第22話 腹黒
次の日、朝食を食べたらイルアと買い物に出かけた。面倒な女が現れる前にね。
「なにを買うんだ?」
「パンだよ」
「パン? いつものところじゃダメなのか?」
「いつものところはいつもの量しか作らないからね、注文したら作ってくれるところにいくのよ」
「へー。そんなところあるんだ」
まあ、冒険者をやっているイルアが知らなくてもしょうがないわ。わたしも知ったの去年だし、一般人がいくところでもないからね。
パンを買う、と言うか、大量に作ってもらうところは、隊商相手の宿屋だ。
隊商は天幕を張って寝るかと思ったけど、夜営するのはそんなにないらしい。なるべく町から町の移動を心がけ、宿屋に泊まるそうだ。
「ここ、宿屋だったんだ」
隊商相手の宿屋は城壁の外にあり、冒険者のイルアは横目に見るくらいでしょうね。わたしも隊商との交渉は城壁の中にある高級宿屋だからね。こちらにくるのは数回しかないわ。
「イルアが護衛する隊商はもうきてるの?」
「まだのようだな。到着しても二日くらいはいるらしいよ」
「護衛、途中からなんだ。それ、珍しくない?」
信頼がない護衛を雇うなんてことしない。仮に護衛が怪我をしたとしても一人二人なら補充はしないでしょう。知らない人を補充するほうが危険だと思う。
「まーな。詳しいことは教えてもらってないが、なにか重要な物を運んでいるらしい」
「……大丈夫なんだよね?」
なにか凄く不穏な香りが漂ってきたのだけれど。
「まあ、オレが雇われた時点で大丈夫じゃないだろう」
「だよね~」
ハァ~。わたし、ただの町娘なのに……。
「いざとなれば違約金を払ってもミリアを守るよ。とは言え、いざと言うときのための暗器は常に持ってるよな?」
「持ってるわ。面倒な女が多いからね」
カリアはまだ可愛いほうで、イルアを狙う女が集団でやってきたりするし、暴漢を雇ったときもあったっけ。
「町の外なら殺してもなんとかなるから躊躇うなよ」
「自分の命が惜しいからね、躊躇わないわ」
誰ともわからないアホに操を奪われたくはない。ヤられる前に殺るわ。
「ミリアならオレより立派な冒険者になると思うんだがな~。ミリアの剃刀パンチや腹パン、大の男すら沈めるのに」
「人なら不意打ちできるけど、魔物とか前にしたら失神する自信があるわよ」
わたしは基本、臆病なの。勝てない相手とは対峙しない。しなくちゃならないときは、戦う前に勝つように動くわ。
「イルア、どこかで二号箱を六箱くらい見つけてきて。綺麗なのよ。そこに入れて魔導箱に入れるわ」
「了解。組合にいけばあると思う。つーか、馬車を持ってきたほうが早いな」
「それもそうね。宿屋でも食料品売ってるからね」
わざわざ町の中に入らなくてもいいように食料品店がある。まあ、利用したことないからなにがあるかわからないけどさ。
「んじゃ、持ってくるよ」
「うん、お願い」
イルアとわかれて宿屋へと向かった。
今日は大きな隊商がいないので、宿屋の前に人はいない。多いときはテーブルを出してお酒を飲んでいたりするわ。
いないのならと、正面から宿屋へと入った。
「いらっしゃい! って、ミリアか。お前さんがくるなんて珍しいな? 女房なら裏にいるぜ」
「おはようございます、ゼドさん。今日はちょっとお願いがありまして。パンを大量に焼いて欲しいんですよ。窯、空いてます?」
「空いてはいるが、どうしたんだ?」
「数日後にイルアに付き合って王都にいかなくちゃならないんです。その間のパンを焼いてもらいたいんですよ」
「イルアと? あの日帰り冒険者がか?」
「組合から無理矢理っぽいですよ。お陰でわたしまでいくことになっちゃいました」
「アハハ。そりゃご苦労さんだな。日帰り冒険者の幼なじみは」
「まあ、イルアとならそれほど苦労しないでしょうし、こうして食料を大量に持っていけるので普通に旅をするよりはマシでしょうよ。馬車まで買う徹底振りですから」
「馬車まで買ったのかい? そこまでいくと称賛に値するな」
「そうですね」
確かにあそこまで徹底してたら呆れを通り越して尊敬するわ。
「窯なら女房に言いな。今は人も空いているからすぐに焼けると思うから」
「じゃあ、これでお願いします」
材料費と人件費、窯代として銀貨十五枚渡しておく。突然きたお詫びも含めてね。
「相変わらず気前がいい」
「時間がお金で解決できるなら惜しまないだけですよ。それと、食料品店、やってます? やっているのなら買いたいんですが」
「やってるから好きなだけ買ってくれ。入れ替えしようとしてたから安くするよ」
あら。それはいいときにきたわね。
必要なときは惜しみなく使うけど、使わなくていいのなら遠慮なくケチります。
「ルド! 手の空いている者を集めてこい。マイラ! 仕事だ!」
ゼドさんのかけ声で宿屋で働く人たちが集められ、パン作りが開始された。
じゃあ、わたしは食料品店に向かいますかね。
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