊商広場に戻ってきて、ラミニエラにタオリさんを回復してもらった。


 さすが聖女候補の一人。さらっと火傷や切り傷を治してしまった。もう痕すら残らない。魔法の万能感が凄まじいわ。


 こういうのを見ると魔法が使えたらな~って思うよね。ってまあ、使えるようになったからって大したことには使わないでしょうけどね。わたしの性格なら。


「イルア。食料の確認をするから魔導箱を出して」


 教会にいく前に買い物はしたけど、それは一日分。焼け石に水にもならないわ。王都までもう少しとは言え、万が一を考えたら万全にしておきたい。王都に着いてからすぐ買い物できるとは限らないんだからね。


「ミリアなら把握してるだろう?」


「一応してるけど、忘れてないかを確認するの。昨日からいろいろあったからね」


 荷物が整理は心の整理。このグチャグチャな思考を落ち着かせるには荷物の整理が一番なのよ。


 出してもらった魔導箱から中身を取り出してまた戻す。うん。落ち着いたわ。


「すぐに食事の用意をするわね」


 心が落ち着いたらお腹も減るもの。昨日から大したの食べてないからたくさん作りましょう。きっとイルアも保存食くらいしか食べてないでしょうからね。


 すぐに料理を作り出し、味見をしながらお腹を満たした。


「あーやっぱりミリアの作る料理は最高だ~」 


「恥ずかしいから静かに食べなさいよ」


 皆からの生暖かい眼差しが恥ずかしいじゃない。でもまあ、イルアが喜んでくれるならなによりだわ。


 いつも以上に食べたからさっき買った食材が尽きてしまったわね。あと、パンも残り僅かだ。


「イルア。もし二、三日は出発しないのならパンを補充したいのだけれど、どうかな?」


「んー。まあ、大丈夫だと思う。あとで話を通しておくよ。食料がないと困るしな。てか、パンを売ってくれるところあるのか? 仲買屋、忙しそうだぞ」


「大丈夫よ。このくらいの町ならパン屋も二十件以上あるでしょうからね」


 ムローゲンの町でも小さなパン屋を混ぜてたも二十件以上はあった。さらに大きなミドーの町なら三十件以上あっても不思議ではなあわ。


「まあ、割高になるけど、素早く済ませれるわ」


「ミリアに任せる。金はあるか?」


「大丈夫。お金はお嬢様が出してくれたから」


 町の中では剣よりお金だ。お金さえあれば大抵のことは片付けられる。通常財布の他に非常用財布に金貨四枚は入れてある。パンを集めるくらいなら通常財布で充分だわ。


「ほんと、ミリアは強かだよ」


 それは褒め言葉と受け取っておくわ。強かでなければ町では生きていけないんだからね。


 食事が終わったらさっさと片付けを済ませ、ちょっと仮眠する。お腹が満たされたら凄い睡魔が襲ってきた。わたし、一睡もしてなかったんだわ。


 がっつり眠ってしまったようで、起きたら夕方になっていた。あーやっちゃったわ……。


 まあ、まだ町が眠るには早い。第一計画から第二計画に移行しましょう。


 顔を洗い、体を軽く拭いたら護衛としてリガさんについてきてもらう。


「どこにいくの?」


「仲介屋です」


「受けてくれるのかい? 忙しいみたいだよ」


「まあ、正確に言うなら兼業の仲介屋ですね。仲介屋は隊商と契約を結んでますが、たまに不測の事態が起きて自分のところで用意できないときがあります。そのときは仲介屋同士で融通し合いますが、それでも足りないときに応援を頼むのが兼業仲介屋なんです」


 宿屋だったり道具屋だったり町によりけりだけど、まあ、大体は宿屋が兼業でやっているところが多いと聞くわ。


 仲介をやってる証として看板に馬の横顔が描いてあるから探すのはそう難しくない。隊商や旅人相手の宿屋は町の外にあるからね。ほら、あった。


「いらっしゃい。お嬢さん、なんか用かい?」


 店に入ると、番台にいるおじいさんが煙草を吹かしていた。


「仲介をお願いします」


「お嬢さんがかい?」


 まあ、十五の小娘がきたら問い返したくもなるわよね。


「はい。わたしがです」


 金貨を一枚出して番台に置いた。


 しばし番台に置かれた金貨を見詰め、それからわたしを見詰め、なにかを悟ったような顔をした。


「マルティン一家の屋根裏を借りた嬢さんってあんたか」


 もうわたしのことが伝わってるとか、ミドーの町の裏社会、どんだけ情報が伝わるのが速いのよ?


「ええ。とても快適な屋根裏を貸していただきました」


 あの組織、マルティン一家って言うんだ。名前訊くの忘れてたわ。


「ここもお頭さんの傘下でしたか?」


「まあ、下部も下部、辛うじて入れてもらってる下っ端だがな」


「それでも一家に入ってるならここはマルティン一家の縄張り。お頭さんには大変お世話になりましたのでお礼させてもらいます」


 金貨をもう一枚出して番台に置いた。


 こういうときお金をケチってはダメだ。下っ端まで情報が伝わるってことは下っ端の情報も上まで伝わるってことだ。なら、下手なことはできない。こちらの力を示しておく必要があるわ。


「……わかった。仲介しよう」


 マルティン一家としても乞われてできませんじゃ示しがつかない。一家としての名に恥じぬ働きをするしかないわ。


「それで、なにが欲しい?」


 欲しいもの書いた紙を番台に置いた。よろしくお願いしますね。

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