第25話 御聖印

 次の日、朝食を摂ったら買い物へと出かけた。と言うか、これが出発となるのか。いつもの調子で出てきちゃったわ。


 ま、まあ、必要なことは伝えてあるし、大丈夫でしょう。


「まずは荷物を馬車に積んだら外套を買いにいくか」


 と言うので冒険者組合の厩舎へと向かった。


 四の鐘が過ぎた時間だから冒険者組合は静かで、厩舎にもイルアの馬車だけだった。


「布団、届いているよ」


「受け取りありがとうございます」


 荷車に積まれた布団を見ると、丈夫そうな布で作られていた。


「魔物の毛で編まれたものだな」


「そうなんだ。これなら地面に敷いてもゆっくり眠れそうね」


 埃っぽくはなるでしょうが、汚れる前提のもの。堅いところで眠るよりマシだわ。


 布団はイルアのインベントリに入れてもらい、店へと向かった。


 外套が売っているお店は冒険者組合の横にあり、なかなか大きな店だった。と言うか、ここ、お店だったんだ。


「一階が酒場って不思議ね」


 普通、二階は宿屋になってない? 二階が道具屋(なのかしら?)ってのも珍しいわよね。


「そうだな。なんかこの町は宿屋は決まった区画じゃないとダメらしいぞ」


「へー。そんなこと初めて聞いたわ」


 十五年この町で生きてても知らないことがあるものなのね。


「ミロッドばーさん。女の外套があったら見せてください」


「あいよ」


 店のご主人はおばあさんっての珍しいわね。


 奥から何種類かの外套を持ってきてくれた。中古品っぽいわね。


「防御力高そうなものばかりだな。魔法具かい?」


 外套が魔法具? ってことは魔法がかけられたものってこと?


「ああ。入荷したばっかりのものだよ」


「へー。それは運がいい。男用もありますか?」


「あるよ。お勧めはこれだね。モリーナの毛で編んだもので、軽くて人気があるそうだよ。雨も弾くそうだ」


 外套もいろいろあるものなのね。町じゃ冬に纏うくらいだし。


 わたしも軽いのがいいな~と、外套を持ち比べ、やたらと軽い浅黄色のを選んだ。


 魔法具な外套なだけに高かったけど、いいものは高いもの。しょうがないわね。


「ミリア。手袋と長靴も買っておけ。今の時期だと蛇や虫が出るからな」


 なんだか嫌になることばかり言ってくれるわよね。


 蛇や虫に噛まれるのも嫌なので、なるべく厚手のものを買っておいた。


 他にも護身用の小刀や内袋服と言うポケットがついた袖なし服も買って、お金をわけて入れておいた。


 ……安全のためとは言え、重くて動き難いわよね……。


 まあ、昼間は馬車に揺られるだけなんだからがまんするしかないわね。


 細々のものも買ってから冒険者組合の厩舎へと戻ると、ラミニエラと司教様がいた。あと、二十半ばくらいの男性も。教会の騎士様かしら?


 ……これまた顔のいい騎士様を見繕ったこと……。


「イルア様。ラミニエラをよろしくお願いします」


「オレは護衛だから大して面倒見れないですよ」


「わかっております。護衛は教会騎士のダリオが致します。が、不慣れなところがあると思うのでよろしくお願い致します」


「教会騎士のダリオです。旅は何度かしておりますが、至らぬ点があれば遠慮なくおっしゃってください」


 人当たりのよさとか、選び抜いたって感じね。


「ミリア。あなたも不慣れな旅でしょうが、ラミニエラを支えてください。これを」


 と、教会印が焼かれた板を渡された。御聖印、だったかしら? 教会関係者であることを示すもののはず。


「それを持っていれば教会が力を貸してくれるでしょう」


 なにかとんでもないものを渡された感じっぽい。見た目は質素なものだけど。


「ふふ。使い方はミリアに任せます。正しく使いなさい」


 やはりとんでもないものらしい。ほんと、厄介な司教様だわ。


「使う状況にならないことを神に祈っておきます」


 なにがあるかわからないのだからお守りとして持っておきましょう。教会の力は絶大だからね。ハァ~。


 見送りにきた割にはあっさりと帰っていく司教様。また明日くるってことかしら?


「ミリア。よろしくお願いしますね」


「わたしこそよろしくお願いします」


 どうなかわからないけど、いがみ合う関係では過酷な旅がさらに過酷になる。仲良く、とまでいかなくても良好な関係は築いていきましょう。


「ミリア。昼、どうする?」


「ゼドさんのところで食べましょう。昨日、頼んでおいたから」


 旅の食料を節約するためにも町にいるときは町で食べるようにしておきましょう。


「シスターたちも一緒に」


 どうせ食事のことなんて考えていないでしょうしね。


 馬車に乗り込み、ゼドさんの仲買店へと向かった。 

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