第24話 願い
夕方、やっとイルアが戻ってきた。沈んだ顔をして。
……面倒な依頼だったってのがまるわかりの顔ね……。
イルアは嫌なことがあると顔や態度に出る。もうちょっと顔に出さないように心がけなさいよと思うけど、これがイルアなのだからしょうがないわよね。
「イルア。パンをインベントリに入れてちょうだい」
すっかり冷めてしまったけど、焼き立てを食べれるほうが希なのだから諦めましょう。
「ああ」
「しっかりしなさい!」
バン! とイルアの背中を叩く。わたしの手が痛くならないていどにね。
「そんな沈んだ顔しないの。なるようになるわよ」
どんな依頼かわたしら知らない。教えてもくれないでしょう。なら、励ますことくらいしかできない。
「さあ、今日は帰りましょう。コリルが美味しい料理を作っててくれるわ」
帰ることは町の子に伝えてもらった。きっとたくさん作っててくれてるわ。
「あ、ああ。ミリアがいて助かるよ」
「わたしとしてはイルアの帰りを待っていたいんだけどね」
イルアがいることで普通の旅よりは楽でしょうが、十する苦労が六になったていど。しなくていい苦労なんてしたくないわよ。
「ミリアがいないとオレは挫折する自信がある! いかないなんて言わないでくれ!」
なんの駄々っ子よ。鉄の位を持つ冒険者のクセに。
「ハイハイ。わかったわよ」
イルアを宥めてうちへと帰る。
「あ、出発は明後日になりそうだ。陽が昇る頃に出発だから明日の夜には馬車にいないとな」
「シスターには伝えた?」
「組合から伝えてくれるそうだ」
組合も大変よね。依頼主への配慮をしつつ教会への配慮もしなくちゃならない。まあ、そのしわ寄せはイルアにきちゃったんだけどね。
「なら、明日は服を買わなくちゃならないわね」
「服?」
「わたし、旅用の服なんて持ってないし、町服では目立つでしょう」
「あ、そうか。オレも旅用の装備持ってないや」
「その装備じゃダメなの?」
わたしには冒険と旅の装備がどう違うのかわからないけど。
「まあ、構わないと言えば構わないが、今の装備は重いからな、もうちょっと軽くて動きやすいのにしておくよ。あと、外套も買っておかないと」
「あ、外套か。雨降ったりしたら寒くなるかもしれないわね」
暖かいとは言え、雨が降れば気温も下がる。それが夜ともなればもっと寒くなるはずだわ。
「旅用なら冒険者相手の店のほうがいいかな?」
冒険者相手と町の人相手では店が違う。わたしは、冒険者相手の店ってよく知らないのよね。
「うーん。デザインより実用性を優先してるから無骨なものしかないぞ」
「別にお洒落で着るわけじゃないんだし、実用性があったほうがいいわ」
わたしはお洒落のためなら暑さ寒さを我慢する女ではない。環境に適した格好をする女である。
「じゃあ、明日は服を買いにいくか」
「ええ。終わったら馬車にいきましょう」
そんな話をしながらうちに帰ると、近所の女の子たちが集まって食事を作っててくれた。
「イルア。明日出発なんだから洗濯物は籠に入れておいてよ」
「わかった。あ、替えの下着用意するの忘れてた」
明日、出発前に確認したほうがいいわね。
「コリル。明後日に出発することになって、夜には冒険者組合にいくことになったの。明日、買い物にいってそのままいくからあとはお願いね」
「わかったわ」
「皆もわたしがいない間、コリルを助けてあげてね」
近所の女の子たちがきてくれるならコリルも楽でしょうしね。
「はい。任せてください」
笑顔なのはお駄賃がなせる技。まあ、お金の関係と言われたら反論もできないけど、お金で解決できるならわたしは遠慮なくお金で解決するわ。
帰るときにお駄賃を渡し、一人一人にお礼を言う。感謝の言葉はタダだからね。
「コリル。大丈夫だった?」
「うん。大丈夫だったよ。ミリアねーさんを見習ってるからね」
変なところまで見習って欲しくはないけど、品行方正では人を使うことはできない。せめて悪女にならないよう導いていきましょう。
「ただいま~」
と、にいさんが帰ってきた。
「おかえりなさい。夕食にする?」
「ミリアねーさん、わたしがやるから座っててよ」
ついクセでスープを出そうとしてコリルに止められてしまった。
「あ、そうだったわね」
いけないいけない。任せた以上、手を出したらいけないわよね。
席に座り、あとはコリルに任せた。
「お待たせ~」
イルアもやってきて夕食を始めた。
いつものように大食漢なイルアに料理を出そうとする気持ちを抑え、夕食を摂った。
片付けもコリルに任せ、わたしは明日の用意をし、イルアのところにいって用意したものを確認をする。
「下着、持っていきすぎじゃない?」
上下十枚って、多いでしょう。
「いや、いつ洗濯できるかわからんし。ミリアだってこのくらい持ってくだろう?」
女性にそんなこと訊くな、と言いたいけど、同じ盥で洗っている仲。今さら恥ずかしいもないわ。
「わたしは上下五枚よ。湯浴みのときに洗うようにするからね」
「そうか。なら、上下五枚にするよ」
「まあ、いいわよ。インベントリに入れるんでしょう」
綺麗好きなイルアは衣服持ち。そのために貴重なインベントリの一つを衣服用に使ってるんだからね。
「まーな」
「荷車の中でも出せる箱にしたほうがいいわよ。雨のときを考えて」
「あ、そうか。ちょうどいい箱あったっけ?」
「納戸にあるわよ」
掃除はかあさんに任せているけど、どこになにがあるかは把握してるわ。
納戸から持ってきた箱に移し換える。
最終確認したら先に湯浴みをさせてもらい、早めにベッドへと入った。
「何事もない旅でありますように」
望み薄な願いをして眠りへとついた。
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