第11話 コリル

「準備がありますのでこれで失礼しますわ」


 爽やかな笑顔なまま司祭様の前から立ち去った。


 そのまま笑顔を崩さず孤児院へ。完成したクッキーやジャムを持って町組の子を連れてうちに帰った。


「ありがとうね。はい、今日のお駄賃」


 いつもより多くを渡した。


「あと、わたしがいない間、コリルにうちを任せる予定だから買い物の手伝いをお願いね」


「任せてくれ。ミリアねーちゃんが帰ってくるまでしっかりコリルを守るから」


 わたしがいない間、仕事は減るだろうに頼もしい言葉をくれた。


 まあ、わたしだけの仕事ばかりだと歪になるので、他のうちの手伝いもさせているわ。もちろん、お駄賃は少ないけど、子供たちに暇を作らせて悪さをされるよりはいいと、ご近所さんからは好評だ。わたしがいなくても仕事を振ってくれるでしょうよ。


 荷物を整理し、夕食の準備に取りかかった。


 夜になってとうさんたちが帰ってきて、王都にいくことになったことを説明し、うちのことをコリルに任せることを伝えた。


「そうか。気をつけていってこいよ」


 反対は一切なかった。


「まあ、イルアがいるんだし、問題ないだろう」


「そうね。イルアだし」


 そして、イルアの信頼が絶大だった。


 ま、まあ、小さい頃からイルアを知ってるんだから信頼を持っても当然か。小さい頃から大人びて、女性には優しかったからね。


「ただいま~。遅くなってごめんな~」


 夕食が終わってからイルアが帰ってきた。


「お疲れ様。すぐに夕食にする?」


「うん。食べる」


 疲れた~とばかりに席についた。


 温めておいた野菜煮とバウンドの蜂蜜煮をさっと出すと、凄い勢いで食べ始めた。


 いつも以上に食べ、用意したものをすべて胃に収めてしまった。お腹、大丈夫なの?


 食後のコーヒーを出してあげ、それすらいっきに飲み干してしまった。


「ハァー! 腹一杯!」


「今日はいつも以上に食べだわね。なにかあったの?」


「いや、馬車を買おうとしたんだけど、荷車はあったんだけど馬がなくてさ、メイヤーの町までいったんだよ」


 メイヤーの町って、馬で走っても半日の距離よ? 十の鐘からいっても今の時間に帰ってこれないでしょう!?


「いや、走った走った、これまでにないくらい全力疾走したよ」


 馬にも勝る走りってどんなのよ? いやまあ、大人数人分の豚を投げちゃう存在だから不思議じゃないんだけどね。


「明日も早いからもう寝るよ」


「ええ。おやすみなさい」


 なにをするかわからないけど、明日もいろいろ走り回るのでしょうよ。


 イルアを見送り、すぐに明日の下拵えを開始。終わったらイルアのうちにいって湯浴みをする。


「また居間で寝ちゃって」


 寝室に戻るのが面倒なのか、すぐ居間の長椅子で眠っちゃうのよね。


 落ちた毛布をかけてあげ、額におやすみの口づけをしてうちに戻り、明日のためにすぐに眠った。


 次の朝、いつもの時間に起きると、イルアが起きてテーブルについていた。


「もう起きてたの?」


「ああ。今日もメイヤーの町までいかないとならないんでな」


 また全力疾走するのね。


「コーヒー飲む?」


「ああ、頼むよ。悪いな、朝早く」


「ふふ。いいわよ」


 釜戸に火を入れ、湯を沸かしてコーヒーを淹れた。


 コーヒーにパンと昨日作ったライドのジャムを出して、朝食までの繋ぎとした。


 冷氷庫から材料を出して鍋に入れて煮立たせ、その間にオーブンで鳥の香菜詰めを焼いた。


 その間に昼食用を作る。


 別の鍋でソーセージを煮出せて、蒸かした芋にチーズを乗せて器に移す。


 熟したマボやロモと言った生でも食べれる野菜を手提げ籠に入れ、茹で上がったソーセージに蒸かし芋、チーズ、漬物を籠に詰めた。


「イルア。冷めないうちに収納して」


「あいよ。収納、っと」


 出したものをすべて平らげ、食後のコーヒーを飲むことなく出かけていった──と思ったら、すぐに戻ってきた。


「言い忘れた。食料、いっぱい買っててくれ。魔導箱を手に入れられそうなんでな。じゃあ──」


 言いたいこと言って消えてしまった。


「……魔導箱? ってなによ……?」


 まったく意味がわからないけど、いっぱい買えと言うなら買っておくまで。なにか考えがあるんでしょうからね。


 家族が起きてきて朝食を済ませ、仕事に出かけたら片付けもそこそこにうちを出て、コリルの家へと向かった。


 コリルの家は四軒先の家で、父親は細工職人で母親はわたしが開いた工房で働いている、一般的家庭だ。


「おはようございま~す!」


 戸を叩いて挨拶すると、銀髪の少女が出てきた。


 おばさんが北欧地方出身なせいか、茶色い髪が一般的なこの町ではかなり目立った髪色だ。


「あ、ミリアねーさん、おはよう」


「おはよう、コリル。ちょっといいかしら?」


「はい、大丈夫ですよ」


 うちへ入れてもらい、お茶を出してもらった。


「実は、数日後に王都にいくことになっちゃってね、三十日くらいうちのことをお願いしたいのよ。どうかな? 一日銅貨二十枚払うわ」


 お茶を一口飲んで、単刀直入に事情を話した。


「王都ですか? また急ですね」


「そうなのよ。だからコリルにお願いにきたの。よくうちの手伝いや買い物にも付き合ってくれるコリルにしか任せられないしね」


 料理の腕もいいし、人付き合いもいい。近所の男の子からは大人気の女の子なのよね。


「わかりました。いいですよ。新しい裁縫道具が欲しかったんで」


 料理だけじゃなく裁縫の腕もいいのよね、この子。


「掃除や洗濯はどうするんです?」


「あ、それもあったわね」


 うちの掃除や洗濯はかあさんが暇をみつけてやっているけど、イルアのうちともなると誰か雇ったほうがいいわね。


「なら、ショーミーに声をかけておきますよ。あの子も裁縫道具が欲しいって言ってたから」


「あの子、針子見習いじゃなかったっけ?」


「はい、見習いですけど、ミリアねーさんのお願いだって言えば工房長も許してくれますよ。この界隈じゃミリアねーさんは発言力ありますからね」


 信頼じゃなく発言力ってところが苦笑いよね。まあ、それだけのことしてるからしょうがないけど!


「今日の買い物からできる?」


「はい、大丈夫ですよ。家の片付けが終わったらいきますね」


「ええ、お願い」


 わたしもコリルがくるまでうちを片付けないとね。

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