第141話 ミダスという名
「どうしたの、またドレスが必要なんて」
蛍の質問に、千秋は今夜の事を簡潔に答えた。
「大丈夫? 変な仕事じゃないの」
蛍の部屋でドレスに着替えて、化粧をしながら蛍の心配に千秋は答えられずにいる。
「う~ん、正直わかんない。常務の事はそうだな、信じられない ではなく 油断できない というimageかな。上手く言えないけど、手段は選ばないけど、dirtyな事はしないと思う」
「よく分かんないけど、油断してはいないのね。ならいいか」
何がいいのかわからないが、一通り支度が終わった千秋は時間を確認する、待ち合わせの時間まであと30分程だった。
蛍から春コートを借りると、駅まで送ってもらい、ふたたび名古屋に戻り、待ち合わせ場所に向かう。
名古屋駅近くのホテルの地下にある、長い歩行者通路を進む。
「通路の駅側から数えて13個目の黒の大理石の柱ってここよね」
時間を確認すると、待ち合わせ時間ちょうどだった。来た側も進む側も何もなく、見通しのよい何百メートルもある通路だ。誰か来るならかなり先から確認出来るくらい何もない。
(こんなところで、待ち合わせなんてどういう事だろう)
そう思っている千秋の背後から、声をかける者がいた。
「サノチアキ様ですね」
吃驚して振り向くと、タキシード姿の男が立っていた。身構えていると、
「護邸様から承っています、こちらへどうぞ」
うやうやしく頭を下げられ、黒の大理石の中間にできたエレベーターらしき空間にうながされた。
正直、千秋は混乱していたが、ずっとこうしていても仕方ないし覚悟を決めて入ることにした。
千秋が入るとタキシード男も乗り込み、壁にあるボタンを操作し扉を閉める。すると上にあがる感覚に襲われた。やはりエレベーターなんだなと千秋は思った。
エレベーターの中を見回す。
タキシード男の身体に隠れているが、開閉ボタンと上下ボタンの4つしかなかったのと、エレベーター特有の階数表示も見当たらないし、メーカーのエンブレムも無い。不思議なエレベーターだ。
身体に負荷がかかる、どうやら着いたようだ。しかし、何階に着いたか分からない。
扉が開くと、タキシード男は降りるようにうながす。
千秋は降りると続いてタキシード男も降り、前に立つとご案内しますと言い、先に進む。それの後についてゆく。
赤いふかふかのカーペットに両方は白い壁、通路の幅は横並びになると人が4人、楽に並べる。これはホテルの通路だなと千秋は感じた。それは当たりのようで、エレベーターから少し進むと両壁には扉が並んでいた。
その中の1つの扉の前に来ると、タキシード男はノックし、そこを開けて千秋を招き入れた。
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