第23話 きな臭い
食料品を買っていると、大きな隊商がやってきた。
「なにか予定ありました?」
なかなか見ない大隊商ね。うん? あれ? やけに派手な馬車が入ってきたわね。もしかして貴族の馬車なの?
なぜ隊商と一緒に貴族の馬車が混ざってるかわからないけど、あまりかかわりたくない。こっちにこないで欲しいわ。
「あれはバルーラ商会の隊商だね。くるとは聞いてたけど、予定より早いね。順調だったのかね?」
ゼドさんの奥さんが教えてくれた。
バルーラ商会は個の国でも一、二を争う商会だ。隊商もいくつも持っていて、一年を通して隊商を組んでいるって聞くわ。
「ミラーダさんのところで対応するんですか?」
隊商を相手にするところはいくつかあり、ゼドさんの仲介屋は真ん中辺りかしらね。
「いや、マレムさんところだね。あそこはバルーラ商会と契約を結んでるから」
あそこか。大手すぎて町娘が入り込める隙がないのよね。
まあ、こちらにこないのならなんでもいいわ。買った食料品を整理しないと。
荷車に乗っている間、魔導箱に出し入れしてわかったことがある。魔導箱は入れた者の意思が働くようで、箱で入れなくても中で整理されるようだ。
イルアのインベントリと同じく、温かいまま入れたら温かいままで時間停止するみたい。
いったいどんな作り方をしたらこんなデタラメなものができるか知らないけど、こんなのが大量に出回ったら隊商は商売上がったりよね。
買った食料品を箱に入れて店先に並べていると、イルアたちがやってきた。
「隊商、きてたんだ」
なにやら気が重そうにバルーラ商会の隊商を見るイルア。もしかして、あれが護衛する隊商なの?
「隊商の護衛よね?」
「表向きはそう言う依頼だ」
それはつまり極秘依頼ってヤツなのね。だから報酬が銀貨一枚だったのか。
おかしいと思ってたのよね。鉄の位の冒険者の報酬としては安すぎたし、なにか無理矢理ぽかったしね。
「表向きってことは、陰から依頼をこなせってこと?」
どのくらいかの貴族かは知らないけど、まったく護衛をつけないってことはないはず。騎士から兵士なりは護衛についているはず。
「まーな」
極秘依頼のようでイルアの口数が少ない。まっ、守秘義務ってあるからしょうがないか。
「挨拶してくる?」
「いや、冒険者組合にくる予定だ」
「きな臭いわね」
「ミリアがそう言うとシャレにならないから止めてくれよ。何事もないよう願ってるんだからよ」
とても冒険者とは思えないセリフよね。まあ、わたしも何事もないよう願ってるけどさ。
「あと、いくの止めるとか言わないでくれよ。ミリアが作る料理だけが楽しみなんだから」
本当に冒険者とは思えないセリフだこと。
なら、冒険者なんて止めてしまえばいいとは思うけど、イルアが商売とか職人をしている姿が思い浮かばない。安全安心な冒険者が似合っている。幼なじみながら不思議な男だと思うわ……。
「言わないわよ。報酬いいんでしょう?」
「まあ、うん」
それすらも言えないみたいね。どんだけ極秘なのよ。
……いや、そんな依頼にか弱いわたしを巻き込むなって話なんだけどね……。
「隊商の依頼。わたしは食事係。それでいいわ」
「助かる」
ハァ~。なにかあると覚悟して──いや、なにもないことを信じるけどね!
魔導箱を降ろしてもらい、買った食料品を詰めていく。
「容量はどうだ?」
「補給しないでいくなら足りないけど、途中の町で仕入れるわ」
町から出なくても仲介屋同士の付き合いはあり、手紙での情報交換をしているそうよ。その伝手を使わせてもらうとしましょう。
「ミリアのそのコミュニケーション能力が羨ましいよ」
「か弱いわたしは人を頼らないと生きていけないからね」
町で暮らすならコミュニケーション能力は必須。まあ、ありすぎて変な立場にされてるけど。
「なに?」
なにか言いたそうなイルア。言いたいことがあるならおっしゃってくれても構いませんわよ。
「あ、いえ、なんでもありません」
「そう」
にっこり笑って詰める作業を再開させた。
「ん? 入らない?」
詰めていたら突然、見えない壁にぶつかってしまった。
「容量に達したみたいだな」
やっぱりか。まだ残ってるのに。
「インベントリは開けた?」
「ああ。冒険者組合の金庫を借りて八個空けたよ」
インベントリになにを入れているかは知らないけど、三十個のうち八個も空けるなんて思い切ったわね。
「布団とパンはインベントリに入れましょう」
さすがにパンを頼むのは無理でしょうからね。
「パンは焼いているのか?」
「ええ。特別料金を払って総動員で焼いてるわ」
一回で五十個は焼けるけど、粉からこねて形にする工程で鐘一つ分はかかる。朝からやっとしても三百個いけるかどうかでしょうね。
……ちなみにイルアは一回で十個から十五個は食べちゃいます……。
「それをお願いできるミリアが凄いよ」
わたしてはなくお金が凄いんだと思うわよ。
一回目のパンができあがり、二号箱に詰めていく。
二号箱には百個は余裕で入るけど、入れたら下のが潰れちゃう。なので、半分は茹でイモを入れておく。イルアはマヨネーズをつけて食べるのが好きだからね。
「イルアさん、ここにいましたか!」
と、全力疾走でもしてきたかのような男の人が現れた。服装から冒険者組合の職員っぽいわね。
「どうした?」
「組合長がきて欲しいそうです」
さっそくですか。
「ミリア、悪いがあとを頼む」
「わかったわ」
素っ気なく答える。わたしが知っちゃダメなことだからね。
と言うか、イルアがいなくなったらパンをインベントリに入れられなくなるじゃない。
しょうがない。冷めたパンは火で炙ることにしましょうかね。
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