第5話 寛容
「ステータスオープン!」
あら、イルアが帰ってきたわ。
「今日はやけに早い帰りね?」
いつもなら暗くなってから帰ってくるのに、明るいうちに帰ってくるなんて珍しいわ。
「困ったわ。まだ夕食できてないのに」
まあ、湯浴みをするからまだ時間はあるけど、それでもテーブルには出せないわ。しょうがない。違うものを作りましょうか。
貯蔵庫からソーセージを持ってきて茹で、ポロムパンに切れ目を入れて茹でたソーセージを挟む。
イルア命名のホットドッグを十個ほど作ったら湯浴みを終えたイルアがうちにやってきた。
「ただいま~」
「おかえりなさい。今日は早いのね。なにかあったの?」
「いや、今日は魔物との遭遇率が悪くてな、諦めて帰ってきた。それに、唐揚げが食いたいし」
と、バウンドの肉をインベントリから出した。
「凄い量ね」
十ルブとのはずだったのに、軽く二十ルブはあるわよ。
「近所にお裾分けしなよ。バウンドの肉は人気があるんだろう?」
正しく言うならバウンドの肉を唐揚げね。ショーユも砂糖も油も貴重なもの。食べようとしたら数日分の食費が天に召される。滅多に食べれない美味しいものなら人気になっても無理はないわ。
「そうね。イルアの名前でお裾分けしておくわ」
まあ、わたしの苦労は料理をする労力だけ。どっちにしろ二十ルブも冷氷庫に入らないしね。
「はい。今日の稼ぎだ」
不調な割りにいつもより多い額を渡された。中身を見たら金貨だけだった。
「地下六階で金級の牛頭が出て幸先いいと思ったのに、それからさっぱり。参ったよ」
迷宮のことはよくわからないけど、金級の魔物と言えば騎士団が出動する出来事だ。それを単独で、それも苦もなく倒しているんだからイルアって非常識よね。
「これだけあるなら手伝いを雇っていいかな? 料理が複雑になるとわたしだけでは追いつかないのよね。マヨネーズ作るのも大変だし」
イルアが望む料理って手間のかかるものばかりなのよね。
「いいんじゃないか。オレはマヨネーズが切れたら死ぬ」
マヨネーズが好きな者をマヨラーと言うらしいが、鐘一つ分かけて作っても次の日の朝にはなくなってしまう。腱鞘炎になってしまうわ。
「じゃあ、一日銅貨六枚で雇うね」
料理補助だし、丸一日雇うわけじゃない。腕が上がってきたら給金を上げたらいいんだしね。
「人はいるの? あ、ホットドッグ食っていい?」
「どうぞ。夕食までの繋ぎにして。人はコリルを雇うわ」
コリルは近所の子で十二歳。忙しいときはお願いしている子なので問題なく雇えるはずだわ。
「コリルか。最近見てないな~。元気にしてるのか?」
「元気みたいよ。内職してるからここ数日は会ってないけどね」
女の子は主にうちの仕事や針仕事をしている。外に仕事に出る子は少ないのよね。
「そうだ。明日は休むから」
「あら、珍しいこと。明日雨なの?」
レベルアップ命なイルアが休むときは雨の日か寒い日くらいだ。
「いや、剣が折れたからロドさんところに頼みにいくんだよ」
「金貨三十枚もした剣、折れちゃったの?」
剣は消耗品とは言え、去年造ったばかりのもの。毎日使う包丁だって何十年ともつのに。
「牛頭が金棒持っててさ、思いの外硬くて剣が負けたんだよ。まったく、嫌になるぜ」
そりゃ、なるでしょうよ。金貨三十枚が吹き飛んだんだからね。
「伝説の剣、売ってないかな~」
「売ってたら伝説じゃないでしょう」
伝説の剣がこんな町に売ってたら確実に詐欺。買ったら確実にダメよ。
「アハハ。ミリアは突っ込みサイコー!」
「褒められても嬉しくないわよ」
「唐揚げよろしくな」
イルアのバカ話に付き合ってられないので夕食作りを再開させ、唐揚げ作りもする。とうさんたちが帰ってくる前になんとか用意できた。
今日も今日とてたくさん食べるイルアや家族。食べたらコーヒーを飲みながら家族の団らんをして、とうさんたちは早々に眠りへとついた。
「おじさんたち、寝るの早いよな」
「体力を使う仕事だからね」
大体の人は夕食をしたら寝る。わたしは、明日の仕込みがあるからまだ寝ないけどね。
「なーに?」
仕込みをしてたらイルアがわたしを見詰めていることに気がついた。
「……あ、いや、可愛いな~と思って……」
「褒めたってなにも出ないわよ」
わたしにできるのは美味しい料理を出してあげることだけよ。
「それに、簡単に女を褒めるものじゃないわ」
「普通、褒めるもんじゃないのか?」
「それは下半身の緩い男がすることよ。イルアの下半身は緩いのかな?」
フフって悪戯っぽく笑う。
男の性欲がどんなものかおばさま連中からよく聞いている。ところ構わず発情している猿だってね。
まあ、男の性にどうこう言うつもりはない。そう言う生き物だからね。だから、イルアが内緒で色町にいったこともなにも言わない。命を賭けた仕事をしていると女に癒されたいそうだからね。
下手に誰構わず手を出さないのなら色町にいくくらい容認してあげないとね。
「わ、わかった。けど、ミリアは可愛いのは本当だからな!」
そう言うとうちを飛び出していってしまった。
「フフ。ウブなんだから」
鼻歌を歌いながら片付けと仕込みを続けた。
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