第12話 腹黒ぐらいでちょうどいいい
「ミリアねーさん。きたよ~」
ちょうど片付けを終えた頃、コリルがやってきた。
「いらっしゃい。ちょっとわたしの部屋にきてくれるかしら」
「うん、わかった」
コリルを連れてわたしの部屋に向かった。
「ミリアねーさんの部屋にくるの久しぶりだけど、相変わらず荷物がいっぱいだね」
「収納する場所がないのに、物ばかり増えていくのよね」
まあ、部屋は寝るくらいしか使わないのだから物がいっぱいでも構わないわ。
「もし、わたしが王都から帰ってこなかったらこれをあなたに託すわ。これで工房や子供たちに仕事を与えてちょうだい」
荷物の中から小箱を取り出し、蓋を開いて中を見せた。
「なっ!? き、金貨?!」
驚愕した目をわたしに向けるコリルに、にっこり笑ってみせる。
「そう。イルアからもらうお金を貯めていたものよ。これだけあれば五年くらいは工房や子供に仕事を与えてやれるわ。コリルに苦労かけるけど、これはコリルにしか頼めないことだからあなたにお願いするの」
「……ミリアねーさん……」
「それと、工房にもこれに似た小箱があるわ。その中にはあなたに工房を譲るむねを書いた証文がある。それを商業組合に出しなさい」
昔、イルアが言っていた。保険と備えは大事と。だから、わたしがいなくなったときのためにお金も証文も用意していたのだ。あとを任せるコリルがいたからね。
「もし、辛いと、無理と感じたら商業組合に売りなさい。売ったお金はあなたの自由にして──」
「──そんなこと言わないで! まるで死んじゃうみたいじゃない!」
涙を溢れさせてわたしに抱きついてきた。ちょっと説明が足りなかったわね。
「大丈夫よ。イルアといくんだからね。これは万が一のときのため。備えよ。わたしはちゃんと帰ってくるから安心して」
泣き出してしまったコリルをあやし、落ち着かせた。
「まあ、命の心配はないのだけれど、イルアはあの通り厄介事を引きつけるでしょう? そうなると三十日で帰ってこれるかわからない。だから、その間をあなたにお願いしたいのよ」
何事もなく帰ってこれるならよし。だけど、なにかあると思って行動したほうが精神的に軽いってものだわ。
「本当ならもっと形を整えてからいきたいのだけれど、イルアはいつも突然だからね、備えられることは備えていきたいの。力を貸してくれる?」
狡い言い方をしているが、コリルを信頼しているのは本当だ。この子は賢く明るい。なにより、わたしの妹分としても認識されているのだからわたしの代役として扱ってくれるはずだわ。
「……う、うん。わかった……」
「ありがとう。コリルならできるわ。わたしが保証する」
いい子いい子と頭を撫でる。
落ち着いたら買い物へと出かける。
いつものように荷物持ちの子らを連れ、市場組の子らに王都にいくことを伝え、コリルのことをお願いした。
買い物を終えてうちに帰り、昼食の用意を一緒に始めた。
「もし、忙しいと感じたら近所の子を雇いなさい。近所のおばさまたちには話してあるから」
「ミリアねーさん、完璧なまでにそつがないよね」
「そう? いろいろ抜けているところがあると思うのだけれど」
そつがないように努力はしているけど、十把一絡げな町娘。凡才たる身では完璧とはいかない。できないことは他人の手を借りないとやっていけないわ。
「凡才だからこそ失敗しないように努力して、周りに助けてもらえるようにしているのよ」
才がないのだから努力するしかない。ないものねだりしてもしょうがないわ。
「そう言うところが凄いんですよ。普通、そこまでできないよ」
「負けたくないからね」
才のある人はこちらの努力を軽々しく追い越していき、綺麗な人は少しの努力でさらに綺麗になる。
そんな人たちと戦うには努力するしかない。負けないと強い意志を持つしかない。気持ちだけでも勝っておかないとやってられないわ。
「わたしもミリアねーさんを見習ってがんばります」
「見習うならいいところだけにしなさいね。悪いところは見習ってはダメよ」
わたしは聖人君子ではない。妬み嫉みもする普通の女だ。コリルが思っているほどいい姉貴分ではないわ。
「ふふ。だからミリアねーさんを見習うんだよ。だって、ミリアねーさんがわたしの理想だもの」
わたしが理想ね~。一番理想にしちゃダメな女だと思うんだけどな。
「ただいま~」
とうさんがまた若い人たちを連れて昼食を摂りに帰ってきた。
「お、コリル。手伝いにきてくれるんだってな。よろしく頼むよ」
「いいえ。ミリアねーさんの力になれるなら喜んでお手伝いにきますよ」
なんだかわたしのダメなところばかり見習ってる感じね。
まあ、女なんて腹黒なほうが強く生きていけるか。利用されて騙されないよう生きていくならね。
「皆さん、コリルをお願いしますね」
わたしからもお願いしておく。コリルが問題なく動けるように。そして、わたしが動きやすくするために、ね。
すぐにかあさんやにいさんが帰ってきて、昼食を出してたくさん食べてもらった。
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