第21話 面倒な女
のらりくらりとミホリーの要求を交わし続け、なんとか時間切れに持ち込んだ。ハァ~。しぶといったらありゃしないわ。
「イルア。このあとなにかあるの?」
気持ちを切り替え、なぜか少し離れた場所にいるイルアに尋ねた。
「あ、ああ。これと言ってないな。ミリアはなにかあるか?」
「布団を頼みにいってからうちに帰ろうと思うわ」
もう夕方近いし、市場も片付け準備に入っている。買い物なら明日で充分でしょうよ。
「そうか。なら、オレも帰るよ。湯浴みしてふかふかのベッドで寝たいよ」
地面に寝てたしね。わたしなら一睡もできない自信があるわ。
「あ、馬車はどうするの?」
冒険者組合が預かってくれるんでしょうけど、魔導箱積んだままでしょう? インベントリに入れてたほうがいいんじゃない?
「リガとマールに見ててもらうよ」
二人へと目を向ける。
「出発まで荷車にいるんですか?」
まだ二日くらいあるでしょうに。
「ああ。宿代が節約になっていいくらいさ」
冒険者って本当に凄いのね。考え方から行動まで。イルア、よくそんな世界でやれ……てないか。日帰り冒険者って呼ばれてるみたいだしね……。
「しかも、一日銀貨三枚とか破格すぎだよ」
イルアも必要ならお金はケチらない。お金で時間が買えれば儲けものと言う性格だ。
「では、お願いしますね。明日またきますから」
そう言って前に布団を作ってもらった工房に──あ、ラミニエラ! のことをすっかり忘れてたわ。
「あ、シスターはどうしたの?」
「ミホリーと話している間に教会に帰ったよ」
あ、そうなんだ。まあ、ラミニエラは無害だからどうでもいいわ。ただ、護衛の聖騎士がくるまでは油断できないけどね。
工房に向かい、親方に折り畳めれる布団を三つ、二日以内にできるようお願いした。
「急ぎ分はもらうぞ」
「はい。急ぎなので材料費込みで銀貨二十五枚でどうです?」
普通なら布団は銀貨六枚はする。急ぎ賃としては破格なはずだ。
「まったく、容赦のない娘だ。わかった。二日以内で仕上げるよ」
「完成したら冒険者組合の厩舎まで届けてください。厩舎の人に伝えておきますから」
そう告げてうちへと帰った──ら、運の悪いことに幼なじみのカリアと出くわしてしまった。ハァー。
「人の顔を見るなりため息とか失礼すぎでしょう!」
「面倒な女に会ったらため息もしたくなるわよ」
ミホリーと言う面倒な女をなんとか撃退したらまた面倒な女が現れるとか、自分の不運を呪うばかりだわ。
「誰が面倒よ!」
こうして絡んでくるんだから面倒以外なにものでもないでしょうが。
まったく、イルアもなんでこんな面倒な女に惚れられるかね? いやまあ、女は大体面倒な生き物だけど。
「イルア、お帰り~」
今のやり取りをなかったことにしてイルアに猫なで声ですり寄りるカリア。よくそれでイルアに受け入れられると思うわよね。脳内お花畑ってこう言うことを言うのね。
「あ、ああ。ただいま」
ドン引きになってるイルアに気がつかないのか、無駄な脂肪を押しつけている。いい加減、それは逆効果だと学びなさいよね。
「そうだ、イルア。葡萄酒を買ってくるの忘れたからお願いしていい?」
「あ、ああ! 任せろ。すぐ買ってくるよ!」
カリアの腕を無理矢理外して、酒屋とは逆の方向に駆けていった。まあ、葡萄酒の予備はたくさんあるから問題はないんだけどね。
「アホミリア! なんで邪魔すんのよ!」
「邪魔なんてしてないわよ。あなたも色ボケてないで家に帰りなさいよ。また遅刻するわよ」
いくら顔と胸が大きかろうと、性格に難があれば誰ももらってくれないわよ。
「身のほどを知って、自分の力量に合わせた男に言い寄りなさい」
なんて忠告はカリアに届かない。
わたしが綺麗で体もいいから嫉妬してるんでしょう? とかよくわらない理論を言ってくるが、頭がスカスカな女のどこを嫉妬しろと言うんだろうね。
面倒な女にいつまでも付き合ってられないけど、脳内お花畑な女ほど拗れやすい。ただでさえ面倒な女がさらに面倒になるとか悪夢でしかない。イルアに執着されるくらいならわたしが相手したほうが楽だわ。
「ただの幼なじみがイルアの女気取りしないで」
こう言うのをブーメランって言うのね。おもいっきりカリアの後頭部に刺さってるのが見えるわ。
「わたしは、イルアから依頼されてやっているだけよ」
「そうよね。お金の関係よね。わたしなら無償でやってあげるわ」
それは料理ができてから言えと叫びたい。いや、さらに面倒になるから言わないけど。
「そうね。いいんじゃない、無償の愛。素晴らしいわ」
「だったらバカにする顔なんてするな!」
「あらごめんなさい。根が正直なもんで」
周りから見たら女の醜い言い合いにしか見えないでしょう。わたしも他人事ならそう見るわ。けど、これは退いてはならない場面。完膚なきまで叩きのめす。
なんてことができたら楽なんだけど、脳内お花畑な女は面倒この上ない。勝てないとわかると感情を爆発させてしまうのだ。
腰を落とし、騒ぐカリアの腹にイルア直伝の腹パンを食らわして黙らした。
「──おふっ!」
はしたない声を出して白目を向くカリアを支える。
「誰かいる?」
そう問うと、路地から男の子が何人か出てきた。
「悪いけど、カリアを運んでちょうだい」
「わかった」
男の子たちに銅貨を握らせ、カリアのうちへと運んでもらった。
「……こんなことしてるからミリア組って呼ばれてるのよね……」
不本意だけど、自業自得。ため息一つ吐いてうちへと帰った。
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