第6話 ふふ
朝。わたしはいつもの時間に目を覚ます。
今日はイルアが仕事にいかないとは言え、家族は仕事があるので朝食の用意をしなくちゃならないのよ。
いつものように朝食を作り、食べたら見送る。
イルアはいつ起きてくるかわからないので、片付けが終わればわたしも朝食を摂った。
モグモグとゆっくり食べていると、「ふわっ!?」と言う叫びが聞こえた。
たぶん、寝坊したと思って飛び起きたんでしょう。まったく、慌てん坊なんだから。
バタバタと騒ぐ音がして、肌着姿のイルアがやってきた。
「ミリア、寝坊した! 遅刻だ! ど、どうしよう?!」
なぜかイルアは遅刻に対する罪悪感が凄まじい。時間にも厳しいし、金貨五十枚出して魔道時計を買うくらい。異様に時間を大切にしてるのよね。
「落ち着いて。今日は休みだから大丈夫よ」
イルアが考えた暦──カレンダーの日付を指さし、休む理由を見せてあげた。
「……そうだ。剣を新調しにいくんだった……」
よかった~! と崩れ落ちるイルアにタオルを渡してやった。
「湯浴みでもしてきて目を覚ましてきなさい」
ほらっとイルアを立たせて背中を押してやる。
深いため息を吐きながらうちを出でいき、イルアの朝食を作り始めた。
しばらくして湯浴みを終えたイルアが戻ってきて、長椅子に倒れ込んでしまった。
「……久しぶりに焦ったよ……」
「そうね。はい、コーヒー」
熱いコーヒーを渡し、料理をテーブルに並べた。
ぐぅ~。
ホッとしたら空腹も目覚めたようで、長椅子からテーブルに移って食べ始めた。
「ふー。ごちそうさま」
「はい。よく食べました」
食後のコーヒーを出してあげ、片付けを始める。
「イルア、昼はどうするの?」
「弁当を頼む。時間かかるかもしれないからな」
イルアは町の食堂を利用しない。
調味料が塩とか香草くらいで、味に深みがないそうで、誘われても断っているそうよ。
わたしは町の食堂を利用したことないので本当かは知らないけど、家族も町の食堂を利用するよりうちで食べたほうが美味いと言ってたわ。
「唐揚げな! あと、ウーパイが食べたい!」
「ウーパイとなると孤児院にいかないとダメね。用事が終わったら孤児院のほうにきてくれる?」
「孤児院か。そろそろお祈りにいかなくちゃな~」
神様なんて信じてないのになぜか教会にいって礼拝堂でお祈りをするのよね。
片付けを終わらせ、寝かせていたバウンドの肉を油で揚げ始める。
「タルタルソース、作れるか?」
「ん~。ちょっと待って」
材料は揃っているけど、マヨネーズの量で作れるかどうかなのよね。
「この量だと大した量は作れないわね」
マヨネーズが入った容器をイルアに見せた。
「これだけか~。なあ、人を集めてマヨネーズ生産できないかな?」
「日保ちできる入れ物があれば可能ね」
冷氷庫は常に満杯。マヨネーズだけ入れておくわけにはいかないのよ。
「う~。やはりアイテムバッグを手に入れないとダメか~」
たくさん物が入る鞄をアイテムバッグと言うらしく、迷宮の宝箱から出るものらしい。ただ、滅多に出るものではなく、売れば豪華な館が建てられるほどと言われてるらしいわ。
「イルアのインベントリに入れておけないの?」
「二十枠すべてに物を入れてるから無理だよ。ったく、九十九個入ってくれたらよかったのに……」
そもそも大きさに関わらず二十個も違う空間に入られること自体が非常識なことなんだけど、イルアの中では当たり前のこととなっている。
まあ、そんなこと些細なことね。もっと非常識なことがたくさんあるんだからね。
ブツブツ言ってるイルアに構わずバウンドの肉を揚げていった。
十人前の唐揚げが完成。容器を出してパラの葉を敷いて唐揚げを詰めた。
「茹で卵、何個いる?」
「十個」
殻を剥いた茹で卵を笹織りの入れ物に詰め、隙間にチーズを入れた。
果物を籠に入れてハイ、完成。
「ありがとな。収納」
インベントリに収納してうちを出ていき、出かける用意してきて戻ってきた。
「買い物いくんだろう? 途中まで一緒にいこうぜ」
「ええ。わかったわ」
さっさと用意してうちを出ると、待ち構えていた子供たちが集まってきた。
「おはよう、ミリアねーちゃん!」
「はい、おはよう。今日は孤児院にいくから六人くらいお願い。あと、お昼はいないから警備する子はお昼を食べてね」
工房にいったり孤児院にいったりすることがあるから、警備する子にはお昼を出すようにしてある。家族もわかっているから出してくれるわ。
「ロイド、マイロー。頼むぞ。ライド、孤児院組に話を通してこい」
町組頭のロブがぱっぱと指示を出す。
「……ミリア、すっかりこの町のボスになってるな……」
「わたしは子供たちに仕事をお願いしているだけです」
ボス的立場になっているのは否定できないけど、わたしは一般人。聞こえが悪いからそんなこと言わないでください。
「あと、孤児院のオーブンを使うから火を入れておくように伝えておいてくれる?」
「わかった。ナタリア、孤児院に連絡だ」
「うん、わかった!」
オーブンを使うと聞いて、子供たちのやる気がいつもの倍に膨れ上がっている。
まあ、甘いクッキーをお裾分けしてもらえるとわかっているので仕方がないわね。
ただ、砂糖の消費がまた跳ね上がるのが困ったものね。
「ミリアねーちゃん、荷物持つよ」
「ありがとう。お願いね」
砂糖や道具が入った背負い籠を渡し、市場へと向かった。
「……町だとミリアと一緒にいれないな……」
そんなこと呟くイルアに自分の腕をそっと触れさせる。さすがに子供たちの前で手を繋ぐのは恥ずかしいからね。
わたしがしたことに気がついたイルアは、さらに腕をくっつけてきた。
ふふ。イルアったらしょうがないんだから。
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