第4話 午後
お昼前に買い物は終わった。
毎日のことながら今日もたくさん買ったものよね。荷物持ちの子がいなければ重労働だったでしょうよ。
「じゃあ、帰りましょうか」
荷物持ちの子供たちを引き連れて家へと帰る。
なかなか目立つ行列になるけど、もう今さら。近所の人たちも慣れたので誰も声をかけることもないわ。
「ご苦労様。今日もありがとうね」
家につき、荷物を運んでもらってから子供たちに報酬を渡した。
「ミリアねーちゃんありがとうございました!」
子供たちが行儀よく並んでお礼を返してくれた。
こうしてしつけることで近所のおばさまから反感を買うことはなく、わたしの行為を受け入れてくれる。
町で暮らすならご近所さんの支持は必要不可欠。ただでさえイルアを狙う女たちから反感買ってるんだから、おばさま連中を味方にしないと生きていけないわ。
「ただいま~」
スープを温め直し、リンリンを洗って壺に塩漬けにしてると、とうさんが昼食を摂りに帰ってきた。
とうさんは町の大工で、町の中の仕事がほとんど。お昼休みも長いのでうちまで帰ってくるのだ。
「おかえりなさい。あら、皆さんもご一緒なのね」
雇われ大工なとうさんだけど、一つの組を任された頭なので、配下が何人かいる。
だからこうして、まだ結婚をしてない若い人を連れてくることがあるのだ。
「すまない。若いヤツらに昼を食わしてやってくれ」
「ええ、わかったわ。皆さん、どうぞ」
頭としての立場があるので笑顔で迎える。いい印象を与えておけばいつか味方になってくれるでしょうからね。
……腹黒と言うことなかれ。これは自分の身を守るための行動。弱いわたしの処世術なんです……。
「いただきます!」
「はい。たくさん食べてくださいね」
昼はそんな手の込んだものは出さいんだけど、力仕事している人たちのお腹はイルア並みに広い。
夜まで持つスープがすっからかんになってしまった。パンも買い足さないとダメね。
「ごちそうさまでした!」
「はい。よく食べました。午後もしっかり働いてください」
「じゃあ、いってくるよ」
とうさんたちを見送り、わたしも昼食を済ませた。
「まずマルヤムさんところにいかないとならないかしらね~」
カフェオレを飲みながら午後の仕事を考える。
「誰かいるかしら?」
うちの外に出て、辺りを見回すと、孤児院の子がいた。よかったわ~。
「ミリアねーちゃん、仕事?」
「ええ。ターナがいてくれて助かったわ」
ターナは六歳の女の子。まだ小さく力がない子は、お駄賃欲しさにわたしの周りにいたりするのだ。
「マルヤムさんのところに走ってパンの注文をしてきてくれる? わたしがいつもの量をお願いしますって言えばわかるから」
小さい子にお金を渡すのは危険なので、知り合いのお店だけで使える木札(価値としては小銅貨半分ね)を渡した。
「わかった!」
駆けていくのを見送り、視界から消えたらうちへと入った。
片付けを済ませ、夜のスープの下拵え、中火で煮ている。その間にイモを洗い、別の鍋に入れて煮た。
次々と下拵えを済ませたら、今日の朝に産み落とされたゲッカの卵をぬるま湯で洗い、半分を煮て、半分をマヨネーズに使う。
マヨネーズはイルアから教えてもらった調味料なんだけど、これがまた作るのか大変なものである。
一心不乱にかき混ぜ、夕方には今日と明日の朝の分ができた。ふぅ~。
できたマヨネーズを冷氷庫に入れ、ちょっと一休み。
「こんにちは~」
と、工房を任せてるジーナおばさまがやってきた。
「ど~ぞ~」
座ったまま返事をする。ジーナおばさまはかあさんの姉。伯母さんだ。
「休憩中かい?」
「ええ。マヨネーズ作りで疲れちゃって。なにか飲みますか?」
「じゃあ、カフェオレを頼むよ。砂糖いっぱいでね」
「はいはい」
昔は美人だったおばさまも今では肝っ玉かあさん。色気より食気になっているわ。
甘いカフェオレとクッキーを出してあけると、遠慮なしにクッキーを口に放り入れた。
「ほどほどにね」
それ以上太ってもわたしは知りませんからね。
「最近、工房にいけなくてごめんなさいね。仕事は順調?」
「順調どころか仕事が舞い込みすぎて人を増やしたいくらいだよ」
「忙しくてなによりじゃない。人が欲しいなら孤児院に声をかけるわよ?」
孤児院の子、特に女の子はなかなか職にはつけない。つけたとしても低賃金の仕事しかないのよね。
「なら、二人追加で頼むよ。本当は五人は欲しいところなんだけどね」
人がいればいいと言うものではない。できるように育てなくちゃならないのだから無闇に補充したりはできないのよ。
「明日、孤児院にいってみるわ。今日、市場で大量にライドを買ったからね」
「ライドかい。いいね。ジャムができたら分けておくれよ」
「イルアのお金から出てるんだからお裾分けていどだからね」
優先させるべきはイルア。おばさまと言えたくさんあげることはできないわ。
「わかってるよ。あんたはイルア優先なんだからね」
「イルアのお金でやってるんだから当然でしょう」
「はいはい。そうだね。じゃあ、またくるよ」
お皿に盛ったクッキーをすべて平らげてうちを出ていった。
「ハァ~。クッキーも作らないとダメね……」
孤児院にオーブンを造らせてよかった。もううちではクッキーを作る場所がないからね。
「ちわ~。パンを届けにきました~!」
もうきちゃった。相変わらず焼くのが早いこと。
「中へお願いしま~す」
よし! と気合いを入れ、席から立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます