第145話 その5
サラダを食べ終えた2人は、全身で清々しい感覚の余韻に浸っていた。
次の料理が来る。
「コンソメスープでございます」
先ほど呑んだ白ワインの黄金色をもっと濃密にしたような、深い黄金色のスープにスプーンを入れる。
スープ皿から漂う香りが鼻をくすぐる、複雑な旨味を感じる香りだった。
スープを口に運ぶ、頬が弛む、弛みすぎて溶け落ちてしまうのかと思った。
「頬っぺたが落ちるってこういう事だったんですね」
千秋の言葉に護邸は応えない、どうやらスープの材料が何なのか舌で探っているようだった。
「だめだ、何のスープだか分からない。ものすごく複雑な旨味だ」
「常務ってグルメなんですね」
「それ程でもないよ、自炊しているから少し料理に興味あるだけだ」
「自炊?、奥様は?」
「5年前に別れたよ、今は独り身だ」
「すいません、余計なことを訊きました」
「気にすることはない」
スープを飲み干すと、次の料理が来た。
「舌平目のソテーでございます」
ソテーされた舌平目にホワイトソースが薄く塗られている、バターの香りが深呼吸を強制的にさせる。
休憩していたグラスに白ワインが注がれる、千秋はすでに料理の虜になっていた。用心はもうしていない。護邸に遠慮せず、ナイフとフォークを手にすると舌平目にナイフを入れた。
つぷ
ナイフを通して右手に快感が走る。これだけでよだれが出そうになる、口に入れて噛んだ時の想像が頭に浮かんだ。
想像を実体験に変える、口にバターによって旨味の段違い平行棒になった舌平目の味が体操選手のように暴れまくる。
「これは凄いな、普通舌平目はムニエルにするものだが、それは火を通すとパサつきやすい魚の調理の為の工夫だ。だが人によっては小麦粉が舌平目の味わいを邪魔すると感じる。このソテーは全然パサついてない、火加減の妙だな、すばらしい。その上バターの風味が強いホワイトソースを薄く塗ることで、しっとり感がねっとり感にまでに変わっている。美味しさが舌全体にねっとりと絡みつく……」
どうやら護邸は美味しい物を食べると饒舌になる
これがまた白ワインと合うらしく、千秋はあおるように、ぐいっとグラスの中身を飲み干した。
「アルコールに強いとは聞いていたが、本当のようだね」
護邸は千秋の呑みっぷりに目を白黒させた。
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